Short×2+Story 短編未満とかネタメモとか。 「 先輩宇宙人 ヒモ☆マヂカ 」 最近文章を書けていないので昔のものを掘ってきては投げています。 ※サークルに出した短編の加筆修正版 ※「お題:舞台は花屋、関係性は先輩後輩、『三角定規こそ美学』と言う台詞を作中に入れて恋愛小説を書きなさい。」 ※恋愛など幻想にすぎぬ ![]() 「クックック……! 見つけたぞ先輩宇宙人ヒモ☆マヂカ! 今日こそ長きにわたる因縁に終止符を打とうではないか」 「出たわね侵略系先輩宇宙人ヒモ☆スンゼン! イチコを離しなさい!」 こんにちは初めまして私イチコと申します。同居人と花屋に買い物に来たはずが、そこで謎のマスクマンと謎の巨大なお花さんに遭遇し、お花さんが伸ばしたツルに巻きつかれて空中でブランブランされています。……冷静に言ってみたのはいいけれど、結局いみがわからない。 「人質なんて卑怯よヒモ☆スンゼン、正々堂々と勝負したらどうなの!」 学校で算数の先生が使うような巨大な三角定規を振りかざし叫ぶ美女は、私が数日前に拾った同居人(男)。どうみてもグラマラスな美人さんだけど、自称男。へー宇宙人だったんだへー。 「ていうか先輩、ヒモ間近とかそんな名前あったんですか、私には『先輩って呼んで☆』ってかたくなに言ってたくせに」 「ヤダ―、ヒモ間近じゃないわよぅ、ヒ・モ・☆・マ・ヂ・カ」 「いや、正直ちがいが分からないです」 「何をのんきに話している、この娘がどうなってもいいのかヒモ☆マヂカ!」 私にまとわりついているツタがびよーんと伸びて、私を花びらの奥にある口らしき場所に近づける。うごめく花びらの奥から、ときどきにょきっと鋭い歯が見える。うわあ。 「あー、私食べられるんですね、わーすごいすごい」 「なんだこの地球人、全然動じてないぞ怖いな」 変なものを見る目をして、巨大直線定規で私の頬をつついてくるヒモ寸前……じゃなかった侵略宇宙人ヒモ☆スンゼン。なんでアンタも定規持ってるんだ。 「動じてはいます正直私のキャパシティを超えすぎていてどうすればいいかわからないだけで折れろその定規折れろ砕け散れ」 「ちょっとヒモ☆スンゼン! 私のイチコに気安く触らないでくれる!?」 「うるさい空気の読めない先輩は黙ってろアンタの定規も折れろ」 「なんだこの地球人怖い……さっさと殺した方がよさそうだ」 「え、ちょ、せんぱーい! へるーぷ!」 ぶん、とツタがしなり、口の中に放り込まれようとした瞬間。 「はっ今ので六百六十六回目の先輩コーーーール! 今よ! 先輩後輩契約を発効!」 「何!?」 先輩の叫び声に一瞬動きを止める花。 「カモ―――――――――――――ン!」 その瞬間、辺り一体が白い光に包まれた。 「わーすごーいーまぶしーいー」 「なっコレは……!?」 「先輩宇宙人ヒモ☆マヂカ、真の姿で見参よ!」 光が消え、恐る恐る目をひらくとそこには一人の男が。かっちりと着込んだ黒いスーツに短い黒い髪をすっと後ろに流した男前が、三角定規を天高く構えて立っていた。……三角定規となぜか残っている女言葉だけが果てしなく残念だ。 「真の姿に戻っただと!? 馬鹿なそんな事が出来る筈は……」 「うわ、ほんとに男だった」 「まさかこの娘が、我ら先輩宇宙人が求めてやまない至高の存在――、『運命の後輩』だとでもいうのか!?」 あからさまにうろたえるヒモ☆スンゼン。なんでそんなに汗ダラダラなのか私にもわかるように説明してはくれないかな。 「ふふふそうよ、出会ってから六百六十六回『先輩』と呼ばせて『運命の後輩』と先輩後輩契約を結び、封印されし真の姿に戻った今! 