第六章 その陰を知らず



 まだ言葉を待っている風のバーンに向かって小さく呟く。

「少なくともザルマには懐いているな」

 先刻見た光景を思い出しながら言った。

「ザルマか……」

 息を吐いて頬杖をついた手はそのまま、顔を下に向ける。その様子が落胆しているように見え、カリーニンはバーンの向かいに座りながら問うた。

「何かまずいのか」

 手を下ろし、膝の間で手を組んで低く問いかける。

「ザルマは女だろう?」

「……お前の頭を心配するつもりはないんだが」

 心配するでもなく言い放つ。しかし、咎めるでもなく、バーンは「違う、違う」と言いながら笑って手を振った。

「ザルマが女なのは、それはそれでありがたい。けどザルマは剣士じゃない」

 カリーニンは思わず無言で髪をかきあげる。

 一向に話の真意を述べようとせず、ぽつりぽつりと吐き出される言葉から何を言いたいのか推し量ることが出来ない。安い酒で酔ってくれるならばさっさと酔って頂き、早々に退散したい気分だ。

 意味のわからない会話は得意ではない。

 だが、無言の圧力も空しく、バーンの態度に変化はなかった。

「ザルマは剣士じゃねえんだぞ?」

 わからないのかとでも言いたげに眉をひそめた。喉元まで出かけた罵声を押しとどめ、膝の上で頬杖をついて嘆息し、肩をすくめてみせる。

 その様子にバーンは一度天井を仰いでから、勢い良くまくしたてた。

「あいつは剣士じゃない。だからあいつはアスの師にはなれない」

 ザルマが得意とするのは槍である。女性ながらその腕は一団の中でも抜きん出ており、戦闘能力の高さは誰もが認めるところだ。

 そう、確かにザルマは女であって剣士ではない。

 バーンは声の調子を落とす。

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