第六章 その陰を知らず



 話の収束を感じたカリーニンは軽い調子で応じた。

「明日の夜までは自由にしていい。それで……」

 バーンが言葉を次ごうとした時、遠く地を揺るがすような轟音が夕闇を切り裂いた。音そのものは小さいものの、空気を伝わり、風よりも強く窓を揺るがす。

 唖然としながら共に窓を見つめ、振動が収まった時、カリーニンが口を開く。

「……大砲か」

「ここの時刻の知らせ方なのか」

「らしいな」

 次に言うべき言葉が見つからず、まだ音の余韻を耳にしているとバーンは「これにしよう」と言った。

「この大砲が鳴ったら仕事だ。配置はいつも通りでいく。アスはお前の側だ」

「皆に伝えとく」

 ようやく解放されて退室しようとした時、カリーニンはふと気になって振り向いた。

「一つ聞いていいか」

 燭台に火を灯そうとしているバーンは振り向かずに声のみで応じる。

「何でアスにこだわるんだ」

 唸る声がマッチをする音に重なり、やがて笑いを含んだ声が聞こえた。

「悪化したかな」

「何が」

 火を灯して僅かに明るくなった部屋で、バーンはにやりと笑ってみせる。

「拾い癖さ」


+++++


 明らかに不服そうであった。外套のフードに覆われて表情を窺うことは出来ないが、その下から突き刺さるような視線が自分に向けられているのがよくわかる。

「こっち行こう」

 ザルマが気を利かせてアスの手を引くが、アスの意識は確実にカリーニンの方を向いていた。

 無理もないか、と自分のことながら呆れてしまう。二人で出かけるというところを無理矢理についてきたようなものだ。ザルマにはバーンからも話があったようだが、アスには自分が師になることを告げていない。

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