比翼のアルビノ

04.これはなにもかもを失ってしまう嵐

■R18
■04、05にはモブによる強姦シーンを含みます。スキップ頂いても差し障りはございません。



先刻のこと。
私は約束通り、放課後の空き教室で担任である男性教師に学校生活の中で時折起こる不可解な出来事を打ち明けていた。度重なる体操着の紛失、それに今日のプールの授業中に起きた決定的な事件が最後の人押しとなり、すぐにでも対策がいるだろうと面談が決まる。しかし、私はてっきり職員室の片隅の応接用ソファが相談の場になると思っていたので、人目に触れにくい密室を提案されたときは肩がこわばった。
でも朝に確かに持って登校したはずのアルトリコーダーを学校で紛失したときに、それを最初に見つけてくれたのは先生だったし、他の教師陣は「また忘れたのか」と嫌な顔をする人ばかりであったし、私は女子生徒の輪からは孤立していたので、学校という閉ざされた青春の庭の中で信用がおけるのは実質的に彼くらいのものだった。

先生は私の話に深く頷き、決して嘲笑わず、軽んじもせず、丁寧に耳を傾けてくれた――午前の体育の時間に着用した体操服が昼休み中に目を離した隙に何者かによって持ち去られており、すでに二度ほど買い替えを強いられていること。そして、今日こんなにも改まった面談の場が設けられるに至った、其れ以上に決定的な事件のこと。今日のプールの授業中に、下着が盗まれたのだ。

「それ、で……下着、なくなってて……」
「そうか……問題だな。怖かっただろう」

更衣室で自分の荷物の中から下着が上下とも消え去っていることに気づいたとき、私は青ざめた。誰のことも信じられなくなり、すし詰めの更衣室の喧騒にさえ戦慄した。

「それで? 下着は今はどうしたんだ?」
「え……」

なんでそんなこと聞くんだろう。斜め上の問いかけに私が固まっていると、先生は「盗まれて、無くなってしまったんだろう? 下着」と続け様に質問を投じる。

「ほ、保健室で貸してもらって……」
「そうか。それならよかった」

にこりと笑う先生の顔に変に勘ぐるこちらがおかしいのではないか、と疑念の矛先を己に向けそうになる。
嫌な汗をかいた心臓が不穏に鳴り響く。

「あ、あの、相談、乗って頂いてありがとうございました。すみません、変なこと言って。明日女性の先生に相談し直そうかと思います。遅くなったらいけないのでもう帰ります」

矢継ぎ早に言葉を並べ立てて、私は椅子を引いた。熱を逃したつま先で懸命に空き教室のリノリウムの床を早足に進む。
横開きの扉を滑らせてこの息苦しい密室から飛び出そうとしたけれど、なにかにつっかえたように扉は開かない。鍵がかけられている。内側からかけられている鍵ならば手動で開けることができるはずだけれど、一度も使う機会のなかった学校の教室の鍵の位置なんて頭に入っているわけもなく、がちゃがちゃと不慣れな手付きで扉を弄くり回す。
解錠に手間取っている私の背後に担任の影が差した。これほど恐ろしいことはなく、警鐘を鳴らす心臓が限界の速度までひといきに駆け上がる。

「……っ、?」

セーラー服のプリーツスカートがまくりあげられ、臀部をねっとりとなで上げられた。それが先生の所業だということを理解できるまで、数秒かかった。驚愕の余り、鍵に悪戦苦闘していた手を止めてしまう。息をするだけでもいっぱいいっぱいで、動けずにいると、無抵抗なのをいいことに天狗になった手は尾てい骨に乗った脂質を揉み、さらには股の方をクロッチ越しに撫でたりと過激さを増していく。排泄をするところをなぞられて、恐怖が膨れ上がった。
やだ、と心では強く拒絶するのに、開かない扉と大柄な男に躰の前後を挟まれ、閉塞感で声も出ない。
背後から腕を回してきた先生が私をかき抱いた。制服の裾から手が入り、キャミソールの下から素肌の胸を鷲掴みにされる。朝身につけていた下着を盗まれたせいで守るもののない無防備な胸は、血管の浮き立った男の手によって歪に形を変えられた。

「ひっ……!」
「はぁ、なまえ、なまえ、なまえ……」

獣のように呼吸を荒らげてうわ言のように耳元で繰り返される私の名前。呼ばれたって嬉しくもない響き。教室では誰のことも苗字で呼ぶ先生が。
どろどろに濡れそぼった舌に首筋から耳裏に掛けてを舐めあげられ、悪寒がした。首元に張り付いた汗の雫を這い回る舌が攫っていき、すんすんと体臭を嗅がれる。

