クラウディーガールには眩しすぎる

最後まで言うことのできない言葉が僕にはある


ゴールドになりたかったと壊れたように笑んだ彼女に「お前はお前だろ」と、そう言ってやればよかったのだろうか。それとも、おおよそ幼馴染に向けるには相応しくない純白とは程遠い好意を認めてしまえば彼女は救われたのだろうか。
どちらにしても伝えたい真意は“お前はお前のままでいい”、それだけだ。ただコールにレスポンスを寄越すか、自分の昂ぶりをぶつけるかの違いだけ。

今となっては随分と昔に思える、11歳で経験したときわたり。当時から見て未来の、現在のなまえと言葉を交わしていた、見捨てないと無邪気に笑いかけたあの日の記憶を持続させながら、しかしなまえを待つのはただ過去の自分との約束を果たすためだけではない。
ずっと昔だ。なまえを意識し出したのは。ゴールドがなまえに対して抱く情が、いい友人に向けるそれの域からはみ出していたのは。ずっとずっと、昔の話。
かわいいなと平々凡々な価値観に触れくすぐってくるだけで大して好きでもない道行く少女を言葉巧みに引っかけて歩くのも、愛を伝える術を持たない幼子がつい乱暴をして意識を引いてしまうのと、ぴたり、重なるつまらない理由。要は気を惹きたかっただけなのだ。
昔々からゴールドは、自分の好みからはかけ離れた性格と容貌の暗く弱い女の子が意味もなく好きだった。

「なぁ、ププリン」

小さな薄桃の赤ん坊に呼びかける。

「オレさ、お前のご主人じゃねーんだわ。本当のおやにはなれねーんだわ」

あいつが自力で前を向けるとは思えない。
誰かに助けられ、笑顔を教わり、背中を押され。それだけで未来を見据えられるような前向きさもひたむきさも、あの根暗卑屈野郎は持ち得ない。
助太刀に来るのは過去の自分よりも全て知切った未来の自分を所望したいというのが本音だが、無垢な己の方が引き上げることには向いているような気もあって――

そのときだ。ゴールドのポケギアに着信が入った。現れる名前は、なまえ。
緩慢にしか動かせない自分の指先に苛立ちながら、受話器を耳に押し当てた。


2016/12/20



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