不離のトラペジア / 逃走星のミスティリオン

ヒューマニティ・アシッド・ビート

轟くような演奏は足の裏を伝い、臓物を揺らすように腹に響く。五臓六腑に振動として染み渡るアマチュアのロックミュージック。目当てのインディーズバンドが出尽くしてからも、新しいバンドを開拓するつもりで、また学生の財布から払うにはやや抵抗がある値段のチケット代を惜しんで、ライブハウスに足を留めていたのだが、輝く新星のような期待の新人には巡り会えない。くるくると目覚ましく廻るステージを緩慢に感じ始めたのは、多分オレも降谷も代わり映えのしない出演者に飽き飽きしていたからだ。
その癖すし詰めの会場の熱気と歓声に当てられて、躰は熱い。飛んだり跳ねたり口笛を吹いたりする無秩序な客に大事ななまえちゃんが潰されないように、オレたちが壁になるつもりで彼女を間に挟んでいた。他の観客からは180センチメートル超えの男子大学生2人の影になって見えないのだろうけれど、オレ達からはよく見える――彼女のうなじを伝う汗。はらり、と高く束ねられたまとめ髪から落ちる後れ毛。熱さと退屈は、毒だ。これを持て余しているうちは、若い。
どんっ、と。後ろの連中が振り上げた手が、ゼロの後頭部にぶつかり、よろけたそいつは手にしていたワンオーダー制のペットボトルの緑茶をなまえちゃんの服に零してしまった。
「冷たっ!」
「うわ、ごめん、なまえ。やっちゃったな……大丈夫か?」
わたわたとハンカチを取り出して、もうそれでは間に合わないほどに染みになっている彼女の服の胸元を拭うゼロだが……オレは知っている。ゼロがボトルの蓋を敢えて緩めていたこと、頭が人よりも一つ分高いから、後ろに立つ人間に気を配っているこいつがあのときは敢えて自分からぶつかりに言ったこと。策士なのだ。
――オレはゼロの策に乗ることにした。
「着替えてきたら? オレ、さっきライブTシャツ衝動買いしちゃったから、それでよければ貸すよ。ほらこっち」
騒音の中、耳に指で栓をしながら声を張り上げ、オレはなまえちゃんの手を引いた。着替えを貸し与えるだけなら彼女1人が会場から出てしまえば良いだけの話なのに、態々人混みを突き抜ける手助けをするのも、それを背後からゼロが追ってくるのも、それが建前で他に目論見があるからだ。
一番近いトイレは最近改修工事もされて衛生的で、立地もいいので人が寄り付く。並びたくはないだろうと嘘ではないけれど本質でもない御託を並べて、オレたちは彼女を建物の裏の一番遠いトイレまで連れてきた。
「えっ……、零君、景光君、こっち男子トイ――……」
ぱたん、と個室の扉を閉じれば狭い密室に3人だけ。あの、と肩を竦めながら困ったように切り出すなまえちゃんの口を、ゼロが背後から塞いで、しー、と指を立てる。
「ゼロ、何個持ってる?」
「1個。そっちは」
「同じ。1回ずつかー……。足りるかな」
何の話、なんて野暮なことは彼女は聞かない。けれども察するところがあったのか信号機さながらにみるみる青褪めていく。眉を寄せつつもおとなしくしている彼女の首筋にゼロが背後から吸い付いた。ぺろりと這う赤い舌は味蕾にその汗を乗せているのだろう。オレもオレで、服の裾から手を潜り込ませてくびれた腰を撫であげた。しっとりと汗をかいた脾腹を登り、下着の上から胸を揉む。彼女の背後を陣取るゼロが後ろからシャツを捲くりあげて胸や腹を見せてくれたので、オレはブラのホックを指で弾いた。先に胸を揉んだのはゼロで、両胸をふわりと包む褐色の手を「両方はずるいだろ」と睨むと、「悪い悪い」と悪びれなく言って片胸を譲ってくれた。万歳をさせてシャツとブラを脱がし、くしゃりとまるめたそれはトイレのタンクの上にでも乗せておく。
「んっ……しょっぱ……。あ、ちょっとお茶の味もする……」
