甘いものはお好きですか?

左右に分かれた自動ドアをくぐると途端に外の熱気が押し寄せてきた。クーラーの効いた室内との温度差に軽い目眩がする。
隣のなまえ見ると彼女も自分と同じようにこの猛暑にげんなりと肩を落としていた。
再び扉の閉まる電子音を背中に聞いて、二人は並んだまま建物のコンクリート壁に沿って立つ。

「うわっ、もう溶け始めてる」
「まじかよ。今日あっついもんなー」

袋を破って取り出した水色の棒アイスは、夏を感じさせるソーダ味。少しでもこの暑さを忘れたいがために買い求めたものだが、今にも崩れ落ちそうなぎりぎりのところで踏みとどまっている状態を見てしまっては気分も落ち込む。
じりじり肌を焼きにかかる紫外線。耳にうるさい蝉の鳴き声。薄手のTシャツは汗で張り付き、服の中に熱が籠る。
ぱくりとアイスを口に含んでどうにか暑さと怠さを和らげようとした。

「ふっ…甘い……」

隣でなまえが発した言葉だ。
横目で様子を伺ってみる――その行いが、そもそもの間違いだったのだろう。
ちろりと覗かせた赤い舌が水色の棒アイスを舐め上げていく様に、俺の目はたちまち釘付けとなる。不純な思考ばかりが駆け巡る俺の脳内事情など知る由もないなまえは、今にも滴り落ちそうな甘い汁を零さまいと丁重に舐めとりながら、先端まで辿り着いた柔らかそうな唇が開いて、小さなひとくちでかじった。

「ん、どうかした?」

そこでようやく我に返って、煩悩だらけであったことへの後ろめたさから「なんでもねぇ」と自分の額に掌をやって視界を覆うが、どうにも彼女の方へ意識は向いてしまう。

「さっきからなんなの?」
「いやだって。なんていうか、さ」
「……? なに」
「えろいなぁって、それ」

ほんのり赤く染まった頬で視線を合わせないまま指を指されて、ほんの数秒間だが彼女の思考が停止したように思えた。指摘したのはもちろんアイスの食べ方……というか舐め方だ。

「気持ち悪い、変態」

声色も表情も、相当マジなものだった。


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