「あ、あの!ハルカ補佐官っ!」


ミケがナナバとゲルガーに連れて行かれ、リヴァイがハメを外しすぎているオルオを制裁しに席を立ったあと、ハルカを呼ぶ声におや?と思った。

ハルカ・リシャールっていう人物は見た目の良さと有能さから負の印象は皆無に等しいが、その完璧さというか隙のなさから、憧れこそすれ、親しくなろうと試みる者はとても少ない。仕事の時はほぼエルヴィンといるし、それ以外はリヴァイが番犬よろしく隣を陣取っているのも大きな理由だろうが、わかっていながら改善する様子もないので完全に人よけとして利用しているのだろう。
実際、長い付き合いの私たちを除いて交流があるのは、ハルカが気に入り自ら絡み始めた極少数の人間だけだ。全く統一性のない、てんでバラバラな、しかも気分で弄ばれる彼のお気に入り達の代表格は、いわずもがなリヴァイである。次いで、ゲルガー。理由は「酒を見ながら食事する様が面白い」と言っていた。全く意味がわからない。

まあそう言った事例もあり私とエルヴィン、ハルカ自身さえもバッと顔を上げ声の主を確認したのだが、三人とも「あぁ、なるほど」と納得した。
そこにいたのは見覚えのある、むしろ忘れられない新兵二人で、一瞬で何をしに来たかわかってしまった。恐らく、リヴァイが立ち去るタイミングを見計らってきたのだろう。さすがに怖いだろうし。

「どうした?」

わざとしくすら感じる笑顔でこてんと首を傾げるあたり、どこまでもハルカはハルカだと思う。エルヴィンもさすがに苦笑していた。

「新兵のミカサ・アッカーマンです。ハルカ補佐官、先日の審議所での件、本当に申し訳ありませんでした。私の個人的な感情で上官に手をあげ、お怪我までさせてしまったこと、深く反省しております。全て私が間違っていました。本当にすみません」

「同じく、アルミン・アルレルトです。僕からも謝罪させてください。申し訳ありませんでした。
更に寛大な措置、ありがとうございましたっ」

深々と頭を下げるミカサとアルミンに、いや〜今時の若者はしっかりしてるなぁと感心してしまう。もう気にもしていないだろう彼はどうするのかな、と待っているとハルカはスッと笑顔を消してみせた。


「許せないな」

「「……」」


泣きそうになった二人を横目に思わず目を見開く。とっくに水に流していると思っていたが、意外と根に持つタイプなの?大人としてどうなの、それ?せめて走らせるとかで許してあげなよ!と口を挟もうとした時、ハルカが近くにあった新しいグラスを二つ取りグイと二人に押し付けた。


「しかし俺は優しい。そこに座り俺の注いだ酒を飲んだら許してやろう」


そう言うとニィといやらしい顔で笑ってみせた。
ポカンとした後、その意味に気付いた二人は「喜んで!!!」とパァと顔を綻ばせ彼の注ぐ酒を嬉しそうに飲み始める。

「なんだよもう…無駄にハラハラしちゃったじゃないか〜」

「俺がネチネチと根に持つわけないだろう。エルは焦るお前を見て笑いを堪えていたぞ」

「え、なにそれ!エルヴィンひどいな!」

「ハルカが何を言うか検討がついたのでね。ハンジ、まだまだだな」

私を笑うエルヴィンとハルカに不貞腐れていると、隣に座ったミカサがキョトンとした顔で呟く。堅物と噂される団長と笑い合う私たちが意外だったようだ。

「皆さん、仲が良いんですね」

「そりゃあもう仲良しだよ!長い付き合いだしね〜。君たち同期生も仲良いでしょ?
あのテーブル、新兵くんが固まってる。もっと先輩とも仲良くして欲しいな〜!まあ隅に固まってる私たちが言えたもんじゃないけど!」

ギャーギャー騒いでいるテーブルではエレンとの久しぶりの再会も果たし、身内話で盛り上がっている。分隊長ともなると必然的に新兵との関わりも減るため、少しだけ残念だ。


「ふむ、ならば呼ぶか」

「……は?」

「だから、あそこのテーブルの新兵達をここに呼ぶぞ」


あぁ、君は一体何度私を驚かせれば気が済むんだい。そんなこと、今まで一度も言ったことないじゃないか…。これもまたドッキリかとエルヴィンに救いを求めれば、彼も目を丸くしている。

「え、本気で言っているの?」

「当然だ。アルレルト、あそこにいるお前の同期生をここに連れてこい。ハルカ・リシャール団長補佐が一人一人に酌をしてやると言っている、とな」

「えー!!!何それ!ずるい!私だってしてもらったことないのに!」

「うるせぇなクソメガネ、なぜする必要がある。むしろお前がしろ。
よし、行ってこいアルレルト!」

「はっ!」

綺麗に敬礼したアルミンは駆け足で同期の元へ行ってしまった。あれはきっと酔っているな。取り残されたミカサは何故かギョッとしてハルカを見つめいていた。どうしたの?と言えば恐る恐るといった風に口を開く。


「ハルカ補佐官が、ハンジ分隊長を……クソメガネって…」


……確かに。
ハッとしてハルカを改めて見ると白い頬がほんのり赤くなっている。エルヴィンはゆっくりと首をふっていた。そうだよね、そうじゃなかったら初対面のしかも若々しい新兵を集め、しかも自ら酌をするなんて言うわけがないよね。ミカサとアルミンの前でクソメガネなんて言わないよね…

そう、ハルカ・リシャールは酔っているのだ。

部屋で飲む時くらいしかそれも滅多に酔わないのに、きっと疲れが溜まっていてアルコールの回りが早かったのだろう。でもまぁ、いい機会だ。これを機に交流を深めればいい。性格の悪さも口の悪さもどうせその容姿で霞むんだから。
ミカサは少し引いてたけど。




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