少し屈んでなまえちゃんの胸を舐める。谷間や乳房の下の方は特に濡れていて、大粒の汗を貼り付けていた。それをぺろりと舐め取って、すでに硬化しつつある胸の飾りをつんと舌先でつついてみる。
「ひゃっ」
「今日は声、我慢しような」
そう言ったゼロが、胸を揉んでいるのとは反対の手でまたなまえちゃんの口を覆った。オレは彼女の腰を抱きながらねっとりと乳首を舌でかわいがって、ゼロは乳房全体を揉んだり、気まぐれに先端を指でいじりながら、ちゅ、ちゅ、と首筋にキスを落としていく。男二人に背後と正面を固められ、口を塞がれながら恥ずかしいことをされている彼女は犯されているみたいで、爪痕を立てるように興奮の波が胸を引っ掻いた。
オレやゼロの拘束を振りほどくためというよりも、受け止めきれない刺激を逃すために、なまえちゃんは控えめにかぶりを振ったり、膝を内向きに変えたり、身を捩っている。腰がねじれると腹に寄る皺が、どうしようもなくエロティックだ。
「オレ、慣らしていい?」
「ん。捲っておくな」
ゼロに許可を取って、彼女のショーツを膝まで下ろす。ゼロが彼女の口を塞いだまま、スカートの前を捲りあげてくれるおかげで、汗と蜜に湿った秘部はよく見えた。幼馴染ならではの連携になまえちゃんは為す術もない。しゃがむスペースもなかったので、オレは蓋をされた便座に腰をくだし、下から彼女の脚の狭間を仰ぎ見る。
「……っ」
「閉じちゃ駄目だろ、なまえちゃん」
咄嗟に内股になった腿を軽く掴んでやると、震える膝が開かれる。
「なまえ、これ自分で持っててくれ」
不本意に仁王立ちを迫られたなまえちゃんは、さらに背後のゼロからスカートの裾を握らされ、自らめくりあげておくように言い渡された。可哀想で可愛い彼女はそれに健気に従い、オレたちのために恥ずかしい艶姿も呑んでくれる。
整えられた下生えをかき分けて指をそこに這わせていくと、すでに蜜を湛えていたが、外で行う緊張感が妨げとなっているのか、平素よりは潤みを欠いていた。けれども背後からゼロに胸を揉みしだかれると不足分の愛液が徐々に補われていく。オレはとろりと指を湿らせるそれを亀裂全体に広げるように指を往復させる。
「ひぁっ!」
目立ち始めた核を撫でたとき、なまえちゃんの腰が震えた。
「声、出すなよ。誰かに聞こえる……」
「んっ、……うぅ、」
追い詰めるようなゼロの言いつけを遵守すべく、片手でスカートを捲ったまま、彼女はもう片方の手の甲を唇に押し付けて、蓋をする。
人に聞こえる、だなんて。そんなの嘘だ、とすぐにわかった。オレもゼロも愚かではない。彼に至っては人より随分と聡くて、あざとい。ちょっとやそっとの清掃では改善されない長年の汚れとアンモニア臭がこびりついたこちらの古いトイレは、表のトイレが改装されて清潔感の増した今や、その影に隠れてほとんど人は寄り付かない。憂う意味のない事を敢えて大袈裟に伝えて、脅し、興奮材料にしているだけなのだ。
ゼロも意地悪なもので、先程まではなまえちゃんの口を塞いでやっていたのに、今は両手で胸の双丘を弄んでいる。雪渓の頂きのような生白い乳房に、ゼロの褐色の指が沈み、その形状をやわやわと乱す。陰核と乳首を同時に撫でられて腰をくねらせる彼女は、声を喉の奥に留めきれていない。嬌声を漏らさせようと刺激を強め、いざ彼女が喘いでしまうと「聞こえるぞ」「見つかっちゃうよ」とたしなめ、困らせる。オレたちは悪い男だった。
「これじゃあ、なまえちゃん、お漏らししたみたいだね」
くるぶしまで垂れた愛液を指で拭いあげながら、オレが言うと、彼女は熱の宿る眼を揺らす。黙殺させている分、やめて、とも、もっと、とも幾らでも解釈できてしまう。オレは指先に乗せた厭らしい雫を下で掬い、喉を潤した。味はほとんどしないのに、味蕾が悦んでいる。
「先に入れていいか?」
「いいよ、連れてきたのゼロだしね」
