不離のトラペジア / 逃走星のミスティリオン

えいえんは満ちないからうつくしいのか

人の足元にはいつも影が追いかけてくるように。昼には太陽、夜には月と、空にはいつも天体があるように。もはや傍にいることこそが自明の理。
諸伏景光とは、子供の時からなんでも共有してきた。釣った魚も、採集した虫も、夢も、進路も。共鳴し合う魂を宿していたにしても時の流れとともに互いに似てくるところもやはりある。好きな女の子さえもが一致したときにはそれを明かし合うこともなく、こいつもあの子が好きなのだろうとどちらともなく、ことばもなく嗅ぎつけていた。恋の宿敵が自分の人生に途中参入してきたどこの馬の骨とも知れない男なら、汗水垂らして彼女を振り向かせようと躍起になったのかもしれないが、一人の女の子を奪い合うほど闘争心を掻き立てられなかった僕達は、もう親友として比翼連理なのだと諦めて、彼女も交えて三位一体となることにした。早い話がずっと三人で仲良く寄り合っていよう、と。

「ん……、なまえちゃん、舌出して?」
ヒロの砂糖で包まれた声に素直に従うなまえが、今しがたまで触れるだけのかわいらしいキスに興じていた唇を割り開き、べえ、と舌を前に突き出す。舌ごと食むように口づけたヒロが、ゆうるりと舌を絡めた。親友に気持ち良くしてもらっている彼女の吐息を耳で拾う僕に、嫉妬の念は一切ない。強いて挙げるなら、二人が唇を重ね合っていると自分がキスの輪から弾き出されることが少し寂しいくらいだろうか。
ルームシェア中のアパートの寝室。僕達の城。露呈すれば白い目で見られることには一生困らなそうな三人でのセックスを何度と無く行ってきたベッドの上。横向きに寝転んだなまえを左右から僕とヒロで挟んで、ヒロが正面から彼女にキスをし、僕はその背中を寝ながら抱き込んで、肌蹴させた胸に指を沈めていた。
僕とヒロで毎日揉んで育てた胸はごくごく平均的だった高校時代と比べても、順調に大きく膨らんでいて、ゆきずりの不埒な男どもの視線を集めるようになっている。牽制するのも僕らの仕事だ。
彼女の顔を見れないのは寂しいけれど、背後を陣取っているお陰で下着のホックを弾くのに苦労はしなかった。またしてもサイズの合わなくなったブラジャーからあふれる双丘が、堪らなく厭らしい。締め付けから解放されたまろやかな胸を、下着の代わりに僕の掌で包んで、揉んでみると、景光とのディープキスに溺れる唇がちいさな喘ぎを零した。
指を滑らせた胸の飾りも、きっと触れられることを待ち望んでいる股の核も、全部僕らの愛撫という水を注がれて花開かせた。僕らだけの厭らしい女の子。かわいい幼馴染。
ふにゅりと柔らかい胸から手を離すのは名残惜しいが、そろそろ先に進みたい。スカートをめくると下着の中に手を忍び込ませ、尻側からぬかるみをなぞる。そうすると手首のあたりに尻たぶのやわい肉が触れて、気持ちがいい。
「早くない? オレもうちょっとおっぱい触りたい」
僕が手放した彼女の胸を揉みながら、ヒロが不貞腐れた。こいつは僕以上に前戯が好きだ。というより単にいちゃつく時間が好きなのかも知れない。あくまでも恥ずかしいところを見せ合って、触れ合って、悦ばせたい僕とは違って。
「一緒にしてやればいいだろ。なまえも両方された方が好きだもんな」
「うん……」
「欲張りさん。これじゃあオレ達じゃないと手に負えないな。普通の男なら手が足りないよ」
僕の言葉に頷いたなまえを、ヒロが甘く咎める。尻から手を入れている僕には、脚の間の入り口がぴくぴくと喜んでいることがわかる。
「なまえちゃん、脚開こっか」
かぱり、と躰の下敷きにされていない方の腿をヒロが開脚させると、彼女はこくんと頷いてその姿勢を保つ。させたのはヒロでもそれを受け入れて維持するのはなまえで、そこには意思が介在している。開脚されたことで動かしやすくなった手で蜜の出所を撫でつけ、一本、二本、と少しずつ指を咥えさせていく。二本の指で中を擦り上げたとき、びく、と震え上がった彼女は、手近であったヒロの頭を胸に抱き込んだ。乳首を舐めてやっていたヒロは羨ましいことに顔全体を胸に埋めさせられることになり、それがちょっとだけ面白くなかった僕は彼女の弱点を荒く刺激する。
「やぁっ! あんっ。零く……ひぁぁっ、止まっ、あっ……!」
「なまえちゃん、ギブギブ」
「ふ、あっ、ごめ、ヒロ君……」
「ん、ちょっと苦しかっただけ。幸せだったよ。もっと気持ち良くしてあげよっか」
なまえの腕から逃れたヒロがまた胸の先端に吸い付き、さらに向こう側から彼女の秘部に指を這わせる。僕に中をかき混ぜられながら、ヒロに乳首とクリトリスを同時にされて、僕らに挟まれた躰が縮こまりながら痙攣した。
「やっ、いやっ……! だ、だめ、それ、だめ……!」
「駄目? どれが? 同時にいっぱいし過ぎててわからないな」
そう言った口で、僕はなまえの耳を舐め上げた。
「くりっ……ひっ、さわるの、やめて、ひろくんっ。つよ、くて……っ、だ、だめなのっ」
「了解。でもそれ以外はいいってことだよね?」
「えっ……、――あぁぁっ!」
背筋が反るほど、じゅる、と強く乳首を吸い上げて、さらにもう片方の乳首をきゅっと摘む。屁理屈じみたヒロの猛攻にこぽっと溢れる愛液が、僕の指を根本まで濡らした。
「なまえちゃんの……ん、ちゅ、お墨付きも得たことだし……おっぱい沢山してあげるね……」
「違……っ! おすみつき、ちが……ちがうのにっ、んあっ」
「それなら僕も思いっきりして良いってことだよな。クリ以外はどこしてもいいんだろう?」
言質を曲解して、僕達は思い思いになまえの躰を翻弄した。彼女は肉体的にも快楽的にも板挟みにされ、退路を含め、絶頂に登り詰める以外の道は全て絶たれている。