「いやっ、やめて、先生、やめてっ」
「あー、いい匂いがする……。やっぱり本物は違うな。体操服もいいけど本物は段違いだ……。ああ、体操服を盗んだのは俺だよ。リコーダーと一緒に毎日使ってたらなまえの匂いが薄くなって来ちゃってさ、もう一回盗むしかなかったんだ。リコーダーも本当は返したくなかったけど俺が使ったのを何も知らないなまえがまた使うのもいいって思ってさ。返したあとも毎日熱心に吹いてくれてるよな」

乳腺が潰されて痛むほど強く胸を揉みしだかれ、腿の隙間に背後から熱く硬いものを押し付けられ、聴きたくもない真実を汚らしい声で明かされる。
絶望と嫌悪と恐怖が津波となって押し寄せ、私を呑み込んだ。私が親切心だと思って先生から受け取っていたものは全て巧妙に隠された劣情だったのだ。
竦んだ躰に無知を打ち、震える手を扉の側面に伸ばす。必死に鍵の在り処を探れば、目敏くもそれに気づいた先生は私の躰をひっくり返して彼の方を向かせ、ばちん、と頬を引っ叩いた。生まれたての子鹿同然にやっとの思いで自身を支えていた脚は、突然の平手打ちにあっけなくバランスを崩し、私は床に転がる。

すぐさまのしかかってきた先生が私の肩をひっ掴んで仰向けにし、ガムテープで両手首を拘束した。校内で見かけることも珍しくはない備品とはいえ、咄嗟に手に取るには都合が良すぎる。この面談そのもの――引いてはそのきっかけとなった体操服やアルトリコーダーの紛失すら、この人が私を犯すために予め積み上げてきた予定調和だったのだ。
セーラーの上をキャミソールごと捲くられ、露わにされた胸を鷲掴みにされる。そこに先生が性欲に歪んだ不気味な顔を埋めた。

「あ……っ、いやぁっ!」

左胸の先端を下品にしゃぶられ、其れ以外の柔らかい部分と右胸は指が食い込んで爪が刺さるほどの強さで揉まれる。先端を歯先が掠め、指がきつくつねり、引きちぎられるのではないかと恐怖した。
硬い床に大の大人の全体重をかけて押し付けられて、背中も後頭部も痛い。
眼の縁に蓄積されていた涙は私の首をふる動作に合わせ、目尻からこめかみへ、真横へと流れていった。
神経の通っていない、モノを好き勝手いじくり回すような扱いが、私の価値をずたずたに引き裂いた。

「更衣室から保健室に行く途中、ずっと不安そうだったな。ノーパンで外歩かされて泣きそうになってて。かわいかったよ……。昼休みにさ、お前から盗んだので自慰しちまったよ。ブラ、いい匂いしたな。お前、地味なのつけてるんだな。パンツも、ちょっと臭くてさ。はあ、君のせいだ……なまえの、せいだ……」

先生の手がスカートの留め具を外す。薄い金属音は私にこの乱暴がどこへ向かって進んでいくかを理解させた。
性交渉。
交尾。
こどもをつくること。
机の上でしか学んだことのない行為をされようとしているのだ。

「やだ! やだぁっ!」

泣き叫ぶ私を他所に、無慈悲な手がスカートと下着を同時にずり下ろす。臍、浮き出た骨盤……そして誰にも見せたことのない秘部が晒され、涙が溢れた。
脱がされたそれらを膝から引き抜くにあたり、先生が僅かに腰を浮かせたのを、かけられていた体重がなくなったことから悟る。思案を回すよりも先に、弾かれたように私はぐりんと躰を捻り、立ち上がった――けれども刹那、脱がされかけていたスカートに脚を取られてその場で転倒する。
先生はうつ伏せに床に倒れ込んだ私の両のくるぶしを掴んだ。爪が足首に食い込む。

「あぁぁっ!」

胸や臍が床に擦れることなど厭わず、そのまま床を引きずられて元の場所まで引きずり戻された。

「逃げてんじゃねえよ!」
「いっ……! 痛っ!」

後ろ髪を引っ張り上げられ、顎が床から浮く。
躰をひっくり返され、先生を仰ぐ形にされると、再び頬をぶたれた。

「なまえを孤立させるのは結構簡単だったよ。お前がよくつるんでる降谷と諸伏、モテるよな。そのせいで元々女子からはハブられ気味だったし、教員だってちょっと職員室で悪い噂を流してやったら信用もがた落ち。おかげで俺にしか頼れなかったよなぁ」

じんじんと痛む頬を擦ることもできずに唖然と暴漢を見上げる。
教師陣から謂れのない素行不良を咎められたり、注意するような眼を向けられることが多かったのも、全てこの人の……。私の学校生活はこの人に犯されるためにあったのか。
これだけ悲鳴を上げても駆けつけてくれる人間の足音さえ聞こえない。扉が締め切られてただでさえ音が逃げにくくなっているうえに、先生に指定されたこの空き教室は職員室からも遠い4階で、校舎の隅にある。遠くから女子の甲高い叫びが聞こえてきたところで校庭を走り回る女子運動部の活動だと思われ、疑われない。