「ん……。なまえ、このままお尻こっちに向けててくれ。ヒロのも、してやって」
がちゃがちゃベルトを緩め始めるゼロに背を向けたまま、なまえちゃんは指示をよく聞いて、入れてとばかりに臀部を彼に突き出した。軽く屈むと、便座に腰掛けているオレの前に胸を強調する扇状的な格好になり、おずおずと躊躇いがちに、でも誘惑するように、布を押し上げるオレの其れを撫でくる。昂ぶる自身を取り出そうとしてくれたなまえちゃんだったけれど、準備を終えたゼロが急いた様子で先端を彼女の亀裂に寄せたことで、肩を跳ねさせながら手を止めてしまった。彼女が上に逃げるように上肢を浮かせたことで、ゼロが挿入を初めたことがわかる。脱がせて貰えないのは寂しいけれど、ばっ、と両手で口を覆う彼女は既にいっぱいいっぱいの様子だったので、自分でベルトに手をかけた。
立ったままバックから押し込まれたなまえちゃんは、大差がついた股下の長さによって爪先立ちを強いられており、不安定な状態で繋がりを深められている。手で声を戒めるせいで、禄に掴まれもしていない。
「なまえちゃん、がくがくしてるけど大丈夫? 支えてようか」
「サンキュー、ヒロ。助かる」
雪崩込むようにオレの胸に飛び込んでくる彼女を抱き止め、よしよしとその背中を擦る。肩口の向こうに腰の上で丸まったスカートと、ゼロと繋がっているもっちりと肥えた尻が伺えた。二股に割れた尻たぶの隙間から、まだ咥えきれていない赤黒い性器の根本が覗いている。羨ましさはあっても親友のそれが視界に入る事に嫌悪感は刺激されることはない。他の男ならどうかわからないが……。
「オレのも触ってくれる?」
「だ、だめっ……、声、出ちゃ……!」
かわいらしい唇を覆い隠しているその手を盗むと、彼女は困り果てて首を振る。オレは今にも甘く鳴き出しそうな唇をキスで塞いで、微笑んだ。
「これで大丈夫だね。お願いできる?」
「あ、ずるいぞ、ヒロ」
「ゼロは入れてるんだからいいだろ」
なまえちゃんはこくんと頷いて、寛げられた股間からオレの屹立を触れてなぞり、そろそろと取り出す。彼女の手によって酸素に触れたペニスは、屈んでそれを見下ろす彼女とまるで視線を結びたがっているようにすんと上を向いていた。いいこいいこをするように雄の粘膜を撫でてくる手が焦れったくて、でもかわいらしい。刺激としては不十分だと彼女もわかっているのだろうけれど、背後から突かれながら手で奉仕することで、誤って握り潰すのではという一抹の不安を抱いているのだろう。ちゅうちゅうと彼女の小ぶりな唇や舌を吸いながら、その手の上から自分の手を重ねて扱き方を教える。
「んぅっ。ん……っ!」
オレとのキスに声を奪われながら、ゼロのピストンに翻弄されるなまえちゃん。仄かに打ち震える躰を背後から揺さぶられて、小刻みに、ときに波打ち際の魚のように大きく跳ねる。地面の重力に吸い寄せられる胸は円錐を成して、先端の飾りはつんと下を向き、こちらを誘うように眼前でふるふると揺れ動く。
「は……、良い眺め……。おっぱいぷるぷるしてて、えろい」
ずれる唇の隙間でそう囁いて、オレは真下から掌全体で乳房を包んだ。掌の中央に控えめに当たる乳首を親指の爪の先で探れば、逃げるように背筋が反り返る。
「あっ。あっ」
「はっ……ちくび、きもちいんだな。中もぎゅっってなる」
「そうなの?。締め付けちゃった?」
なおも乳首を弄びながら意地悪く尋問すると、ごめんなさい、と喉の奥で彼女は謝る。
「なんで謝るんだ? ゼロのこと気持ち良くできて偉いよ。そんなに良いなら両方してあげよっか」
「ひぁっ。っ、〜〜……」