我慢できなくなった僕は、駄目だと言われた陰核の周辺に指を向かわせるが、喘ぐのに必死である彼女はそれをおてつきだと叱らない。調子に乗って皮膚の下でぷくりと膨れたそれを撫で付けると、本人ではなくヒロに抜け駆けがばれた。
「ちょ、ゼロずるい」
「じゃあお前が変わってくれ。この体勢だと中と同時にはできなくて」
「まぁ、それなら。なまえちゃん、約束破るけど、いいよね?」
「えっ? あぁっ、あ……」
返事を聞く前にヒロの指先が再びそこに降りてきて、乳首を愛でるのと同じ要領で核を引っ掻く。胸をしゃぶりながら、今度は同時に刺激を加えると、なまえの収縮する肉壁が僕の指をペニスと間違えているのかきつく絞り上げた。性感帯でもあるまいに、僕は不覚にも気持ちよさを覚えてしまう。
「ふ……ぁ……」
甘やかに震え続ける躰は、続け様にぬかるみを撫であげたり、ヒロに胸を舐められたりすることで淡い絶頂を反芻していく。責めると言うよりも愛でるが如く、舌先で優しく先端をつついて、クリトリスは触れるか触れないかの力加減でくすぐって。えっちなちょっかいをかける。
「かわいい、ずっといってる。なぁ、なまえちゃんの中、どうなってる?」
猫目をうっとりと綻ばせたヒロが、彼女の肩越しに僕に問ってきた。
「ずっとひくひくして……その癖、僕の指を離さないんだ」
「このままどれくらいいき続けるか試さない?」
「いつまでも挿れられないぞ、僕ら」
いずれにしても彼女が落ち着くまではとうに張り詰めた僕らはお預けを食らう。手持ち無沙汰に無害なキスや愛撫で場を繋いで、少しの休憩を挟んだ。
なまえの瞳が現実で焦点を結ぶと、再びその脚を開かせて、今度は指よりももっと熱いものを押し付ける。……が、ヒロから待ったが入った。
「待てよ、ゼロ。じゃんけん」
「この前ヒロからだったんだから今日は僕だろ」
「いやその前がゼロだっただろ? だから一旦リセットだよ」
「あー、そっか」
厳密な規則があるわけではないが、挿入はそれ自体も先攻や後攻も基本交代制、揉めた時はじゃんけん、例外があるとすれば先に誘いをかけた側が先攻の権利を得る、などなんとなく決まっていた。なまえに決めさせるのが僕もヒロもつべこべ言わずに済むため丸いのだろうが、選ばれなかった方が拗ねることが目に見えているからか彼女は選択権を与えても困ったように口を閉ざしてしまう。
じゃんけんぽい、の合図で互いに手を出し、勝ったヒロから彼女を抱くことになった。
「なまえ、ここ座ってくれ」
マットレスの上に座した僕はぽんぽんと自身の膝を叩く。おずおずと四つん這いで這い寄ってくる彼女を自分の股の間に座らせると、背後から抱え込んで密着する。大きなテディベアを椅子にするような、座った状態のバックハグだ。
ヒロと協力して服や下着を取り払い、生まれたままの姿にした彼女に脚を広げさせる。膝裏に手を挿し込んで開脚させたまま固定し、ヒロに見せつけてやった。
「見えるか?」
「うん、絶景……」
隠しておきたいはずの恥ずかしいところを赤裸々に暴かれ、なまえは赤い顔をふいと背けた。僕はそんな彼女を「こら」と叱りつけると、その顎を掬って前を向かせ、彼女の脚の間に割り込んできたヒロと視線を結ばせる。
「顔逸らしちゃ駄目だろ。なまえのえっちな顔、ちゃんとヒロにも見せてやらなきゃ」
「あう……」
ヒロは上半身だけ脱いだところで我慢ならなくなったのか、ベルトに手をかける前に前のめりになり、僕に顎を固定されたままの彼女にキスをした。
「ん、かわいい」
言いながら、彼は下も脱ぎ始める。僕よりは色が白く、それでも彼女よりは日焼けを知る引き締まった脚がシーツの上に剥き出しになり、布の中に屹立する欲の姿を浮き上がらせたボクサーパンツに指がかかると、僕に掴まれた顎の下で彼女の喉がこくりと鳴る。
「ほら、ヒロにくださいってかわいくおねだりしてごらん」
「え、あ……っと、ヒロ君、は、早く脱いで……? ひ、景光君のください……っ」
「主語がないな」
ヒロがコンドームを着け終えるまでにまだ余裕があったため、僕は巫山戯てリテイクを出した。
「うっ……、景光君の、その、おっきい、の……」
裸で雄を誘うために脚を開きながらも、もじもじと指を折り曲げた手で口を隠し、辿々しく紡ぐ彼女は卑猥な語句に抵抗があるのか言い淀む。ほら、言わなきゃ、と意地悪く追い打ちをかけたところでヒロの準備が整った。
「ゼロいじめすぎ」
「はは、ごめん。ヒロのこと、ちゃんと気持ちよくしてやるんだぞ」
僕とヒロの二人から同時に頭を撫でられて、飼い主の腕の中でまどろむ子犬のようにふにゃりと安心しきった彼女は、総身から力を抜いた。内腿にそっと指先を這わせたヒロが、そこから腰に掛けてを撫であげ、骨盤をやわく掴む。く、と宛てがった切っ先でしめった音を響かせながら熱を混ぜ合っていく……。
ヒロが彼女の腰を自分の方へと引き寄せて挿入を深めていくので、ずる、ずる……、とシーツの上を引きずられ、彼女の背中は僕の胸から滑り落ちていった。ちょうど膝枕をされる格好となった彼女に、背中を屈めて顔を寄せ、上下逆さまのキスをする。僕の下唇と彼女の上唇、僕の上唇と彼女の下唇を重ね、口を吸い合う。
「ゼロとばっかずるいな。なまえちゃん、オレともちゅーしよう」
「ヒロは入れてるんだからいいじゃないか」
「これくらいいいだろ、別に」
「け、喧嘩しないで」
「してないよ」と、ヒロ。
「そうそう、交渉してただけ」と、僕。
昔から小競り合いはしょっちゅうだ。他人から始まる恋人ではなく、慣れ親しんだ幼馴染からそのまま恋人に移行したせいか、セックス中の睦言も日常の延長線上にある。僕と景光は別にキスやセックスはしないので恋人と呼べるのかは果たして微妙だが。