先生は私の脚をがばりと開き、晒し上げた性器に指を突き立てた。自分でさえ躰の洗浄以外で触れたことのない未知の窪みだ。強引に拓かれる痛みは初めて味わうもので、私は泣き叫んだ。
存外すぐに先生の指が引き抜かれたことに安堵したのも束の間、指で触れたのは単に場所を探るためでしかなかったらしく、刹那には衣服の中から引きずり出された、猟奇的なまでに聳え立つ雄の象徴を突きつけられている。
所詮は肉の塊だというのに喉元に刀剣を向けられているかのようにそれが恐ろしくてたまらなかった。

「や――……やだ……っ! 助けてッ! いやぁっ!! やめて!! 助けてぇっ!!」

避妊具も着けられていない、先端からなにか涎めいた半透明の液を垂らす、剥き出しの男性器が、私の脚の狭間ににじり寄る。宛てがわれる。つぷり、押し入る。

「痛――っ!!」

骨盤のあたりを両手で掴まれ、腰を引くというせめてもの抵抗すら封じられている。固定された下肢を意のままにし、推し進める屹立でめりめりと閉ざされていた肉を裂きながら、泣き叫ぶ私などには脇目も振らず、おしつけがましく欲を強いる。

「痛いっ!! やめて! やめて……っ、やめてえ……離してえ……」

私は跳ね除けられるだけの無意味な拒絶を震える唇から零すだけ。その悲鳴すら満足に張り上げられなくなり、尻すぼみとなっていく。
痛くて苦しくて、谷底に突き落とされるような破瓜の痛みに苦悶の涙を流す。
先生の狂気じみた欲望を無理やり押し込まれた私の中は、擦れて血が滲んでいた。けれどもその出血すら、男性を受け入れるための潤いを欠いていた私のお腹の中では潤滑油と代わり、滑りを良くして先生の悪逆を手伝う。
先生に覆いかぶさられ、私は床と先生との間で板挟みになる。愛も浪漫もない、乱暴なだけの抱擁。望んでもいないのに繋げられた性器があまりに痛いから、胸を揉まれても吸われても、噛まれてもつねられても、もう痛みとは思えなくなった。
でも自分の体を好き勝手にまさぐられたり舐められたりするのは屈辱の一言に尽き、確実に自尊心に罅を入れていく。
私は、これほどの地獄に見合う悪行をしたのだろうか。

「お願い、します……っ、やめて……やめてください……っ。せんせい、おねがい……やめて……っ。もうやだ……、痛い、の……」

へりくだった涙の懇願もこの先生というラベルの貼られた暴客には届かない。

「はぁっ、はっ……泣いてるなまえもかわいいな……。興奮する……。今度はこれを流しながらもう一回しようなぁ」
「え……?」

嫌な予感を掻き立てるその言葉で、焦点が合う。先生の手の中に携帯端末を認めたとき、ひゅ、と喉を鋭い息が駆け抜けた。
嗚呼、嘘。撮影されたとでもいうのか。自分の裸体も、痴態も、すべてあの中に焼き付いているのか。仮にこの場を逃げ延びたとしても、残された記録はどこまでも私を追ってくるということだ。
その瞬間、ぷつりと最後の糸が途切れる音が聞こえた気がした。もう駄目だ、無駄だ、と諦めの声が幾つも幾つも耳の奥に木霊する。抵抗の気力はそのときを最後に潮のように引いて失われた。
素直になった私を、先生はいたく喜んだ。
何度も何度も肉と肉を擦り合わせ、どれくらい時間が断ってからか、身震いとともに先生は私の中に欲の塊を吐いた。
乱暴に犯しておきながら、先生は愛おしそうに私を抱きしめた。指先も、瞼さえも動かすことが億劫になっていた私はそれを沈黙と共に甘受した。

先生は身なりを整えると、不穏な性の匂いに染まった空き教室に私一人を残してそそくさと立ち去る。
胎に置き去りにされた精がきもちわるい。
枯れたと思っていた涙は男の影が消えた途端に蘇るようにして溢れ出した。
呆然と見上げた時計の、文字盤が見えない。突き刺すような冷たい秒針の音色を暫く聞いて、私は嗚咽を漏らしながら床にくたばるスカートと下着に手を伸ばす。

教室で待っていてくれた二人に間に合わなかった助けを求めようとして、喉が詰まって。伸ばされた降谷君の手に、私の胸を掴んだ先生の手が重なって見え、振り払った。


2023/06/13
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