第六章 その陰を知らず
「……あいつは?どうしてる」
アスのことかと察し、腕を組んで天井から視線をバーンに転じた。
「ザルマと一緒に庭見物」
「ならいい」
「随分、気にかけるな」
「お前は気にならないのか」
逆に問われ、返答に窮する。言ってもいいのだろうか。
試されているのか確かめられているのか、カリーニンは考えた。しかし、そのどちらもバーンの性分に合わないことはよく知っている。下手に言い繕うよりは、はっきりと意見を述べた方がいい。自分の意見を確実にするためにも得策に思えた。
「……どうにも信用できんな」
口を開いたカリーニンの顔を斜陽が照らす。彫りの深い顔は不審を露にしていた。
「ハヴァニウムが何を狙ってあいつを探しているのかもわからんときたら、信用しろと言う方が難しい。わざわざそんなことを聞くのは、お前もそうなのか」
バーンは身を乗り出して頬杖をついた。かたかたと窓が風に揺れている。たった数秒の沈黙がやけに長く感じるのは自身に迷いがあるからか。
「あいつはオレらを信用してると思うか?」
「わからん」
溜め息と共に言葉を吐き出す。真実、心から出た言葉だった。話せないことを抜きにしても、アスにまとわりつく不審は減ることを知らない。耳にする話、言葉が全てアスを指差して警鐘を鳴らす。
妙な剣に付け加えて、話せない。この二つの事実にあの血を見れば、おのずと不審は募る。信用するまでもなく、むしろこのままエルダンテに引き渡した方が遥かに良い。自身がこう考えているならば、仲間が見慣れぬ異端に対し敵意を抱くのも時間の問題のように思えた。上に立つ者の不安が下へ波及するのは恐ろしく早い。
だがバーンは、と表情を盗み見る。信用しているか否かを問いながらも、その顔に不安はない。表情豊かな顔をする少年だが、こういう時に自身の感情を露にしないのはさすがとも言えた。
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