両胸を掬い上げつつ、先端を左右同時にすりすりと撫でてあげると、なまえちゃんはぴくんぴくんと肩を揺らし、その背後でゼロが切なげに眉間に皺を刻んだ。喉元まで出かかった悲鳴を噛み殺す彼女を、ゼロが強めに突く。すると彼女がオレ自身を握る手を力ませてしまい、不慣れな手淫にとうとつに緩急がつくので解き放ちそうになった。強めに握り込んでしまったことに、叱られる子犬のようにまたごめんなさいと口にするなまえちゃんを、「びっくりしただけ、だよ……。それくらいの方が気持ちいいから」と宥めてあげる。
正しく三人で一体になっているような感覚だ。誰かが動くと誰かが気持ちよくなって、それがまた誰かに刺激を加えて。繊細に組み上がったパズルみたいに、オレたちはしっくりくる。
「あ……、なまえちゃん、いきそうだね。ゼロ、そろそろ……」
「わかってるさ……っ。このへん、かなっ」
「――っ!」
とん、とゼロが腰を打ち付けたまでは声を堪えられた彼女だけれど、ぐり、とそのまま亀頭を行き止まりに長く甘ったるくキスするように押し付けられると、ついに瓦解して。
「ぁっ……!」
初手の突きで弓なりにした腰を、次手の圧迫で震え上がらせ、次の瞬間には糸が切れた操り人形のように崩れ落ちる。
「おっと!」
オレは手早くその背中に腕を回すと、自分の胸に倒れ込むように仕向けた。奥まで挿入されていたゼロの芯が、彼女がオレに凭れたことで少しだけ抜けて、根本を酸素に晒している。絶頂の余韻に膝を震わせているなまえちゃんの髪を撫で、「ゼロの、気持ちよかった?」と問えばこくこくと肯定を繰り返された。
「ごめん、なまえ、僕もそろそろ限界だ……」
「だってさ。じゃあもう少し頑張ろうか。ゼロのこともよくしてやって? ふらふらだし、抱えててあげるね。オレのは……次でいいから」
汗だくのなまえちゃんの上半身を抱きかかえ、腰を撫でて軽く反らせるよう促し、厭らしく臀部を突き出させる。便座に座って背丈の落ちたオレの眼前には彼女の胸が迫り来ていて、ふにゅ、と濡れた柔肌に頬を包まれた。汗が彼女の香りを濃くしていて、それに鼻孔を惑わされると、添える手を離されたばかりのペニスがずくんと熱く疼く。
「零君、好きにして……? ヒロ君いるから、大丈夫、だから……」
腰に科をこしらえながら色っぽく背後に視線を投げたなまえちゃんが、ゼロを誘う。尻尾を高くくねらせる雌猫のようにふるりと尻を揺らめかせ、きゅう、とオレの首をきつく抱き締めて。これはゼロも溜まらないだろう……勿論、オレも。
「煽るなって……!」
「ひゃあっ!」
一度達したあとの彼女の肉体は少しの荒々しさなら容易く快楽に置き換えてしまうから、ゼロも自戒を脱ぎ捨てる。肌と肌の叩き合う音を惜しみなく響かせ、掴んだ腰を自らの方へと引き寄せる。身長差を埋めるようにゼロが彼女の腰を抱え上げれば、床を踏みしめていたつま先さえも遊離して、ぷらん、と躰そのものでオレたち2人の間に吊り橋を架けた。
「え……、あっ……!? 浮いちゃっ! れ、れーくんっ、浮いてうのっ……ぅあぁっ」
床から引き剥がされたつま先がピストンを受ける都度、名残惜しげに床を舐めて、でも再びそこに足の裏をつけることはゼロが許さない。不安がるなまえちゃんはオレの首を強く抱き竦めて縋ってくれるので、彼女当人には悪いけれど約得だった。押し付けられるおっぱいを揉みしだいても先端に悪戯をしかけても、腰を派手に持ち上げるゼロがいるから彼女はオレに縋り付く他なく、全てを受け止めてくれる。
「や、ふぁ……やぁっ……! 浮いてうっ、落ちちゃ……んあっ! こわい、よ……っ!」
「大丈夫、落とさないから……僕も、ヒロも……っ。知ってるだろ、鍛えてるの、っ……!」
よいしょ、とゼロがなまえちゃんを抱え直すと、その拍子にまた挿入が深くなったのか、彼女は目を白黒させた。軽く登り詰めていると思しきなまえちゃんの、狭くなっているであろう胎でゼロは自身を扱いて、そして或るところで肩を硬くし、息を張り詰めさせた。同じ男であるから彼が達したことは想像に難くない。はぁっ……、とゼロが熱く息吹くと、その吐息に背筋に浴びたなまえちゃんはそれにすら腰をくねらせた。
