第六章 その陰を知らず
さて新入りは、とアスを微かに振り返った。外套の下の顔は何も映していないように見えた。
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暗闇を駆ける人影とささやかな足音が夜の静寂を脅かす。昼間は賑やかなアンカーの街も夜は寝静まり、唯一賑やかな繁華街も領主の屋敷からは遠い。やりやすい、とバーンは口許に笑みを浮かべた。
人気のない屋敷裏で十人ほどの人影がたむろする。右足、左足にそれぞれ体重をかけながら囁きあう様子はどこぞの若者が集っているようにも見えるが、その内容は物騒極まりない。
「オレたちが盗みをやる」
バーンは指で隣四人を指した。カリーニンの脇に立つ男が尋ねる。
「場所は?」
「地上。領主の部屋の中に隠し扉がある」
ひゅう、と誰かが口笛を鳴らした。
「やるな」
「それだけ中身も期待出来る。屋敷裏はザルマたち、横はそこの通路一つだけだからお前ら二人で固めとけ」
そこ、と指差した先には馬車が一つ通れるか通れないかくらいの道が表へ通じている。
「カリーニンとアス、それとリヒムとラックは表だ」
カリーニンは頷きこそしたものの、リヒムとラックは不安そうにアスをちらりと見る。夜だからと外套を外した様は普通に見えるが、目の暗さは信用の置けないものを宿していた。
「大丈夫かよ」
リヒムが茶髪の頭をかきながら訊く。バーンは厳しい口調で答えた。
「他にいい案でもあるのか」
盗みの計画に関してバーンが間違ったことはない。それがわかるだけにリヒムに反論の余地はなかった。消え入りそうな声で承諾するリヒムの腹をラックが小突いて笑う。その様子を横目に見ながらバーンはアスに向き直った。
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