米国のヒーローの名前を冠した逆さまのキスを深いものへと変えていく。角度が180度回転した味わいの違うキスは知らない景色を見せてくれた。その舌の裏側に自身の舌先を差し込み、中央から顎の底までを繋いでいる筋のようなものをちろちろとくすぐる。この星からは見ることのできない、月の裏側を被写体とした写真を眺めるような背徳感に、口角が上がりそうだ。僕の舌のすぐ真下にくる彼女の上顎だって、このキスならたやすく舐められる。いつものように舌を上向きにし続ける必要がなく、楽に彼女の好きな箇所に触れてやれた。じっくりと上顎のなだらかな段差を撫でてやり、前歯に近いところや、中央を丁寧に舐めていく。
「んっ……。ふ、っ……ぁ」
僕の口腔に流れてくる彼女の声は酷く気持ちが良さそうだ。おとなしく可愛がられてくれていた彼女だったけれど、のそりと舌を持ち上げると、僕がしたことを真似るようにこちらの上顎も舐めてくる。その舌先に触れられて初めて、自分のそこも凸凹としていて、喉の方に辿っていくと肉が軟らかいものに変質することを知る。痛む背筋も気にならないくらいに気持ちがいい、溶けそうだ。などと考えた瞬間。
「んっ!」
とうとつに彼女の舌が強張ったのは、反り返った喉にヒロが噛み付いたからだった。躰を繋げながら上肢を倒し、軽く牙を剥いたヒロは、その首筋に顔を埋め、舌先で鎖骨まで舐め上げたのち、首の付け根あたりを強く吸った。白い肌にはくっきりとした赤い痕がつく。
「はぁ……ほら、ヒロもキスしていいぞ」
「やった。なまえちゃんこっち向こうか」
「ひろ、みつく……」
「いい子」
ずりずりと僕は座ったまま少しだけ前進し、膝枕状態だった彼女の背を緩く起こさせ、自分の胸に寄りかからせる。ヒロがキスしやすいように再びバックハグの格好に戻ると、早速正面から唇を奪われている彼女の肩を背後から噛んだ。
「……〜〜っ」
「ゼロに噛まれてきもちいんだね。中、きゅうきゅうする」
「まるで猫の交尾だな。雌が逃げないように噛むらしいんだけど……逃げられなくされて、喜んじゃうんだ、なまえは」
汗に濡れた肌にじっとりと貼り付く襟足をかき分けて、露わにしたうなじにかぷりと歯を立てる。そうするとまた彼女は締めたのか、ヒロの汗を伝わせる頬が引き攣った。胸を揉みしだき、指と指で挟んだ乳首を時折くりくりと擦りあげて、いやいやとかぶりを振ってかたちだけの抵抗をするなまえの肩や首にまた歯を立てる。彼女は小刻みに腿を震わせて、時偶波打つように腰をしならせた。
「猫って違う雄の子供を同時に産むことがあるらしいんだ。なまえも猫だったら僕とヒロの双子や三つ子を産めたのにね」
滔々と蘊蓄を語る僕だけれど、その手は熟れた乳首を延々と可愛がっている。
「なまえちゃん、“にゃあ”って言ってみて」
「にゃ、にゃあっ……。んっ、景光君、きもちいにゃんっ。んにゃっ、あっ、つよくしにゃ、れ……っ!」
律儀に招き猫のようなポーズまでしたなまえにヒロが律動を強くする。
「はーっ、かわい。なまえちゃん、次、あれしない? 猫耳つけるやつ。尻尾も欲しいな。きっとかわいいよ。パンツについてるのもあるけど、お尻に刺すのもあるんだよ。アナルプラグ、っていうんだっけ?」
裸のなまえにふわふわの耳と尻尾、考えるだけでそそられた。バックから突けばピストンに応じて挑発的に尻尾が揺らめき、正面から繋がれば尻から垂れて下敷きにされた尻尾がまるで本当に生えているかのように映る。肉の壁を一枚隔てて、二つの穴に挿入されれば壁越しにプラグとペニスがごりごり擦れて彼女も僕らも新しい刺激に出会えるだろう。
「それ、いいな。犬のもあればいいのに」
「犬はちょっとハードプレイっぽくないか?」
「まあ……確かに」
僕がどちらかといえば犬派だったから言ってみただけだったのだが、彼女の華奢な首にごつごつとした首輪をつけて、手綱を握り、敢えて惨めに散歩させるのはその特殊性もあってなかなか手が伸びない。好奇心の食指だけは動いてはいるのだが……可哀想だという思いが先行する。
「よいしょ……っと」
僕は徐ろに、ヒロの腰をゆるりと挟み込んでいた彼女の脚の、その膝裏を掴み、しゃこ貝のように大きく開かせて、躰側に折り畳んだ。目に見えて戸惑う彼女の顔に膝が寄り、ヒロが距離を詰めればその肩に脹脛が乗ってしまう。
「ゼロ、ナイスタイミング」
「そろそろ奥行きたい頃だと思って」
幼馴染故に彼のことは手に取るようにわかるのだ。
「やぁ……これ、恥ずかしいよ、零君……」
僕に腿を取られてM字開脚を強制させられたなまえは消え入りそうな声で恥じらう。
「恥ずかしがってるなまえちゃん、かわいくて好きだな……」
そんな彼女の脚をより畳み込ませて、唇の上にちゅっというノイズを弾けさせたヒロは、腰を奥へと推し進めた。
「これ、来て、るっ……! ひろくんのっ、奥来ちゃって……! る、からぁっ」
「うん。奥、きもちいね」
「そこっ、やあぁっ! そこ、それ、ひろくんっ、ちがうからぁっ! 違うの、違う、しちゃ、だめなのっ! それ、はいっちゃ、だめなとこっ……! あっ! ひっ……、うあっ」
「うん……。ゆっくり、慣らそうな。いつかちゃんとここでも気持ちよくなれるように練習しよう」
彼女の肩越しに盗み見た結合部はぴとりと二人の恥骨が重なっており、似た色の陰毛が摩擦している。全て収められて根本さえ見えないヒロのそれが、未だ不可侵の子宮に差し掛かっているのか、未知の感覚に怯えるなまえは弱々しくその肩を押し返そうとする。
「やうっ、ひろ、く……はいり、すぎ……っ、だからぁっ! 出てぇ……出てって、よぉ……っ!」