「抜くぞ?」
「ん、オレ支えてるから。……かわいい。抜かれても感じちゃうんだ」
なまえちゃんは折り曲げた指を口元に寄せながら、ずるずると胎から抜かれる其れの去り際に齎す性感に悶える。
「んっ、はは……、えろいな……。また勃ちそう……」
ゼロが完全に出ていくと、ぴんと張り詰めていた緊張の糸が切れたのか、彼女はくたりとこちらに身を預けてきた。彼がスペルマを吐いた膜の処理をしている間に、必死に息を整えるなまえちゃんの髪を撫でたり、キスをしたりしながら空白の時間に色を付けて過ごす。くっ、と腰を抱き寄せると、まだ肩が上下しているというのにオレの腿を跨いで膝に乗ってくれた。かわいい。軋む古びた便座の悲鳴は聞こえないふりをする。
「ふ、ぁ……つぎ、ひろくん……?」
すりすり、となまえちゃんは自分の腿の付け根に、オレのまだ欲を吐けていないペニスを挟み込んで、窪みに招こうとする。このまま突っ込んでしまいたいくらいかわいくて厭らしいけれど湯立ち切っていない頭には避妊の二文字が点滅した。
「駄目だよ、なまえちゃ……、ん、待って、まだ着けてないから……」
「景光君、私、どうしたらいい……?」
ポケットをがさがさ掻き回して包みを取り出したオレの膝の上で、腿を閉じ合わせるなまえちゃんはことんと首を傾げてこちらの欲を加速させる。――駄目だ、ぶちこみたい。はしたなく本能的に衝動を練りながら、それに抗うように膜を被せた。中途半端になまえちゃんに愛でられたきりお預けを食らっていた自身は、サイズの一致しているはずのコンドームを内側から限界まで引き伸ばして、少しきついとさえ言っている。こんなになったこと、あったっけ。支えることに徹したせいで手で抜いて貰えなかったから、若い芯は恐らく限界まで膨れているのではなかろうか。
「えっと、膝に乗ってて欲しいんだけど」
「ん……」
オレと向い合わせのまま腕を首に回してくるなまえちゃんに、己の言葉足らずを自覚する。
「あー、このまんまじゃなくて、えー……っと、背面座位ってわかる? オレに背中向けて、ゼロの方向いて? オレばっか顔見るのもずるいしね」
一度立ち上がったなまえちゃんが、くるりと躰を反転させてオレの上に座り直す。上半身は裸で汗だく、履かされたままのスカートは捲られて秘部を晒し、ショーツは中途半端に下ろされたきり膝のあたりに引っかかったままで、ちょっとした足枷のようになっている。セックスをするためだけにかれたなまえちゃんは人形のようにおとなしくちょこりんとオレの膝に座っていた。そんな彼女の顎を掬い上げ、ゼロはまじまじと表情を見つめた。
「へえ……? なまえってば、こんな顔してたのか。とろとろだな……。かわいい」
「んっ」
そのままゼロに唇を奪われたなまえちゃんを、オレもオレでぎゅうっと背後から抱きしめた。遠慮がちに浅く腰掛けていた彼女を自分の上に深く座らせ、ぐりぐりと押し付ける高ぶりで尻たぶを割って恥丘の割れ目を探す。
「あ、ん……っ」
股に擦れるのが気持ちいいのか、なまえちゃんが甘く息を弾ませた。
ボクシングが好きな相棒の語彙を借りるなら、第二ラウンドだ。
なまえちゃんは便座に座ったオレの膝の上、背面座位で少しずつ挿入されながら、便器の前に仁王立ちしたゼロの緩く芯を硬め初めているそれにキスをしている。異国の血を引いているだけあってそれなりに凶悪であるゼロのそれに怖気づきもせず、むしろ愛おしそうに唇を這わせる彼女は色っぽい。最初の頃とは打って変わって、もう己を犯せる雄の象徴に怯むこともなくなって、積極的に奉仕しようとしてくれる。
「ごめんな……ゴム、さっきのしかなくて」
