きっと今まで生きてきた中で一番緊張したんじゃないかと思う。今までのダントツFF決勝なんてまだ可愛い方だった。自宅に帰ってきたのはもう随分前なのに、俺はいまだにネクタイをぴっちりと締めたまま。あいつはいつの間に着替えたのか見慣れたグレーのスウェット上下で冷蔵庫を漁っている。「いい加減着替えてくればー?」「…おう」のろのろとネクタイをほどいて、ワイシャツと逆効果でしかなかったヒートテックは洗濯カゴにぶちこんだ。そうして着替えているうちにリビングからはお笑い芸人のトークと笑い声が流れ始める。「真一!2800出てるよ!」「ああ聞こえてるよー」出しっぱなしだったパーカーを羽織りながらテーブルに目を向ける。柿ピーとつまみの入った皿に手をつけて、あいつは片手の缶ビールを煽っていた。その横顔の中に嬉しそうに娘を見つめていた父親の面影を見つけて、やっぱり父娘なんだなぁ、差し出されたビールを受け取りながらそんなことを考えていた。


「乾杯する?」
「なんの?」
「挨拶終了祝い…的な」
「じゃあ、…かんぱーい」
「…かんぱーい」


娘をよろしく頼みます、と下げられた頭に慌てて、テーブルに額をぶつけた。小さなたんこぶになったそこを無意識のうちにさすっていたようで、馬鹿にしたように笑われる。そんなに緊張してたの、なんてお前になんか言われたくないね、俺の親んときはガチガチだったろう。そう言えば彼女は楽しそうに笑った。そうだっけ?そうだよ、馬鹿。


「今日は疲れたからおつまみで我慢してね」
「いーよ、うまいし」
「てかさ、真一、いくつだっけ」
「24だけど。お前もだろ」
「そうだけどー、年取ったねぇ私ら」
「だな…俺もう必殺技とか、無理だわ」


時の流れは早いもので、知り合って10年、付き合い始めて9年がたった。当時はまさか結婚するなんて夢にも思ってなかった。人生って不思議なものだ。


「あのさ来月、記念日でしょ」
「おー、なんかうまいもんでも食いにいくか?」
「ううん、私が作る。超豪華なやつね」
「期待していいのか〜?」
「うん、して!!」


中学のときから、笑うとき、小さくへこむ彼女のえくぼが好きだった。楽しみだ、と声に出せば目に見えて機嫌がよくなる。扱いやすいとこも、えくぼも、あんまり変わりはない。かわいいやつだなあと心のなかで溢して、ピーナッツだらけの柿ピーに手をのばした。記念日はこの皿に何が乗ってることやら。ハンバーグにしようかなあなんて早くも思案し始めた彼女を見て、薬指に光る銀色がくすりと笑ったような、そんな気がした。




テーブル・フェスタ / ふじこさま
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