「っと、ごめん。此処……ポルチオで感じられるようになってくれたら、嬉しいんだけどな……。怖かったね。今日はこの辺でやめとこうか」
恥ずかしい格好で胎の奥を探られるなまえはほろほろと涙を零していた。見兼ねたヒロがよしよしと頭を撫でながら腰を引く。が、しかし。
「あ……う……、や、がんばるっ、から……、きもちくなるれんしゅう、するから……ぽるちお、して……っ」
ひしりとヒロの背中に抱きついたなまえは健気に繋がり続けることを選ぶ。
「ほんと? 無理してない?」
「喜んで欲しい、から、頑張りたい……」
「かわいい……。もっとえっちな子にしてあげる。ね、おねだりしてみて」
「え……? お、おく……、ぽるちお、きもちよくなれるまで、してください。私のこと、零君とヒロ君でもっとえっちな女の子にしてっ……」
恥じらいながらも懸命に厭らしくあろうとする彼女の姿に、ずん……、と僕まで総身の血潮が下肢に奪われるのを感じていた。シーツに沈めた腰が重くなり、預かっている彼女の腰に肥大化する欲を押し付けて扱き倒したくなる。ごり、と硬化した屹立を背後から押し当てると、それの正体を背面の鈍い神経の上にも察したのかなまえの肩がぴくりと跳ねる。
「んっ、ポルチオ、性感帯になるまで……っ、はっ、一緒に、頑張ろうね、なまえちゃん」
「僕も君達が気持ちよくなるの、手伝ってやるよ」
ヒロの緩やかなピストンをうけとめるなまえの躰。僕はその掴んだ腿を手綱のように操って、こちらからも揺らしてやった。彼女の腰を玩具のように上下させ、それを使ってヒロを扱くようなイメージだ。ヒロの行う突きに加え、僕の揺さぶりが膣とペニスに摩擦を与えるから、単純に快楽の手数が増えて、彼女達は一緒になって悶える。
「ちょ、ぜろ……っ!」
「れーくんっ。あたっちゃ、あっ! こすれ、て……ひうっ。やぅっ、それ……すきぃっ……。だめ、もう、いっちゃう。ふあ〜っ」
まだうまく快楽を拾えない奥だけを抉られても辛い時間が続くだけだろう。中腹の肉の壁をヒロの茎で擦り上げるように外から腰を回させてやれば、彼女は甘やかにそれを噛みしめる。
「は……、んっ、なまえちゃ……、ちょっと強めにっ、動くよっ……」
「きゃっ、う……っ!? やぁんっ。あ……。ひろくん、ひろくんっ」
僕の悪戯に抗うようにヒロが荒っぽく腰を打ち付けると、2つの刺激に揉まれたなまえは眼を廻した。――これ、多分もういってるな。
声は我慢するな、それが僕らにはいい薬になるから、と教え込んだお陰で反り返る喉から遠慮なく紡がれる嬌声は、寝室の厚い壁に跳ね返って、部屋に転がる。絶頂に押し上げられて声を堪えるという発想も本能の嵐に吹き飛ばされているのかもしれないが、鼓膜を震わせる甲高い声は確かに鼓動を荒ぶらせた。
「なまえちゃ……っ、こっち、来てくれる……っ?」
びくびく痙攣するなまえの躰を僕の腕の中から奪い、抱き上げた景光は、そのまま自身の膝に乗せて真下から一等強く貫く。熱い抱擁で逃げ場がない中、重力と自重を味方に深く繋がされ、ねじこまれて、ポルチオに浴びるはずだった子種を其処に変わりなくある膜に横取りされて。
彼女の首筋に額を埋めていたヒロが息を速めながら顔を上げる。欲を叩き込んだヒロに一拍遅れてまた達してしまった彼女は、細い呼吸を繰り返しながらくったりと萎びた腕でまだその背中に獅噛みついていた。自力で座っていられなくなった彼女は、ヒロに腕を解かれて酷く心細そうに眉を寄せる。
「離しちゃ、や……」
「そんな顔しないで? 待ってね、抜いた方がお腹、楽だと思うから……」
「なまえ、こっちおいで」
僕は抜け殻のようになっているなまえの肩を預かり、ゆっくりと自らの方へ引き寄せて、ヒロのペニスを抜くのを手伝った。恋人達の間を行き来させられる彼女は人形のようだ。白濁を溜めた膜の外側、こびりついていたものと、引き抜かれた瞬間に表へと躍り出た蜜で、シーツが染みを広げる。
ぽうっと虚空に視線を注ぎながら、僕にしなだれかかる彼女は矢庭に自身の臍の下の皮をきゅっと掴んだ。
「どうした? お腹痛いのか?」
「えっ、どうしよう、大丈夫? ごめんね、オレやりすぎたかも」
慌てふためく恋人二人に、なまえはふるふると首を振って。
「ちが……。奥、むずむずする……」
切なそうに両膝を寄せ、シーツに皺を描き出しながら喉を震わせるのだった。
「どう、しよう……変に、なっちゃった……っ」
舌舐めずりをした僕は、汗に濡れた白い腰から首にかけてをつう、となぞり、その背を押した。ぽす、となまえの両手を寝台につかせ、四つん這いにさせると、白桃さながらの張りのある尻に下着の中の昂りでキスをした。
「あ……」
「なまえとヒロが見てるところを見ていたら、僕もこんなだよ……。お腹のむずむず、これでいっぱい突いて治してあげる」
「ゼロのなら絶対届くよ。子宮降りてなくても、ぐぐーって。ふふ、物欲しそうな顔してる……ゼロの、欲しくなっちゃった?」
「ほ、欲しい、ちょうだい、零君」
「嗚呼……あげる。君に全部あげるよ……」
下着を腿まで下ろすとほろりとまろびでた芯に半透明の薄っぺらいそれを着せ、まろい尻に突きつける。尾骨を覆うひんやりとした脂肪の鎧は、僕の熱い粘膜とは温度差のあり、それにすら張り詰めた神経を焦がされて堪らない。交尾の如く背後から挿入し、まず亀頭の傘を彼女の肉の溝に隠した。ヒロを受け入れていた名残りで、樹の虚のようにくっぽりと口を半開きにさせている裂け目はおいしそうに僕を食む。
「ヒロの形になってる、な……っ! やわらかくてきもちい……。なぁ、まだ早いけど、全部入れて良いか?」
「来て……入れて……」
高く持ち上げてくれている尻から腰、そして背骨の浮く背中に手を這わせ、唇で三日月の形を描き出す。
