第六章 その陰を知らず



 商人根性と身の安全を秤にかけ、どちらに傾くなど待つまでもない。彼が許される行動は頷くこと、ただ一つのみだった。


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 少し暗くなった路地で上機嫌に腕輪を撫で回すザルマに、カリーニン共々アスまで呆気にとられたようで、それまで向けられていた警戒心はすっかり消えて失せていた。ともすれば鼻歌でも歌いかねない機嫌の良さは、相当に良い買い物をした証なのだろう。未だ手首に居座ったままの腕輪を見下ろしながら、心の底で店主に謝る。あの値切り方はどうにも反則技な気がしてならない。

「グラミリオンでもやったのか、こんなこと」

 気になって呟いた言葉に返ってきたのは、あっさりとした声だった。

「やってないわよ。見たことないもの」

「……は?」

 唖然として足を止める二人を振り返る。

「グラミリオンとリファムの国交なんて高が知れてるでしょ。商人だって向こうの相場なんて知らない奴はいるし。知る必要もないしね」

 グラミリオンはリファムの南に隣接する国で、鉄鉱石などの採掘を主とする。実質的にはリファムの属国であるために、採掘量の半数以上はリファムへ流れるのだが、残りで国庫を補っていた。そのため市場として目をつける所でもなく、加えて、何かを買うぐらいならば作るという国民性からか、あちらで成功する商人など小指の先ほどもない。そのため、グラミリオンの相場よりも重視されるのは、大国であり、多くの金と人が行き来するリファムの方だった。

 間違ってはいない。間違ってはいないのだが、それを盾に値切るのも道理に合わない気がする。

「それで押し通そうと思ったんだけどね、気弱な奴で良かった。カリーニンにも感謝しなきゃ」

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