なまえちゃんの旋毛をかき混ぜながらゼロが言う。彼は出来た男で、借りるのが手や口であっても避妊具を欠かさそうとしない。潔癖というよりは、優しい。
「ん……気にしないよ」
「ありがとう。んっ、そこ、いい……。上手くなったな、なまえ。はっ……やば、直接だとすごい……」
口淫に奮闘する彼女の首筋に浮く汗を舐めて、キスマークを付けたり、胸をやわやわと揉んだりしながらゆったりと性器の繋ぎ目を深くしていく。
「これ、抱っこできるし、おっぱい揉めるし、ゼロと一緒にできるから好きなんだ。っ……。締まった……。なまえちゃんも好き?」
「ひうっ、すき……。すきっ」
「っ、なまえ、ちゃんと咥えて」
「はうっ。んぐっ」
オレに応じるために唇を割り開いたことで、大きく反り返るゼロのペニスは口腔から弾き出されてしまった。ばるんと弾んで小麦色の腹筋の上で跳ね返った屹立をゼロの手が捕まえてなまえちゃんの口に入れ直す。根本と睾丸にちいさな手のひらを添え、懸命にゼロに尽くすなまえは、太ましい幹が裏顎をこする都度、子宮をときめかせるのでオレも気持ちがいい。幼馴染三人で気持ち良くなれるって最高だ。
「喉の奥まで入れてみてもいい?」
頑張ってしゃぶっているなまえちゃんの頭を撫でたゼロは、切なげに目を細めつつ、そう問いかける。口腔にペニスで栓をされて応えられずにいる彼女は、断らずとも彼が押し込めば甘んじて受け入れてしまいそうな、させるこちらが不安になるほどの従順さを秘めている。オレも男だ、フィクションじみた少し苛烈なセックスにだって興味はあるが。
「流石に可哀想じゃないか?」
「少しだけ苦しくするとお腹の中、すごい締まるんだ。ぎゅってしてやった方がヒロも喜ぶと思うけど……どう? やれる? 無理強いは……しないけど……」
ゼロの指が、咥えているために窄められた彼女の頬をなぞっていく。ぱちぱちとまばたきをした彼女は喉の奥で小さく返事をした。
「へえ、いいこと聞いた。興味あるな。なまえちゃん、ゼロにイマラしてあげられる?」
「はぅ……う、うん、頑張るね」
男二人がかりで抱かれて、自分ばかりよくさせられることに、彼女は日頃から後ろめたさがあるようで、オレたちに尽くすことを半ば使命のように感じている節がある。オレたちはふたりとも世話焼きのきらいがあり、好きな女の子が喜んでいる――悦んでいる――ところを間近で見るだけでも背筋がぞくぞくする性質だから、素直に感じてくれれば其れで良いのだけれど。
オレもゼロも薄々気づいている。彼女が決して断りはしないということに。でもそれは彼女が己の性に対して安い値をつけているからだ。彼女が二つ返事で負担の大きい遊びを承諾してくれるのも根にそれがあるからだ。全部が全部、愛とか恋なら、気兼ねなくして貰えるのに、なまえちゃんが自分を安く差し出す分、オレ達が目一杯大切にして、逐一彼女に彼女の価値を教えてやらなければならない……。
あ、とはしたなく唇を割ったなまえちゃんに、ゼロがペニスを寄せる。
「顎外させるなよ。でかいんだから」
「わかってる、さ……っ」
する、と先端から全体の3分の2ほどまでが一息に挿し込まれ、見えなくなると、本当に彼女の中がきゅんと締まった。髪色同様色素の薄い陰毛がその唇に触れるまで咥え込ませると、半ばえずくが如く呻いた彼女の膣が根こそぎ奪うようなありえないきつさに変わる。
「うっ、わ……」
「はは、ヒロ出そう?」
と、軽口を叩くゼロ。
「……〜っぶな。なまえちゃん締めすぎ……」
せり上がる射精感をなんとか押し留めたオレは、なまえちゃんの背中をぎゅっと抱き締めた。するとまた子宮がきゅんとなる。
塞がれた喉から苦しそうに細い息を漏らして、鳩が頭を前後に振るように口全体でゼロを喜ばせる。飲み込めない唾液を唇の端からとろとろと零しながら必死に喉を差し出して、胎もきゅんと共鳴させて。
