クラウディーガールには眩しすぎる

とりあえず最果てまでお願いします


腕の中にある温かさも、触れた指先に弾むマシュマロ肌の柔らかさも、紛れもなく本物だ。体色、声、鼻をくすぐるいい香り、とどれをとっても甘やかである風船ボディの赤ん坊。種族名、ププリン。
今までは一方的に語りかけ、手入れを施すだけだったタマゴの状態から文字通り一皮剥け、せっかく動いて息をする相手と過ごせるようになったというのに。それが自らの手ではなく他者によって加えられた力によって、であったからなのか帰路中は一切口を閉ざしたままの幼馴染は、ずんずん、ずんずん、ププリンを抱くゴールドの前を行く。んだよ、と舌打ち交じりに一人語散て、不気味な静寂を保つ場に波紋を落とした。

「怒ってんのか?」

なまえ、と名を呼びかけると足が揃わり歩みが止まる。ぴくり、肩からぶら下がる腕の指先が反応を示すように一度だけ震えた。

「ププリンのこと、どうするんだよ。手放すとは言わないよな?」
「…………」
「おい。なまえ、」
「ゴールドが、育ててよ」

――あぁ? 柄悪い不良のような返答が漏れたが、その比喩もあながち間違いではない。

「投げ出すのかよ、おめぇは。こんなことぐらいで。ちったあ考えろ、無責任だとは思わねぇのか?」

強い口調に苛立ちを滲ませ攻め立てるように吐き出してしまうのは、きっとなまえの吐いたことこそがゴールド自身が一番許せないポケモンの“育成放棄”に相当する行為であったから。

「責任感だけで縛り付けておくものじゃないと思う、ポケモンは」
「だからってなぁ、諦めんなよ。トレーナーだろ、おい」

諭すというより責め立てるような尖った物言いでぶつけた直後、彼女から返されたのは随分と見当違いな台詞だった。

「……私が、ゴールドだったらよかったのかな」

そうだったら、不思議な力で強く生まれさせてあげられたかもしれない。例え最後に他人の手が加えられても、正しいおやとして見つけてもらえたかもしれない。
馬鹿馬鹿しい少女の独白に、ゴールドの喉はとっくのとうに言葉を絞り出すことを放棄していた。

***

時々ね、思うんだよ。
私があなただったら、って。
あなたは、馬鹿馬鹿しいったらありゃしねえって笑うかもしれないけれど。

「明るくて友達多くてみんなに好かれて私に無いものいっぱい持ってて、ずっと羨ましかった」

子孫繁栄のため強い遺伝子を残す必要があったとして、彼の見てくれの良さや社交性に自分が持たないものを見出し惚れ込んだ私は本能に忠実だったと言えよう。
だけどこんな私だ、たった一つの欲望だからと彼を手中に収めてしまえる程世界は人に甘くない。
憧景を渇望し必死に手を伸ばす。近づく事で隣になったような気になって、次第に彼に似てきた自分に一人酔う。
願ったのはただ一つ。あなたみたいになりたいんじゃない。完全な模倣で無ければ意味がない。私は、他でもない、あなたに、あなた自身に、

「私ゴールドが大好きだったんだよ。だからゴールドに、」

――成りたかったんだ。

見開かれた金色は、そこに気味の悪い化け物でも写したかのように、ぞわりと揺れて。


2016/12/09



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