第六章 その陰を知らず
「どう?」
もう一つ同じ作りのものをアスの手首にもはめて、並べてカリーニンに向ける。どう、と言われて否定するほど野暮ではない。いいんじゃないか、と曖昧に答えた。するとザルマはにこりと笑ってあぐらをかいている店主に声をかける。
「男物ってないの?」
すぐさま「あるよ」という軽快な声がし、広げられた商品の隅から大振りな腕輪を渡す。受け取ったザルマはカリーニンの手を取り、その手首にはめた。
「あら、いいじゃない」
いい、と言われても、それまでアクセサリの類を身につけたことのないカリーニンにとってはむず痒いものでしかない。苦笑して外そうとする手を制し、ザルマは店主に話しかけた。
「全部でいくら?」
「おい……」
止めようとするカリーニンを更に制し、店主から提示された金額に唸る。
「ちょっと高くない?」
「女物二つに男物一つで五千イシル。安いもんだよ」
「グラミリオンだとこの半額ぐらいで同じぐらいの売ってるわよ」
知るか、と反論する。
「こっちの方が精度は上だ」
「見たことないんでしょ」
ぐ、と言葉に詰まる。見たことのないものに対し、浴びせる罵声はないということか。良心的な店主が可哀想に思え、カリーニンはザルマに声をかけた。
「おれのはいい。二人で買……」
え、と言葉を続けることを許さないというかの如く、ザルマの足が思いっきりカリーニンの足を踏みつける。踏みつけられた甲はじんじんと痛み、あまりの痛さに言葉を失った。
巨漢を黙らせた女、という情報が店主の頭の中を巡る。ザルマはにこりと笑顔を向けた。
「……半額ぐらいにならない?」
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