「……っ、ん〜〜っ」
「苦しかったら噛んじゃえばいいよ」
「おいっ」
さっきのお返しにオレも軽い冗談を言うと、ゼロはちょっとだけ顔色を青くした。
なまえちゃんは自身も苦しそうだと言うのにふるふると首を振る。
「うそうそ」
「冗談きついぞ、ヒロ」
ぺちぺちと彼女がゼロの太腿を叩き、息の限界を訴え始めたところで、ようやくそれは引き抜かれる。
「ん、あ……零君、いっちゃだめ……。まだする、から……」
「っ……、いかせてくれるか?」
「うん。するから、出してっ」
自らペニスを握って切っ先を舐め始めたなまえちゃんの手を、ゼロが勝手に掴んでそれを使って扱き始める。先走りを吸われながらねっとりと亀頭をねっとりと舐められ、さらに彼女の手を借りて竿を撫で上げるのは恐ろしく気持ちがいいだろう。AVよりも刺激的な現実を眼前で見せつけられて、オレも彼女に埋めている昂りをまた膨らませてしまった。
「んっ……。出る、から、口離してくれ……っ」
「んーんっ」
咥えこんだまま離そうとしないなまえちゃんにゼロが明らかに焦り始める。
「この子、飲みたいんじゃない?」
「おい……! あ……、く――っ!」
寸でのところで舌の上から強引に引きずり出したはいいが、壁際のトイレットペーパーに伸ばされていたゼロの手は虚しく空振り、またペニスと彼女の顔との距離が半端であったために、白濁は彼女の鼻先で弾け飛んだ。鈴口から白い糸が引かれ、彼女らの間に橋が架かる。
「はぁっ、は、ふ……ごめん、なまえ……」
とびきり熱いのを顔で受け止めた彼女に、興奮するよりも慌て始めるゼロがなんだか可笑しい。
「なまえちゃん、オレにも顔を見せて。……わ、えろい」
首を回して振り返ってくれたその顔を汚すのは、自分の精液ではないのに、共同体のようなオレとゼロだから見ているだけでこちらまで征服欲が満たされる。落ちにくいティントリップを乗せた赤い唇を遮るように滴る濁りは顎から零れ、裸の鎖骨や胸にも落ちている。なまえちゃんに対して潔癖であるゼロは飲ませることはできないだろうと思って、オレが代わりに指で掬った彼の精液を彼女の口に運んであげた。
「舐めたかったんだろ? ゼロの」
ぱくん、とオレの指を食べ、ちろちろとそれが纏っていたゼロの精液を小さな舌が――直前まで親友を喜ばせていた舌が拭い取る。
「おいしい?」
「うん、おいしい……」
「だって。よかったね、ゼロ。こういうの好きだろ」
「……っ、こっち向いて。拭くから」
――照れてる。好きなんだー。
素直にオレたちを受け入れてくれる幼馴染に反して、もうひとりときたら全く持って素直じゃない幼馴染だ。性的な好みなんて三人の間でとっくのとうに共有されているのだから気にすることもない。互いにそれを満たしていく仲なのだから。
今度は鎖骨の窪みに溜まった精液を指で拭い、それをなまえちゃんに舐めさせると、ゼロの碧眼が俺達に釘付けになる。ほら、やっぱり好きなんだ。
オレはついでになまえちゃんの指フェラを楽しませて貰う。彼女が指先を綺麗にするとすぐにまた顔を汚している液を絡め取り、その唇の隙間から挿し込んで、ゆるゆると纏わりついてくる舌と戯れた。まかり間違っても彼女がゼロの性器を食い千切ってしまう不安も消え失せたため、気兼ねなく律動を再開する。
「んっ。ずるいなぁ、オレは手コキで出せなかったのに……っ。ゼロばっか、二回もっ。するなんてさ……」
「ひあぁ〜っ。ごえ、んね……っ」
「オレのこともっ。はぁっ……、気持ちよくしてくれるっ?」
「うんっ、する。したい。好きにしていいよ、景光君……っ」
いつものようにピストンをすると腰掛けている便器の蓋ががたがたと煩くなるので、腰を廻して芯で肉壁を掻き回していく。グラインドを意識した動きでゆったりとなまえちゃんの中を混ぜてあげると、甘い喘ぎが零れて、でもそれをすぐに手で抑え込もうとするので、そういえば初めに散々誰かが来ちゃうかもと怖がらせていたのだったと思い出す。