「ありがとう。このまま入れるよ。辛くなったらっ、……っ、言ってくれ」
歩むような速度で進めていくと、眼下の尻がふるんと揺れる。背中の裏に隠れて見えないけれど、きっと下向きになった胸も零れそうなくらいに震えているのだろう。掬い取って揉んでやりたいところだが、まだ繋がりが安定していないなかで姿勢を変えれば抜け落ちてしまう恐れがある。
「なまえは僕とヒロの、どっちが気持ちいい?」
「なんでそう亀裂を生むようなことを」
なんとはなしに疑問をぶつけてみた僕に、呆れ返るのはなまえではなくヒロだ。
「気になって、さっ」
「ひゃんっ」
ぐ、と僕は腰を進める。
「オレも気にはなるけど……。この状況じゃ答え難いよね? オレって言ったらゼロ、意地悪しそうだし」
「へぇ、随分自信があるんだな」
その裏付けとして、事実、ヒロの彼女への触れ方は肌や骨をとろけさせるように優しい。単純に愛撫だけで競わされた日には敗北を喫するやもしれないが、混ざりものの血の僕は日本人よりもペニスの大きさに恵まれているし、そこは大きなアドバンテージに思える。――ヒロも結構でかいから、本当に微々たる差ではあると思うけれど。
「で、どうなんだ、なまえ」
「ひ、う。れーくんのっ、おくまで、いっぱいになって、きもちくて……ふあっ! ひろく、ちゅーとか、さわってくれるのやさしくて、きもちくてすき……っだから、どっちかとかじゃ、なっ、あぁっ……!」
優等的な回答は僕達の恋人として百点満点だ。
抜き差しを繰り返しながらも少しずつ深くまで入り込んでいく。
「オレもまた勃っちゃった……」
雌猫さながらに四つん這いで繋がれている彼女を正面から眺めていたヒロは、胡座をかく脚の間で言葉のとおりに血管を浮き上がらせてそれを勃起させていた。一度欲を放っているため完全な大きさや硬さではないが――僕と景光が互いに状態ごとのペニスのサイズを把握しているのは、幼馴染だということを差し引いても、この爛れた関係の中ではある種当然のこととして――間近で僕に抱かれるなまえをこのまま見せつけられていればそれのちょっとした欠けもすぐに満ちるだろう。
「……っ、ヒロの、助けてやったら?」
「ふ、ぁ……。する。ヒロ君の、したいよ……っ」
提案しておきながら、ヒロ君、ヒロ君、と今抱いているのは僕にも関わらず彼女は友人とはいえ違う男の名前ばかり恋しそうに紡ぐので、おとなげなくも妬けてしまう。来て、とヒロに向かって伸ばされたなまえの手を後ろから絡め取ってシーツに縫い止め、ずん、と突き上げる。
「んあぁっ。あぁっ、あ……、れーくんそんな、しちゃあ……っ!」
「君がっ、ヒロことばっかり好きそうにするからっ、だ……! 今お前を抱いてるのは誰?」
「れいくっ、零君、ですっ、ごめんなさ……っ」
「そうだよ、僕だ。はぁ……っ、でも仲間はずれにするのは僕も嫌だしな……」
手元に何枚か用意していたコンドームの包をひとつ取り、ヒロの方へと投げつける。放物線を描いて舞い上がったそれは軽やかに彼の手のひらに着地し、すぐさま封を切られた。本日二枚目のコンドームを聳え立つそれに纏わせると、ずい、と反り返って裏筋を晒している付け根を彼女の鼻先に肉薄させる。ヒロは困ったように視線を外した彼女の顎を捕まえるとそれを掬い、凶悪なまでに立ち上がった自身を見せつけた。そこまでしておきながら、「舐めてくれる?」とあくまで選択の権利を彼女に授けるところは奴らしく、優しい。
「はんっ、む……」
「わ、串刺しだ。えろい」
猫のような瞳孔をうっとりととろけさせながら、眼下のなまえを見下ろすヒロも、すっかり雄の面持ちである。獣に退化したように四つん這いにさせた彼女を、僕がバックから犯し、正面からはヒロがペニスでその唇を割らせ、口を塞ぐ。正面と背面から膝立ちの男達によって上下それぞれの口にペニスを突き立てられた彼女は、僕とヒロの間にその身を以て橋を架けていた。
尻の肉を押し潰し、僕自身を根本まできっちりと埋めたとき、貫かれている喉から苦しげな呻きが漏れ聞こえた。
「苦しい、だろ。おくちの中、入れなくていいから……んっ、舐めて……? 代わりに手でも触ってくれる?」
彼女が呼吸をうまく結べていないことに気づいたヒロはあっけなくその口の中から出ていった。
「いいの……? 私、平気だよ」
「オレ、苦しそうだとできないから。多分萎えちゃう」
「優しいね」
頭を下げたなまえは、多分ヒロの亀頭にキスをしている。
――いいな、僕もキスされたい。したい。
「ごめん、なまえ、僕も一回キスさせて」
言うと、ベッドに肘を立ててヒロのものをやわやわと握り初めていたなまえの肩を幽かに裏返させ、首を振り返らせる。背中に覆いかぶさって唇を奪うと、ごく短い間ではあるけれど、その口腔を舌でなぶった。
他人の唾液も精液も、普通なら断固として触れたくないものだろうが、不思議とヒロのものなら拒否感がない。例えいかな愛おしい恋人でも、他の男の性器を舐めた口とキスするのは拒否感があるのだろうが、きっと世界で唯一の例外として、ヒロの精子を啜ったなまえの唇とだけは平気でキスができた。いつか子供を望んだとき、きっとヒロの遺伝子に塗れた彼女の膣にもいとおしさ以外の感情は抱かないだろう。汚らしいなどとは、きっと夢にも想わない。
「男性器がこんな形をしているのは、他の雄の精子を掻き出すためという説があるらしいけれど、他の男なら別として、僕はヒロのならそれほど汚いとも思わないな……。ヒロとなまえの子供なら見てみたいくらいだ」
夢想を語る僕は、くびれた腰からベッドと向かい合っている表側へと手を滑らせて、皮膚の上から子宮を辿る。妊娠を示唆するような愛撫だ。
「ひ……やぁっ! 嫌……っ、赤ちゃんやだ……! やだぁ……」
