第六章 その陰を知らず
どういうわけかザルマにのみ大人しく付き従うアスの、他者に対する警戒心が自らに向けられても文句は言えなかった。バーンの命令とは言えあまり気持ちのいいものではない。この後、自分が剣を教えることをアスに言ったならばこの警戒心はどう変化するのか。見てみたい気もしこそすれ、どうにも不安が拭えなかった。
教える前からこの難題か、と肩を落としたくなる。
少し前を歩くザルマは僅かにカリーニンを振り返り、ごめん、という仕草をしてみせた。悪気があるわけではないが、不快にさせたとでも思ったのだろう。手を振って返した。
しかし、異様な光景である。
旅人に外套をまとった者は多いが、頭からすっぽり被ったままの者は早々見当たらない。そのためなのか、道行く人の視線は常にアスに向けられ、目立つことこの上なかった。しかも夕刻せまるこの時間、人の往来は激しくなるばかりである。仕事前から目立つのは避けたいところなのだが。
「カリーニン!」
通行人に目を光らせていると随分と先の方でザルマが手を振っていた。小さな露天の前で立ち止まっている。
「何だ」
近づくカリーニンにザルマは露天の店先に並ぶアクセサリを指差した。
「綺麗じゃない?」
言われてみれば確かに、華美とは言えない装飾ばかりだが、落ち着いた風合いの手の込んだ細工が目を奪う。首飾りから耳飾、花とも動物とも言えない独特の模様にささやかな宝石は細工師のセンスの良さを思わせた。ザルマが手に持った腕輪などはそのまま防具にでもなるのではと思うほどに頑丈な作りだが、手首にはめてみてなるほどと思う。
誰かを飾ることによって初めてその本領を発揮する作りか。感心してくすりと笑った。
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