私のこの三角定規に敵はないわ!」 「あっだから先輩って呼ばせてたのか、チクショウ謀ったな!」 「ふ……どうかな、真の力が解放されたとはいえ貴様の内角合計百八十度しかない定規が、私の長方形型定規……内角合計三百六十度にかなうとでも?」 人質の存在も忘れ、直線定規を構えるヒモ☆スンゼン。私をぶんと投げ捨ててツルをうねうねさせるお花さん。おい待て、内角の合計は戦闘力か何かなのか。 「ウフフ、なら試して御覧なさいよ」 先輩は無駄に整った顔を歪ませて不敵に笑う。三角定規の斜辺が、キラリと光った。 結論。三角定規こわい。お花さんのツルをひとつ残らずばっさばっさと斜辺で切り捨てて、三十度の尖った角をお花さんの真っ赤な口に突き刺して笑ってた先輩こわい。今まさにヒモ☆スンゼンの喉元に三十度突き立てて爆笑してる先輩こわい。 「ウフフフ見た? 私の斜辺の活躍見たー!? やっぱり三角定規よ、三角定規こそ美学よ」 「クッこんな脆弱な鋭角に負けたというのか私の四つの直角は……!」 「何よー潔く負けを認めて正義の組織サンカックジョーギィーに下りなさいよ、今なら特別に二等辺三角形の方の三角定規つけるわよ?」 まあ、男前が女言葉でくねくねしているとか、地面を叩いて悔しがるヒモ☆スンゼンとか今の私にはどうでもいい。心底どうでもいい。がんがんと痛む頭を押さえてうずくまる。 「落ちた時に頭打った……」 「えっえっ、大丈夫なのイチコ、いたいのいたいのとんでけー!」 「痛い……」 三角定規を引っ込めて、私におろおろと駆け寄る先輩。超痛い。頭もだけどいい歳して堂々といたいのいたいのとんでけとかやっちゃう先輩痛い。イケメンだから余計痛い。しかも。 「ぐっ、これで終わりだと思うなよヒモ☆マヂカ! 覚えていろー!」 「あ」 序盤で倒される悪役くさい捨て台詞と同時に、ヒモ☆スンゼンは逃げた。後に残ったのは何事もなかったような町と、綺麗な姿の花屋。さっきまであんなにボロボロだったのに。しかし突っ込む気力など私には残っていないからもうどうでもいいだろうそんなこと。 「あららー逃げられちゃったわ」 「ソウデスネ」 「まあイチコが無事だったからよし!」 先輩はぱんぱんとホコリを払って立ち上がり、いろんな意味でぐったりしている私を持ち上げる。待て。 「なぜ、お姫様だっこ」 「え?」 くらくらはするけれど、別に足は怪我してないから歩けるのに。そう言うと、先輩は馬鹿ねぇと笑った。 「イチコは私の唯一無二の『後輩』なんだから大事にするのよ、当然でしょ」 「……は」 「ねえイチコ、顔赤くない? どっか腫れた?」 「顔が好みなだけ……顔……かお……」 「へ?」 そう、顔が好みだっただけで、好みの顔でちょっと笑顔を向けられたから動揺してるだけで、本当にその当たり前のようにささやかれた言葉に、不覚にもときめいた、とかそんなことは、ない。お姫様抱っこに対する羞恥心はあっても、ときめきだけは絶対ない。ない。 「ああもう先輩の顔面爆発しろ砕け散れ」 「どうしたのイチコ怖い」 夕日のせいで妙に顔が熱い、そんな夕方。花を買い忘れていたことに気付いて肩越しに後ろを見ると、先輩の背中ですこし汚れた三角定規が揺れていた。 この後、先輩後輩契約が地球で言う『結婚』の事だと判明したり、幾度となくやってきたヒモ☆スンゼンが地球に襲来をテキトーに退け、ヒモ間近……じゃなかった先輩宇宙人ヒモ☆マヂカが本当にうちのヒモになったりするが、それはまた別の話。 13.03.13 02:30 sato91go |