「でも締まってる。口と体、どっちが嘘つきなんだろうな」
かたかたと震えながら僕を振り返る彼女に意地悪く微笑み、肌の上から撫でさすった子宮を胎の内側からもぎゅうっと押し上げてやる。孕むことは望んでいないのに孕むための行為に溺れて喘ぐ彼女は、深奥の手前をなぞられて結局は感じている。めそめそと精が結ばれることを拒む彼女の頭をそっと撫でたヒロがくすくすと笑った。
「子供はいらなくても中出しには興奮しちゃうんじゃない? かわいいね。それにとってもえっち」
「出さ……ない、でぇ……」
「大丈夫、オレもゼロも無責任なことはしないから安心して。君の将来に響かないようにちゃんと考えてるし、避妊はするつもりだよ。でも、そうだね、これはもしもの話。どっちの子供が先にできるだろう……。ゼロの子供はわかりやすそうだね。オレのは……どうかな、吊り目だったらオレの子かな? なまえちゃんどっちかっていうと垂れ目っぽいし」
「そうか? 吊り目っぽくないか?」
「ゼロは自分が垂れがちだから、それに慣れすぎて人の垂れ目を垂れ目と認識できないんだよ」
「その言葉、そっくりそのままヒロに返すぞ」
「け、喧嘩しないで……」
ヒロのものから口を離したなまえが悲しそうに言う。
「してないしてない」と、ヒロ。
「そうそう、これはディベートだ」と、僕。
くだらないことですぐ言い合いを始めるなんて日常茶飯事で、仲直りをするまでもそれほど時間は食わない僕らなのに彼女は決まっておどおどと戸惑ってしまう。女の子はその辺違うのだろうか。セックス中にすべきことではないと言われればそれまでだが、神聖視されがちな初夜さえ超えれば、セックスはクリスマスやハロウィンのような1年に一度の祭事ではなくなり、日々積み重ねていくコミュニケーションの一貫と変わる。歯車として日常に組み込まれていくわけだ。軽口を叩き合うのもセックスが僕らの毎日に馴染んで溶けた証である。
なまえがヒロの先端を飴のように舐めて、茎を撫で、睾丸をやわく揉む様を――自分は彼女の中に入り込みながら、特等席で鑑賞する。AVを見ながら恋人とするプレイに似てもいるが、見ているのはポルノグラフィではない現実なのだから、興奮も異様性もそれを大きく上回る。なまえとヒロが仲睦まじくしているのは見ていて微笑ましいもので、心は晴れやか。嗚呼、やっぱり、自分の子供と同じくらい、こいつと彼女の子供が見てみたい。
「さっきの話の続きだけど……っ、こんな話は知ってるか? 感応遺伝――テレゴニー……。雌が以前に交わった雄の特質が、のちに交わった別の雄との子に遺伝するという俗説……。早い話が夫との子供なのに元カレにも似ているっていう説だ。現代ではとっくにあり得ないと否定されているんだが、僕たちにとっては浪漫かもしれないな……」
神話の世界の英雄には、神と人それぞれに父親を二人持つ者も多くいる。例えば神と人の両方を父としたテセウスは、混じり合った二つの精液によって二重に結ばれたことで人間を超越した超人として誕生した。
これは先の雌猫が複数の雄の子を何重かに宿すという話にも通ずるところがある。この世界が架空が神話の国土の上にあったなら、或いは僕らが獣なら、僕と景光を父親とした子供を成すことも、僕の子と景光の子を双子として同時に授かることも、有り得たかも知れないのに。
彼女の子宮が人知を超えた融通を利かせてくれやしないか、とその場所の一端であるポルチオを亀頭で舐めあげると、僕の下で背中が震えた。
「いつもながらゼロの睦言は難しくてよくわからないね、なまえちゃん。困っちゃうよな。女の子とえっちしながら言うことじゃないだろ」
ヒロは彼女の額を撫でながら、呆れたような、でもそれも僕らしいと半ば諦めたような苦笑いで言う。
「うるさいな、なんでもいいだろ」
「まあでもなまえちゃんは慣れっこか。君はゼロの声好きだもんね。いつもにこにこしながら雑学聞いてる」
「ヒロ君の声も、んっ、好きだよ……?」
「嬉しいー」
「はは、僕もなまえの声、好きだよ。こういうときのは特に……」
きゅう、と躰の裏側に回っている臍の内側を少し引いた腰で引っ掻いてあげる。
「やあぁんっ」
「ほら、かわいい」
かわいい、いい子、と猫撫で声で賛美を囁いてあげると甘く胎がひくついて、喜んでいることが手に取るようにわかる。誰だって褒められた方が嬉しいに決まっている。好き、きもちい、と彼女が口にすると、大きく硬く膨れる自身と同じ。
僕の律動に合わせて、そして彼女自身のゆらめきに合わせて振られる腰に、熱い手を這わす。尻の割れ目の尾骨をなぞりながら下っていき、かぱりと尻たぶを左右に割り広げて排泄のための窪みにじっとりと視線を這わせた。
「なまえは僕とヒロに同時に抱かれる方法、知ってるか? ……っ、締まった。こことお尻に同時に入れるか、ここに二つ入れるか、なんだけど」
肛門に処女という語句を充てがうのが適切なのかはわからないが、ともかく一度も触れたことのないそこに指で触れてみる。性欲に酔っていなければ不衛生だと触れることも謹んだだろうに、さんざんに体液の撒かれたシーツの上、全員の分泌物を受け止めさせられて汚れた彼女を心からかわいらしいと思える狂った頭だ、抵抗はない。
ダブルペネトレーション――肛門と性器を二人に同時に犯される方法と、性器に二人の男性器を同時に挿入する方法、両方に適用される名称だ。正気も理性も蒸発したような、グロテスクですらあるセックス。
二人の恋人に同時に抱かれるという夢のようなことに一度はときめいたなまえだったが、本来悦に浸るための器官ではない排泄をする場所に指を宛てがわれた途端、僕から逃げようと膝で前へ進む。
「ひ……や……、嫌、ぁ……!
