Short×2+Story
短編未満とかネタメモとか。



「 イスハークが戦ってるだけ 」


タイトル通りです。
一応and Buddyの後の戦闘シーンみたいな。

※流血、殺人表現あり
※唐突に始まって唐突に終わる






イスハークは戦士であり、そして傭兵である。戦わなければならない、任務を遂行しなければならない、殺さなければならない。徐々に目の前が赤く染まっていく。
ふっと息を整えて柄を握り直す。褐色の腕に彫り込んだ青ドクロは相変わらずニタニタと笑ったままだが、イスハーク瞳の奥はちっとも笑っていない。ぎょろりと回る三白眼で前を見据え、固く輝く鮮血色の髪を揺らした。翼を背中ではためかせ、もう一度、深呼吸。

(くらくらする)

ぶわ、と全身で鮮血が燃えた。大剣を模した錆びた鉄が己の高ぶりと共に熱くなっていくのを感じる。ぐらぐら沸き立つ脳。自然と口角が吊り上がり、意識が手のひらからふつふつ剣に溶けていく。俺は剣俺は剣俺は剣俺は剣俺は剣俺は剣、俺はただ一本の剣――そしてイスハークは生まれながらの戦士である。

(ああくらくらするくらくらするたたかうたたかう、たたか、う)

「戦え、俺」

――鳥が吠えた。

跳躍。右回転。ただ力任せに右腕を振り下ろす。怪鳥の顔面に正拳突き。ギャンッと耳をつんざく悲鳴。振り上げられた足と声だけで大地が揺れる。翼などいらない、ただ、跳ぶ。尖ったクチバシ、避ける必要などない。痛み?それがどうした。ただ、戦う。刺す為に斬る為にあるのではないこのなまくらは、そして俺は。毛で覆われた額に振り下ろす、鉄塊。前髪が視界の端で揺れ、ずんと大気が重みで呻いた。肉の感触。次第に鳴き声がか細くなりそのまま鳥の最期。

銃を携えた男たちの怒鳴り声。火薬の匂いが強くなる。銃声がやけに近くに聞こえた。イスハークはこめかみから流れる血を親指ですくい、撃たれたのは自分だと知る、そして一瞥。

(弾もったいねー)

口角をいやらしく吊り上げる。確かに痛いぜ、それがどうした?それでも俺は笑っている、全てを斬れ全てを潰せ全てを砕け、全てを圧倒しろイスハーク。師の声が耳元で囁く。
叫びながらマシンガンを連射する男が二人、イスハークの猛禽類の目にはスローモーションで見えた。唐突に一人の男の額に穴があく。目を見開いたまま絶命する男。ビアンコか、と赤く塗りつぶされていく意識の隅でイスハークは思った。だだだだだだだ、残った方の全ての弾を胸筋で受け止めながら、鳥の死体を蹴り、跳ぶ。ぶわりと翼が開く、胸から広がった熱が大脳をじくじくと占拠していく、イスハークは嗤った。重力に任せて落下、男の顔面を固い掌でもって地面に沈める、そのまま力の限り握る、ぐしゃりと嫌な音がした。

「んー何か痛い……?」

ぼたぼたとイスハークの胸から口から溢れこぼれる血が地面を染めていく。それでも彼は少しの動揺さえしない。肩をこきこきと鳴らして、一つ溜息をついた。

「またビアンコに怒られるかもな」

イスハークは自ら胸の傷口に指を入れた。集まってきた純粋種たちが目を見開く気配を感じながら、胸に残っていた弾丸を取り出すと、まるでポップコーンのように軽く握りつぶした。その深く抉れた傷口は、筋肉が形成され皮膚が張り巡らされ、信じられない速さで塞がっていく。

「化け物か……」

顔を砕かれた男が息も絶え絶えに呟く。イスハークはあからさまに眉根を寄せた。

「そのリアクションもう飽きたんだけど」





12.09.02 01:42  sato91go