第六章 その陰を知らず



「アスは未熟だ」

「……まだあいつの戦い方を見てないから、何とも言えんな。言い切る理由は?」

「剣もそうだが、人としても未熟だな。あいつを導くのはオレでもザルマでも駄目だ」

 自らもまだ成人してもいないくせに何を言うか、と笑ってやりたくなった。だが、と笑みをおさめる。バーンの倍は生きているカリーニンよりも、バーンの方が遥かに沢山のことを経験している。それがどんなことであれ、彼を培った一部であることに間違いはない。笑みをおさめて苦笑に留めておいた。

「オレはあいつを導けるほど出来ちゃいない。ザルマも剣士じゃねえ。ここまで言えば、言ってる事がわかるな?」

 ゆらゆらと漂うばかりだった不安が初めて形を成す。苦笑をさっと隠したカリーニンは立ち上がり、扉に向かいながら手を振った。

「勘弁してくれ」

「オレに教えてくれたじゃねえか」

「お前だからだ。飲み込みも早いし、何より意思の疎通に問題がない」

「そんなのどうにでもなる。そんなことで及び腰か」

 やけに食い下がるバーンに半ばむきになって返した。

「皆が何言ってるかお前わかってるのか。あいつは不気味だ。敵か味方かもわかりゃしない。笑いもしない。何を教えられる?」

 今まで押し込めていた本心をさらけ出すも、爽快感はなかった。ただ後味悪く立っていると、更にバーンが畳み掛ける。

「連中はまだあいつをよく知らない。知らない奴が何言ったって何にもならねえよ。ただ、お前は知る必要がある」

 窓の外が暗くなり始めていた。風はずっと窓を揺らしている。かたかたと鳴るその音のみが沈黙を埋めた。

 カリーニンを見つめるバーンにも、またバーンを見つめるカリーニンにも影が落ちている。しかし、両眼に宿る光の強さはバーンの方が上だった。

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