「あー……嫌か。嫌だよなぁ……」
僕から距離を置こうとした彼女によって、ずる、と埋めていたペニスの半分程度が抜けてしまう。勢いづけて腰を打ち付けると否応なく感じてしまいながらも、脳味噌の底にかろうじて残っていた理性でぶんぶんと首を振る。
「うぅっ……おしりやだっ。ふたつも、やだ……。ひぐ、やめてぇ……死んじゃっ、からぁっ……」
「あぁ、泣いちゃった……。もう、ゼロが酷いこと言うから……。さすがに負担が大きいよね。AVの中だけの話だよ、あんなの。今まで通り順番でいいんじゃないかな。ねぇ? 怖いよね、なまえちゃん」
セックス中は感情で肉体を動かしていく。その二点がいつも以上に直結するから、彼女は怯える心を鏡のように瞳や躰に反射して、ほろほろと涙を流す。妊娠だの肛門だのと少しいじめすぎてしまった。よしよしとヒロにあやされているなまえを見ながら迂闊な発言を後悔した。
「ごめん、怖いよな。やらないよ。肛門への異物挿入って事故でない限り保険適応外だし、万が一損傷して人工肛門を使うことになると排泄のコントロールができなくなって、常に失禁状態になる……。気持ち良くなれるかどうかもわからない――……なれたとして、其れに見合うリスクや負担だとも思えない――のに、そんなことはできないさ」
「……知ってるってことはお前調べたな?」
「どうせならヒロと一緒にしたいじゃないか。非現実的すぎて諦めたけど」
「だからえっちしながらする話じゃないんだってば。女の子はリラックスして安心できなきゃ気持ちよくなれないのに怖がらせてどうするんだよ」
「すまん」
なまえがまた喧嘩しないでと言うので、僕とヒロはしてないしてないと口を揃えて答えた。
「変な話ししてごめんね。なまえちゃん、怖いなら抱っこしながらしよっか。膝立ちできる?」
箱から引き抜いたティッシュで彼女の涙を拭ったヒロがその頬を撫でながら提案する。まだ濡れている瞳でこくんと頷く彼女ではあるが、自ら身を起こすと僕のものに中を擦られるのか膝に全体重を預けることを自重してしまう。結局また四つん這いに戻り、ぷるぷるとシーツを握りしめる姿を見兼ね、ヒロは彼女の脇を掴むとひょいと抱えあげて支えながら膝で立たせた。ペニスの擦れる場所、絞られる位置が変わって目眩に襲われる。
ずりずりと膝で歩み寄ってきたヒロが距離を詰めれば、三人ともお揃いの膝立ちだ。前後から一人の女を挟み、僕は彼女の腰を背後から、ヒロは正面から背中を抱く。退路を絶たれると同義の抱擁だというのに、それで安堵しきった彼女は少しだけ肩の力を抜いてくれた。
「ん……、ね、お腹でごしごししていい?」
床に対して垂直に勃起したペニスの、正面に見せびらかされている裏側がなまえの下腹部に押し当てられた。
「ぷにぷに、で……きもちい……。この裏にゼロの、入ってるんだよな」
ヒロが染み染みと言う。なまえの肌を挟んで二人のペニスが擦られている。やはり一緒に同じ粘膜に包まれることができないのが悔やまれた。
「僕がポルチオ慣らすから……っ、はっ、ヒロはクリ、触ってやってくれないか……っ?」
「ん、わかった。なまえちゃん、くりちゃん触ろうね」
ヒロの片手が前から彼女の脚の狭間に滑り込み、皮下に埋もれているクリトリスを探る。彼はゆらゆら腰を振って表から腹に自身を擦りつけながら、股の控えめな突起を指の腹で撫でていく。
僕は杭を打つように何度も何度もバックでとん、とん、と子宮を撃ち抜いて、真上に跳ねては逃れようとするその腰を掴んで自身の亀頭へと下ろした。とちゅっ、と胎の奥と深い口付けを交わすと腰ががくがく震えて、中もぎゅうぎゅうに伸縮して、媚びられて、僕も気持ちがいい。こつこつ打ち合わされる恥骨が鳴って、ちゅぱちゅぱ奥と先端が啄むようなキスを繰り返している。
「きゃっ、うっ。やぁんっ!」
「どう? 気持ちいいところと一緒にポルチオとんとんされると、気持ちいいって錯覚しちゃうんじゃない? 乳首もしてあげる」
ヒロは核を虐めているのとは別の手でくりくりと胸の飾りを回して、器用に彼女を追い詰めた。
「びりびり、すゆっ……ふぁぁ……っ。いっしょ、やだっ、ひう、わかんな……、わかんなくなる……っ、いや、やぁ〜っ!」
「ちょっと強かった、かな……。優しく撫で撫でするから、このまま同時にさせて。んっ、なまえちゃんも、こっち、触ってくれる?」
こっち、と伏せられた猫目がさし示すのは彼らの腹と腹の間で擦り上げられている反り返った屹立である。なまえが震える手でヒロのそれを撫でてやると、お返しとばかりにヒロも陰核をそうっと撫でる。
「んあぁ……。すき、やさしいの……、それ、すき、んっ」
「ん、なまえちゃん……、手、借りるよ――」
弱々しく熱に添えられていただけの彼女の手をむんずと掴んで、ヒロは玩具のようにその手を使って快楽を追い始める。強めに何度か扱いた彼は、彼女の親指に親指を重ね、亀頭をぎゅっと押させたところで、欲を吐き出す。ヒロは精子を受け止めた膜を乱暴に投げ捨てると、口を絞る手間も惜しんでそのまま彼女をうっとりと見据えた。
「次、君の番だな」
「んんっ」
猫背になったヒロはなまえの胸の先端を吸い上げながら、陰核にも絶えず刺激を送り続けた。僕はぐらぐらと不安定な肢体を抱きしめることで抑え込んだ。そしてヒロによって快楽で満たされている彼女の子宮の奥を容赦なく穿つ。
