Short×2+Story
短編未満とかネタメモとか。



「 いっそ一括払いで 」


即興小説トレーニング(15分)で書いたもの。多少修正済。

※お題:「思い出のローン」
※700字程度






「で、ローン。組むのか、組まないのか?」

 じりじり首筋を焦がす太陽。この真夏にかっちりスーツを着込んだ男は、宙からちょうど1mほど浮かんだまま一回転し、人差し指で指揮をするように宙に円を描いた。

「組むか組まないかって聞いてんだよ、聞こえてんのかアホンダラ。お前のその遠い日の思い出の空白を取り戻すためにはお前が一度にまかなえないくらい莫大な魂が必要だっつってんの、アンダスタン?」
「魂って取られたら死ぬんじゃないのか」
「死なない程度に搾取すんだよ、そんなことも分からねえのかこれだから人間は。生きていれば魂は再生する、そこからまた取る、繰り返し」

 商談に戻るんだが今ならそれが月々の魂利がたったのこれだけで、手数魂は当社が負担してやる、と男はホワイトボードに書き込んでいく。黒い背中には、不釣り合いなふわふわの白い羽根。天使なのかなんなのか。俺の頭は相当暑さにやられていて、これは幻覚なのかもしれない。

「別にそこまでして思い出したいわけじゃあない……」
「嘘つけ、それが真実ならば俺がこんなところに呼ばれるもんか、クソッタレ」

 ああ畜生、暑い、熱いぜ、父よ、地上はまるで地獄のようだ。天使はひとしきり太陽を罵倒して羽根をばたつかせた。まったくよくしゃべる。それに口が悪い。汗が目に入る。袖で拭う。じーじーと蝉の声が世界を支配する。多分あの日もこんな感じだった。父よ。母よ。兄弟よ。覚えていない。天使は先程までの喧騒がうそのように静かな顔でこちらを見つめている。

「……家族の死にざまなぞ、俺は思い出してどうしたいんだろうか」

 知るか、声と共に書類に無理やり親指が押しつけられた。



13.12.02 00:51  sato91go