クラウディーガールには眩しすぎる

お砂糖ガール、夜に想ふ


(after)

たん、と一つ踏み込む足は軽やかに足音を引き連れ静寂を乱した。
裸足を包んでくれる硝子の靴はないけれど。翻すのは眩い純白のドレスではないけれど。幸せの始まりとして、二人の証として、はたまた束縛の証明として薬指を繋いでくれる真新しい指輪は蒼い夜陰の中を閃光で彩ってくれる。
ベッドに潜り込むまでにやってくる明日を思い、刻むのは不器用なワルツ。
待ち遠しい明日を二人で迎えようと、愛しい人と今夜は同じベッドで眠るのだ。星明りを湛えた金色の双眸に頬を綻ばせた。

「いよいよ明日だな。って顔してる」
「そりゃあなぁ、誰だって緊張くれぇするだろうがよ。結婚も式も初めてなんだぜ」
「初めてじゃなかったら困っちゃうよ。ずっと一緒にいたのに。隣にいるのが私じゃなかったら嫉妬どころじゃ済ませらんないもん」

同じ部屋に住み、二人の城を築くと決めてせっかく断捨離に奮闘したというのに新たな事実でも発掘されてしまったら、負の遺産『ゴールドコレクション』が復活を遂げてしまう。

「ププリン――……あーもう進化してたな――プクリンは一応名義上はオレのポケモンじゃん」
「そうだね。おかげでやんちゃ坊主になっちゃって」
「それはもう謝っていいってことになっただろ! こーして責任取ってるし。オレが言いたかったのはこれでオレとなまえの共同財産みたくなったな、ってこと!」
「共有財産じゃない?」
「いーんだよ。細かいことは。気にしなくても」

マリッジブルーは、あり得ない。さすがにそう言い切れるほど私は強くは成れなかったけれど、この不安もすぐに日々の慌ただしさに埋もれて行って、気付く頃には隣から姿を消しているのだろう。
姿勢を変えてこちらを向いたゴールドが徐に口を開いた。

「なぁ、今日このまま寝んの?」
「……明日だよ、式」
「そうなんだけどさー」
「ヴァージンロード、ヴァージンで歩かせてくれるんじゃなかったの?」
「そうなんだけどさーっっ!!」
「制限されるとやりたくなるのが人間だよね。わかるよ」
「へぇ?」
「わ、私は別にそんながっつかないけどっ。ゴールドじゃないから」
「オレもがっついてはねぇだろ、別に!」
「知ってる。大事にしてくれてるの」

――だから好きなんだよ。

言えば、少しだけ赤くなる。
かちゃ、と薬指から抜き取った指輪をランプ側に大事に置いた。

「やっぱ外すのか、それ」
「外しとかないと。ゴールドにはめてもらうんだから」

……お前なぁ、とわしゃわしゃ黒髪を掻き乱しながら調子を崩されたとばかりに彼が言う。
言うようになったよな。
ゴールドは言わなくなったよね。
そらまぁ、……うん、……すまん。
怒ってないよ。テレビで美人さん出てるとうはうはしてるの見ても、怒らないって決めてるもん。
…………。お前はオレを尻にでも敷く気かよ。
どうかな。そうなれたら楽なんだけどな。
こっえー。鬼嫁じゃん、鬼嫁。

ころころと響かせる二人分の笑い声。
願わくば幸せな時間がいつまでも続きますように――続かせてみせる、と遥か未来に約束を結ぶ。


2017/01/15


prevback|next

- ナノ -