ぴく、となまえの肩が跳ねたとき、胸から顔を上げたヒロが声を上げる。
「あ、今のところじゃない?」
「あー……ここか、なっ」
正面のヒロにはどうやら彼女の感じた顔が見えていたようだ。直前の記憶の糸を手繰り寄せ、その瞬間の場所、こすり方を再現するように突いてやると、僕らの間にある腰が大きく反り返る。狭まる膣が絶頂したことを隠させない。
「ひあぁ〜っ」
「……っ、僕も、出したい、からっ……、ヒロ、もうちょっとこの子のこと、良くしといて。奥だから、はふ……痛いかもしれない」
「了解。なまえちゃん、おっぱいとくりちゃん、また同時にしようか」
なまえのことはヒロに委ねて僕は本能に忠実になり、貪るが如く突き上げていく。かなり乱暴に動いていたが、クリトリスと乳首を可愛がられれば、ポルチオを開拓される痛みを感じるいとまも揉み消され、彼女は快楽にだけ息を乱すのだった。
「ひっ、いって、るっ……。いってう、からっ……、も、いった、のに……!」
「うん、知ってる。オレ、君がいき続けてるところ見たいな」
「あっ。は……、う〜〜っ」
は、は、と重なる吐息は3つあって、ヒロも興奮を蘇らせていることが察せられる。口で右胸を、両手で左胸と陰核をそれぞれに愛でながら、延々と悦楽の坩堝に押し上げ続け、熱の夢から目覚めることを許さない。興奮すると荒っぽく抱いてしまう僕も僕だが、噎せ返るほど甘ったるい優しさを持つようで、ずっと休み無く至らせ続けるヒロも体外だろう。責め方の違う、しかし共通して執拗な男に捕まって、可哀想な彼女。
彼女の肩をぐいと引くと、無理に首だけで振り返らせてその唇を吸い、舌と同時にペニスの先を子宮口にぐりぐりと擦りつけた。膜に覆われていては種が結ばれるはずもないのに、僕は精子を塗り込むように満遍なくかき混ぜて、嘆息のあとに引き上げる。
崩れ落ちたなまえを景光が抱きとめたのを確認し、コンドームを外した。自分のものと、ついでにヒロが処理を途中で中断して投げ捨てたものを一緒に縛って屑籠に放り、白い粘りを滴らせる先端をティッシュで拭う。
「ポルチオ、よかった?」
荒い呼気のなまえの髪を指で梳きながらヒロが問う。ぺたんとベッドに尻をつけてへたり込み、彼の肩に額を預けていた彼女は、息の隙間にか細く答える。
「わ……かんな……、ぜんぶ、きもちかった……」
「全部かー」
すると僕がティッシュやらタオルやら何やらの準備をしている間にヒロとなまえがキスをし始めたので、むっとしてそれらを放り出して自分も加わった。

ベッドの真ん中になまえ、左右に僕とヒロ。そろそろ睡魔に頭が侵食されてくる時間帯、僕は回転の鈍った霞んだ頭でぼんやりと彼女の二の腕を揉んでいた。
明日のアラームをやや遅めに設定し直したヒロが、枕の上で伏せながらそういえば、と口火を切る。
「警察学校もだけど、卒業後も大抵は寮生活なんだって。既婚者は免除されるって兄さん言ってたから、それまでには考えたいよな……」
考えるといえば十中八九結婚だろう。この国での夫婦の定義は男女二人が寄り合う、最小単位のコミュニティ。当たり前だが異端として弾かれる僕らはそれなりに策を講じる必要がある。
「例えばだけど、僕となまえが結婚して、少し経ったら離婚、そしてヒロと結婚。また少し経ったらヒロと離婚して、僕と結婚……これをサイクルとして繰り返していくか、あとは片方と結婚してもう片方と養子縁組がまるいだろうな。なまえはどっちがいい?」
「えっ…………。結婚何回もするのはちょっと…………」
「だよな。僕もこれはめんどくさそうだと思ってた」
廻る思考が眠気を振り切っていく。
「じゃあ養子縁組? どっちにしてもあぶれた方が入寮しちゃうんじゃない?」
と、ヒロが首を傾げる。
「どちらにせよ一回ずつ両方と結婚しておくのはありかもな。それならあぶれた方も『数カ月後に結婚の予定がある』状態になれるから、入寮も免除して貰えるかもしれない……。まあ、どうしたいかはなまえが決めてくれ」
「えっ、い、いま……?」
「そんなに急かさないさ。卒業は先だし、手続きもそれなりにあるわけだしね」
僕はごろりと寝返りを打って天井を仰いだ。
「明日の朝何食べたい? なんでも作るよ」
「僕は味噌汁が良い」
「なまえちゃんに聞いてるんだけど」
「思いつかない……」
「あはは、ならシェフの気まぐれメニューだね。楽しみにしてて」
このままずっと話し込んでいたかったけれど、夜闇を溜めた天井を仰いでいるうちにぽつりぽつりと僕らは交える言葉の数を減らしていった。
「零君とヒロ君とずっと一緒にいられるといいな」
瞼の幕を下ろす直前、なまえがそんなことを零した。言葉と入れ違いにすぐに寝息を立て始める彼女の手を握る。
三人で床を共にするために選んだ広々としたベッドで、砂糖水に沈んだような甘ったるい夜を溶かしていく。僕らの両親も、友人も、誰も知らない――僕らが毎晩淫らな寝方をしていることなんて。幼馴染同士のルームシェアなどという嘘の糖衣で包んだ、不埒な交際はきっと墓場まで抱えていく。そして同じ墓石の下で、骸骨になってもキスしていたい。


2023/08/14
- ナノ -