第六章 その陰を知らず



「アス、剣は」

 腰にさげた黒い剣を示す。頼むぞ、と言うと頷いて返した。国軍兵士を倒した実力をこの場でアテにしたいとは思わないが、もしもの時はアテにせざるをえない。

 よし、と言って腕を出す。皆も応じるように腕を出し、拳を突き合わせた。

「やるぞ」

 それぞれ腹に力を入れて気合を込め、散開する。カリーニンとアスの手首に同じものを認めたバーンは、微かに笑って動いた。


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 人の姿一つ見えない表通りは、ただ立っているだけでもあまり気持ちの良いものではない。犬の鳴き声でも聞こえればいいものを、仕事の邪魔にならぬようにと静寂が彼らの味方をしてくれた。どうしても夜行動が多いため早いところ慣れたいものだが、この澄み切った静けさはどうにも足元をそわそわさせる。やましいことをしているという後ろめたさからか。

「なあ」

 隣で辺りに神経を尖らせるラックに声をかける。自ら静寂を破るのは勇気がいったが、実際声を出してみればなんのことはなかった。

「あいつ、どうなんだろ」

「何が」

 リヒムは気付かれぬように小さな動作で、門前にカリーニンと立つアスを指した。月明かりに照らされて夕陽色の髪が美しい。だが、その下の無表情が見る者を不安にさせる。

「バーンはああ言ってるけどさ」

「なら従うまでだろうが。カリーニンもいるんだし、大丈夫だって」

「でもさあ……」

 やけにしぶるリヒムに苛々とする。ただでさえいつもと勝手が違うのに、こんなところで駄々をこねられても困る。あっち見てろ、と言って自分の背後を指した。ラックの物言いに逆らえぬものを感じ取り、リヒムは渋々と従う。どうして得体の知れない余所者に見張りをまかせられるのか、わからない。

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