旧本部に向かう道中、誰かのように舌を噛まない程度になされたハルカとの会話は拍子抜けするくらいいつも通りだった。
「昨日怒られたんだって?馬鹿だな」とか、「隈が酷過ぎてブサイクになってるぞ」とか、習慣になりつつある俺の憎まれ口にも、「お前の小さい頭よりは脳みそが詰まっている」だの、「リヴァイの好きな綺麗な顔を早く取り戻さないとな」だの、普段通り頭にくる言葉を返してきた。
対エルヴィンにおいてのみ変化があったと言える。それもそれで腹が立つが、余所余所しくされるのに比べれば痛くも痒くもなかった。



「ハルカ補佐官…?」

旧本部の一室に集めたハンジと班員はハルカがいることに驚いている様子だった。まともに会話もしたことがなく戸惑っていたエレンに、ハルカは安心させるような微笑みを向ける。これがコイツの怖いところだ。
半分呆れながら黒板に向かい説明を始める。

「エレン、お前を殺すしかないと言ったが半殺しに留める方法があった。うなじの肉ごとお前を切り取る。その際、手足の先っちょを切り取ってしまうが、どうせまたトカゲみてぇに生えてくんだろ?気持ち悪い」

チョークで親切に図解してやりながら言った俺に、エレンが顔を青くした。
待ってくださいっ、どうやったら生えてくるかわからないんです、他に方法は…。
冷や汗をかき、詰め寄ってくる姿にすーっと気持ちが冷えていく。ガキが、と思ったとき窓際で壁に寄りかかっていたハルカがハッと笑った。


「何の危険も冒さず、何の犠牲も払いたくありませんって?」


この部屋に入ってから初めて声を発したハルカに、エレンは吃りながら「い、いえ…」と小さく否定した。
あぁ、まただ。柔らかく微笑んでいるのに、表情とは真逆の冷淡な言葉。


「お前はどうも自分がどういう存在が理解していないようだな。巨人化し理性を無くして友人を殺そうとした過去がありながら、随分とお気楽な奴だ。ここにいる者は皆、危険性はあるのに安全性の確証がないお前と四六時中共に過ごしているんだぞ。いつ殺されるかわからない恐怖を抱える兵士の前で、お前は痛い思いは嫌です、と?

甘えてんなよ、クソガキ」

「ハルカ補佐官っ、そ、そのくらいに…」

ペトラの制止で言葉を止めた笑顔のままのハルカと、泣きそうになっているエレン。全て事実なだけに他の奴らも微妙な表情で口を閉ざしている。

「…要は、腹を括れってことだ。いいな?」

「はい…わかりました…」

なんで俺が気を遣ってんだ。そもそもハンジは何やってんだ。教卓の上に座っているクソメガネを見ると、フーッフーッと鼻息も荒く顔を紅潮させていた。


「じ、じゃあ…実験していいよね?」


そうだった、巨人化の実験だった。




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