Short×2+Story
短編未満とかネタメモとか。



「 おままごと 」


ツイッターの方でとあるバッドエンド仲間のフォロワーさんに『「傷跡」をテーマに包容力ある攻め×情緒不安定な受けの幸せなバッドエンド』という素敵なお題を頂いたので書いてみまし…た…グフゥ(己の力不足に吐血)

※BLです
※お題からわかるとおり後味はあまりよろしくないです
※包容力は実家に帰りました






――『さようなら』。
終わりの訪れは案外あっけなかった。



「――俺に捨てられる夢を見たの?」

「……そう」

俺の沈んだ声に、彼はエプロンで手を拭いながら振り向いた。柔らかい茶髪を束ねていたゴムを解いて、今日のディナーを運ぶ。

「それでそんなにヘコんだ顔してるんだー」

「……やけにリアルだったんだよ」

「えー、ありえないのに」

お前を嫌うだなんてありえないのになぁ、そう言って彼は淡々と皿を並べていく。今日のメインはサバの味噌煮。とくとくと注がれる麦茶の音。久々の好物の匂いに腹がくるると鳴った。

「今もさ、どっかの料理嫌いな誰かさんのために、器用な俺がバランスを考えた夕食を作ってやってんのに」

「……この間もそんなこと言いながら親指ざっくりやっただろ」

「あ、バレてた? あれ結構ハデに跡になっちゃったんだよねー」

ケラケラと笑う彼が親指を見せた。鼻先に突き出された生々しい傷跡に、ぞわりと同じ場所がうずく。見つめ続けていたら本当に痛み出しそうな気がして、無理やり話題を変える。


「……お前、気持ち悪いくらい俺に尽くすよな? その傷もそうだけど」

「そりゃ、アイシテルからねー」

「……なにそれ」

俺が少し笑うと、彼は本気なのになぁとむくれる。他愛もないやりとりとともにちゃくちゃくと並べられていく二人分の皿。ふわりと広がる味噌の香りに、あたたかいもので胸が満たされていくのを感じる。幸せだな。



――『さようなら』。
終わりの訪れは案外あっけなかった。
それは真夏の昼のこと。いかないで、行かないで。必死の叫びもむなしく、遠ざかる彼の背中。揺れる柔らかな茶髪。陽炎立つ昼のこと。遠くから蝉の声。つうと滴り落ちる汗と、涙。



「……壊れるものなんて要らないんだ」

「ん、何の話?」

彼は箸を止めて首をかしげる。ああ、そんな子供みたいな顔で俺を見てくる彼が好きだった。不器用な俺の為に料理を用意してくれる優しさが好きだった。風に揺れる柔らかな茶色が、本当に好きだった。永遠がほしい。変わらないものがほしい。

「一人は寂しいっていう話」

「……俺が傍にいるよ?」

手のひらに彼の体温を感じた。そっと白い手のひらに握りしめられる。彼は、俺の欲しい言葉をくれる。彼は、俺のすべてを受け入れてくれる。

「ずっと一緒、だよ」

窓際にたたずむ日焼けした写真立て、その中で幸せそうに笑う俺と彼が、俺を見つめている。笑っている。


「うん、俺も愛してる」

俺は親指の傷にやさしくキスをする。彼はくすぐったそうに笑みを浮かべた。彼の笑顔がぶれる。ぶれる。消える。


「俺は、幸せだ」


一人で用意した、二人分の食事を前に、幸せだ、もう一度ぽつりと零れる言葉。
自分の親指に残る大きな傷跡をなぞって、俺はひとりきり、部屋の中で、笑った。



(頬を伝う雫には気づかないふりをして、)
(えいえんのひとりあそびを。)





12.08.11 01:00  sato91go