比翼のアルビノ

25.幸いは降りつもる粉雪のように

25.幸いは降りつもる粉雪のように
なまえとの性をともなう触れ合いが日常となりつつある。
その夜も、僕は風呂で躰を清めて自室に向かった。扉を開くと先に支度を済ませたなまえがベッドに腰掛けて待っていてくれたのだが、驚くべきことに彼女は見慣れたパジャマではなく、衣服と呼ぶにはあまりに心許ない、雄を煽るための装飾に過ぎないベビードール姿だった。剥き出しの脚をベッドの淵から床にぶらさげて、ぷらぷらと揺れ動かしていた彼女の視線が、ドアノブを握ったまま眼を丸くしている僕に向く。ふわりとはにかみを添えた微笑みを口元に描く彼女だったが、硬直している僕に徐々にその顔色を青白く変えていった。

「れ、零君……変だった? え、あ、あれ、もしかして今日しない……? や、やだ、嘘……。私、はしたないよね、ごめん……」
「待て、誤解だ! かわいいなって……単に見惚れてたっていうか。僕もしたかったよ」

泣きそうになりながら膝を抱えてしまうなまえに慌てて詰め寄り、言葉をかける。
今日の彼女が纏っている華やかな刺繍の施された黒のシースルーのキャミソールワンピースは、その色彩もあってややおとなびた印象を受ける。裾の向こうに透いた肌は黒い色を間に挟むことで平素よりもずっと色の白さが際立っていた。似たような透け感のある生地で作られたショーツは、肝心なところに刺繍が施されていて視線からそこを守っており、ややもどかしいが、そこもそそられてしまう。

「零君、引いてない?」
「積極的な君もかわいいよ」

キャミソールは助かることに前開きで、フロントのリボンを解くとすぐに乳房と相見えることができた。先端を幽かに尖らせた、白い果実さながらのまろやかな胸。下着姿で僕を待っていたのだ、寒さで硬くさせているだけだろうと冷静さを保つ頭の半分では思えるのに、はやくも茹だったもう半分はああ僕を待っているだけで触ってもいないのにこんなにして……と彼女が性に前向きだということにしたがった。
吸い付きたい衝動に正直にそこに唇を近づけようとして、気づく。両胸の乳輪の近くにかぶれたような赤い跡が残っていたのだ。

「ここどうした?」
「あ、絆創膏貼ってたからかぶれちゃって」
「ふうん。痛いか? 生理前かな。あまり触らない方がいい?」
「痛いとかじゃなくて、その、こ、擦れて……ね?」
「……気持ちよくなっちゃう?」

僕の問いに、なまえは睫毛を震わせながらこっくりした。そして言う。

「どうしよう……」
「どうしようもなにも嬉しいけどな。そういう風に僕がしたのだし」
「うぅ……」
「そうだ、もっと気持ちよくなれるように胸も練習しようか。昼間に我慢させた分いっぱいかわいがってやる」

言葉の成分の内訳は、冗談が半分と本気が半分、そして首を振られればおとなしく身を引こうという容赦。しかし彼女は僕の首に腕を回すと、そのまま抱き寄せ、自分の胸に顔を埋めさせて受け止めた。

「んっ……」

ふわ、と顔全体を包むマシュマロのような柔肌と、わざとらしくない女の乳の甘い香り。男の夢であり浪漫であろう。瑞々しい肌は存外弾力を備えており、僕の鼻先を押し返す。

「零君が喜んでくれるなら気持ちよくなれるようになりたい。から、いっぱいしていいよ」

恥じらいを孕んで幽かに揺れるなまえの声は、鼓膜からも、胸の奥の肋骨の振動からも感じ取れた。
思わず喉が鳴る。
いつまでも胸に顔を埋めているのも母性を求める幼子のようで気恥ずかしく、僕は一度顔を上げた。視線がかちあうのもそこそこになまえに深く口付け、唇の隙間で舌同士を結び合わせながら同時に胸にも手を伸ばす。ひとしきり乳房を揉んで楽しんだ後、口腔を舌で乱しつつ、指の腹を胸の飾りにゆっくりと押し付ける。反対側は二本の指でそっと挟んでくりくりと摘んだ。左右から全く異なる刺激を同時に与えてやるだけでなまえは僕の掌の上で踊るように翻弄されてくれる。

「うぁ……れ、くん……っ」
「こら。キスやめちゃ駄目だろ」
「ごめ、なさ……んっ」

胸を遊ばれてキスがお粗末になる彼女の不器用さすらかわいいけれど、敢えて叱りつけて続けさせた。僕に押し付けられた唾液など飲み下してしまえばいいのに、同時に行われるキスと愛撫で頭が回らないのか、口の端から二人分の液を零してしまっている。かわいい。かわいいけれど、飲んで欲しい――僕は彼女があふれさせてしまっているものを舌先で掬い取りつつ、その喉を撫でて嚥下という発想を思い出させてやる。

「んっ、く……」

意図を汲んだなまえは今まさに僕の舌に泡立てられているものをこくこくと飲み込んでいった。触れている指の下では、喉がゆうるりと上下する。

「飲んだ? かわいいね……」
「ひゃ、零君っ」
「ここ、座れるか?」

そう言って自分の足の間を指し示すと、なまえはこくんと頷いて這い寄ってきた。彼女を自身の両足で挟み、背中から抱き込む。バックハグの体勢でその首筋に顔を埋め、後ろから回した手で胸を揉んだ。華奢な肩越しに自分の手によってやわやわと形を変えられていく双丘を眺め、そのまろやかさを掌全体で味わってみる。

