クラウディーガールには眩しすぎる

かなしからん君のため


じゃらり、と手の中で金属音を鳴らす金色の鎖の感触を指の腹で味わいつつ、ゴールドは表情を渋いものへと変えた。今朝、自分宛てのプレゼントとして自宅のポストに押し込まれていた名前と同色のベルトチェーン。送り主はなまえ。近所住まいなのだからわざわざ郵便局など経由せずに直接手渡せばいいものを、どうしたって配送なんて真似を……。いや、問題はそこではなく。

「センス無ェ……」

思わず零すゴールドだったが、生憎多忙な彼は意図の分からない贈り物なんぞに構っていられる暇はないのだ。何といっても今日は先約がある。ただしかわいい女子との外出予定ではなく、長い髪の女のような容貌を持つ戦友との、だが。

***

「女からの贈り物を蔑ろに扱うなど言語道断だな」
「まさかシル公からそんな言葉が出てくるとはなぁ」
「……ねえさんからの受け売りだ」

だがお前が欲しかった答えとしては正解なんじゃないのか? 端正な顔立ちに薄い笑みを湛える少年は、なるほどさすがだ、ゴールドをよくわかっている。
目の前にいない人間にまでも助けと影響をもたらす青目の先輩の存在感については“あの人だから”で片付いてしまうのだから、彼女も大概である。
いつの間にか開店し、いつの間にか若い女性に大人気と謳われるようになっていたコガネ某所の喫茶店。かたやホットコーヒー、こなたアイスコーヒー。普段無口なシルバーにしては珍しい表情の変化を見せるのは、相手が良き友人のゴールド――ただし現在の彼は金欠故か昼飯時にワンドリンクで粘ろうとするうえ、どぽどぽとこれでもかという量の角砂糖をグラスに投入し続ける醜態を平気で晒している――であるからだ。

「それで、本当のところは何なんだ? まさか世間話がしたくてオレを呼び出したわけではないだろう?」
「あー。まぁ、な」
「相談か?」
「ん、そんなとこ。ちぃとばかし、交換に精通してるおめぇにお知恵を拝借したいもんでよォ……、いいか?」

こっくりと肯定を示す彼の動作を合図に事情を口に滲ませた。
悪意を以てそうしたわけではない、だが、自分の行いは他人のポケモンを奪うことに相当する最低な行為である。そう前を置いて。それまで人が育てていたタマゴに偶然触れて、瞬間、偶然自分の元で孵ってしまった、と。相手の気持ちなんて考えずに与える力を誤って発動させてしまった、と。

「元の持ち主へ返したところで、持ち主はトレーナーではなかったのだろう。お前より劣るとなれば、ポケモンもそう易々とは指示は聞かないだろうな」

だよな……、とわかり切った答えを淡々と突き出され、落胆に押しつぶされそうになる。

「……そいつさ、めっちゃ暗いやつなんだよ。だけどタマゴもらって、母性本能っつーの? ……目覚めさせて、やっぱ暗いしつまんねーけど変わってきたの嬉しかったんだよ」

テーブルの下で鳴る衣擦れ音はシルバーが足を組み替えたことで生じた微かなノイズだ。すっかり聞き上手となった彼の作る心地良い沈黙にゴールドの独白が一言ひとこと沈んでいく。

「だからこうなっちまって、すっごい落ち込んでんだろうし、実際怒ってた。私がゴールドだったらよかったねみたいなこと言われて、もしかしたらずっとそう思ってたんかなって、思って、で……、……んで…………――告られた」
「……は?」
「いや、こっちの話」
「そう、か……? ならいいんだが。件のポケモンだが、ププリン、だったか」
「そうだけど。なんだよ?」
「いや。……たが、せっかくだ。プリンに進化した時、これを与えてみろ」
「ん? んだこれ、つきのいしか?」
「あぁ。ププリンの進化条件はなつき進化だ。お前に、なら問題なさそうだが、違うんだろう?」

小さな宇宙を閉じ込めたような、神秘の闇のつきのいし。
今は手袋の外されている少女のように白いシルバーの手から、ぎゅっといしを受け取った。

「ったりめぇよ」

ププリンをなつき進化させる。だがその相手は、なまえじゃないと意味がない。

「助太刀ってわけか?」
「そうだな。このコーヒーの味の分だけ、だ」
「そりゃあ心強ぇ」

そこまでの美味ではなかったと思うのだが。戦友はあまり素直ではない。


2016/12/15



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