クラウディーガールには眩しすぎる

傍観しかできない少年


電源を入れたポケモン図鑑の液晶画面に「ロード中」の文字が並ぶ。ぐるぐると、考え中のマークが背景に溶けてデータが図鑑番号順に一覧表示されると簡単な操作で機能を切り替えた。
桃色の球体、否、列記としたポケットモンスター、ププリンに図鑑を翳すと四角い画面上にステータスが現れた。金色の眼差しが捉えたその中のたった一文に、嘆息をする。
幼馴染が大事に世話をしていたププリンのおやとして登録されているのは紛れもない己の名。
何度同じページを確認したか。
本能的にも科学的にも、ププリンのトレーナーはゴールドであるとここに立証されてしまった現実は、そう簡単には覆らない。

なまえが温もりを与え続けたおかげで通常以上の速度で孵化まで迫っていた事実には、孵す者の二つ名を引っ提げるゴールドも気づいてはいたことだ。しかしそれでもタマゴに精通する彼の目を通せば、孵るまでに少なくともあと10日は要するであろうという見立てであった。それをたった一瞬触れただけで彼女から引き継ぐ形で孵してしまったゴールドが、

(おや、か……。オレが、こいつの)

ププリンと、タマゴと出会って初めて慈愛を知ったなまえを思えば、可哀相なんてものではない。ゴールドの中で目覚めた与える力が未来に育まれるはずだった絆を奪ってしまった、とは。なんて残酷なのだろう。
あれほど羨望し、渇望し、希っていたはずの才覚が、今や恨めしく思えてくる。

「お前は、よォ……、なまえを、どう思う」

ベイビーポケモン用に作られた菓子を頬張るププリンは、まだ人語は愚か外界にも慣れていないためゴールドの言葉の意味も表情を作る理由もわからないらしく――わからないということを伝える術もまだ持たないからだろう――まんまるい水色の瞳でこちらを見上げてくるだけだった。

私がゴールドならよかったのかな。彼女はそれをどういうつもりで言ったのだろう。友達と呼べる存在をゴールド以外にも求めていたということだろうか。それはあまりいい気はしないが、持たないものを欲する気持ちも他人が持つ自分の無い能力を羨む心もよくわかる。
ゴールドになりたい、なんてのたまったのもきっと……。憧れだ、と終止符を打とうとした瞬間、そこまで回想を回しかけて、思い出す。直前に放たれていた言葉を、彼女からの大好きを。

――私ゴールドが大好きだったんだよ。

「……っ、」

あれは恋慕に突き動かされての告白だったのか。はたまたうっかり滑らせた単なる友人への単なる愛情だったのか。
わからない。あいつはいつも俯いてばかりで顔なんてろくに見れないし、性格故の自分の気持ちを隠す癖が身についてしまっているから、察せない。


2016/12/09



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