「なまえ、僕とキスしていようか。口、塞いでてあげるな……」
「零君……っ」
二度欲望を吐き出して手持ち無沙汰となったゼロが正面からなまえちゃんの唇を攫って、悲鳴に蓋をした。
「苦いな……。はは、まさか自分の精子の味を知ることになるとは……」
なんてぼやきながらも寄せた顔は離さず、むしろディープキスをする始末だ。ぐちゅぐちゅ白濁の青い香りを帯びた彼女の唾液を泡立てるゼロは、股に手前から手を差し込んで、ぷっくりとしているクリトリスを撫でた。身悶える彼女のそのもだもだという動作が胎の中のオレを擦り上げるので、堪らない。
「ふっ!? ふぁ……っ。ん〜っ!」
ゼロとなまえちゃんの口の中に甲高い声が籠もり、後ろから引っついているオレの鼓膜を鈍く揺らす。
ひとりだけ快楽の連鎖の輪の外で涼しい顔をしているゼロが、また彼女の陰核をとんとタップする。背骨を反らせる彼女を追い立てるように、とん、とん、と核を刺激する手を緩めない。
「っ……、〜〜――っ」
やめてやれよと口を挟みたくなるくらいに善がる彼女の悲鳴は、ゼロのキスが全て平らげた。誰の目から見ても達しているというのにその間もずっとクリトリスを捏ねられて、彼女は波に呑まれたまま戻って来ない。現実に置き去りにされた彼女の躰は卑しくオレのペニスを絞り、射精を煽った。どぷ、と膜越しに精を撃ち込むともうそれにすら感じてしまうらしい。
射精と同時にライブ会場の方からどっという歓声が轟いて、なんだか笑えた。
オレの膝の上ではしたなく股を開いて、踵は床から浮いたまま引き攣って。どこもかしこもどろどろにされた彼女は二人の男に挟まれて、その身を悦に焼き尽くされていた。警察官志望の体力に自信のある男を一度に2人も相手取るから、彼女からすれば毎度毎度が激しいセックスだ。終わってもなるべくすぐには動かさないで、熱を落ち着かせつつある自身を挿入したままに、かぷ、と耳朶を甘咬みするとなまえちゃんはきゅっと目を瞑る。赤らんだ首の裏は塩の味がした。
手近なトイレットペーパーで精子と汗を拭き取ってやり、オレが物販で衝動買いしたライブTシャツを頭から被せる。フリーサイズとタグにはあるが、メンズなので彼女には随分大きく、皺の寄り方によってはスカートの裾がシャツの内側に隠れてしまう。履いているのかいないのか判然としないところが男心にぐっときた。
タンクの上に置いていた、ゼロがお茶を零した服とブラジャーは、物販の袋に突っ込んだ。まだ熱に浮かされた頭の彼女は気づいていないが上半身は下着を身に着けておらず、シャツの中は裸である。至近距離だと広い衿の中に何も纏っていない胸がちらりとだが伺える。
「オレ一回しか出してないから足りないな。ホテル行こうよ。それか家。なまえちゃんはどっちがいい?」
彼女に卑猥な格好をさせたのは勿論まだオレの熱が引いていないからだ。いつ乳首の輪郭が透けてもおかしくない彼女で高めた熱を、放出する目処があるからだ。
オレの問いに、少し迷ったあと、彼女は答える。
「ね、寝っ転がってできるならどこでも……」
「後始末面倒だからホテルかな」
「疲れたなら寝バックとかいいんじゃないか」
性への貪欲さはオレと似たようなものであるゼロも乗り気で、体位を提案してきた。
いままさに厭らしいことをしていましたという蕩けた顔の彼女をこのまま外界に連れ出すのは気が引けたので、狭い個室でその顔から熱が引き、ある程度の凛々しさが戻るのを待ってやる。


2023/08/11
景光の「趣味なんだー(ハート)」が好き過ぎます
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