「う、なんで胸ばっかり」
「もっとここで感じるようになって貰おうと思って。駄目かな?」
「駄目じゃないけど……う〜、零君もやっぱりおっぱい好きなの?」
「まぁ……好き、かな。人間誰しも柔らかくて温かいものに惹かれるものだと思うよ。自分についていないものには興味は持つし、それが世の中的に性的なものだとパッケージ化されているのなら尚更……」

乳首に橋をかけるように縦長に皮膚に走る絆創膏の跡に指を這わせてみれば、ぴく、と抱き込んだ躰が震えた。両胸の乳輪をなぞり、その先端を指先で撫でる。先程とは打って変わって双方に同じだけの刺激を与えてやり、びくびくと内腿を痙攣させる彼女の様子を楽しんだ。

「――“ハーロウの代理母の実験”。アカゲザルの子供を母親から引き剥がし、ふわふわしたぬいぐるみの代理母と、ミルクを与えるための哺乳瓶を装着した針金の代理母を檻の中に設置した……。するとアカゲザルの子供は前者を選んだそうだよ。ミルクをくれる針金よりも、ぬくもりをくれるぬいぐるみを求めたということだね。愛情はミルクという報酬ではなく、スキンシップにより強化される。愛着の形成には、やわらかくて心地の良い感触……“接触の快”が重要であるということが、これにより示された。子供が本能的に選ぶものは大人だって好きだろう」
「なん、でっ……いま、言うのっ。あたま、はいってこな……ひあぁ……」
「ごめんごめん、耳が寂しいと思ってね。なにか喋っていた方がいいんじゃないかと……それに僕も気が紛れるし……」

雑学を垂れていた口は噤み、代わりになまえの赤らんだ耳にキスをする。耳輪の軟骨をくちびるでやわく食み、穴の周辺のおうとつを確かめるように舌を這わせた。肩を竦めて喉の奥で小さく喘ぐ彼女を背後からきつく抱擁し、腕の中に捕らえたまま、舌先を耳の穴にねじ込む。ぴちゃり、と態とらしく奏でる水音で鼓膜を穿てば、彼女は自分を抱く僕の手に縋りついてきた。ゆっくりと舐め上げた耳朶を甘噛したあと、乳首をくすぐりながら再び穴の奥へ侵入する。

「あ……んっ、汚い、よ……そんなとこ……っ」

彼女の熱い吐息を聞きながら、耳と胸を同時に責め続けると、次第に抱えた躰からちからが抜けてきた。行儀よく閉じ合わされて震えていた膝も脱力して明広げになり、虚空に見せつけるように秘部を晒している。胸の谷間にはじんわりと滲む汗。ぴんと自己主張する先端を捏ねれば身じろぎをし、耳の穴を舌でかき回せば声を上げる。ちゅぽっ……、と派手めな音を立てて唇を離す頃には、彼女はくたりと僕にしなだれ、背中を任せきっていた。
割るまでもなく大きく広げられた腿に、すう、と手を這わせてみる。内腿を撫で上げてショーツまで辿り着くと、下品な蜜を吸ってそこに貼り付いているクロッチに触れた。
途端、朧だった彼女の瞳が光を取り戻す。ぱちぱちと星が瞬くような速度で何度も瞼を開け閉めし、困ったように眉を寄せた。

「ぁ……そこ……」
「触るよ。いい?」
「ん……」

なまえは僕のスウェットの裾を掴み、頷く。
するするとかわいらしいショーツを脱がせると、てろり、と蜘蛛の糸のようなか細い蜜がシーツの上に零れ落ちた。堰き止められていたものがついに氾濫したらしい。背後から彼女を抱え込んでいるために直視することは叶わないが、触れてみるとそこはいつものように瑞々しくて、瞳のように濡れていて、そして、命を宿したようにひくひくと生々しく蠢いていた。僕を誘うかのごとく畝る。
割れ目を何度も上下になぞりつつ、もう片方の手では乳首も転がす。時折気まぐれに眼前の肩や首筋や耳朶を噛んだりもして。

「おっぱいと中、どっちが好き?」
「お、おっぱい……っのが、きもち、い……」
「じゃあここと胸だったら?」

性器から引き抜いた指で、ここ、と指し示すのはその上で隆起しつつある突起だ。

「ひゃあ……っ!?」

やはりなまえが一番反応を示すのは核を撫でたときである。

「ね、答えて。なまえ。クリトリスと乳首、どっちが好きなんだ」
「わかんな……! りょ、ほ……して……っ」
「欲張りさんだな……」

片手で乳首をぴんぴんと弾き、片手でくちくちと蜜を泡立てながら陰核の突起を撫で回す。余裕を削ぎ落としていくように何度も何度もそこに指を行き交わせれば、なまえは涙ぐんだ声で泣いて、下の窪みからもとろとろと声に代わる快楽の証を流していた。

「ん、すき……そこすき、れいくん……くりとりすきもちいっ、ひあぁっ、んっ」

なまえの呼吸の荒さが病のように僕にも伝染する。彼女を愛でるばかりで自らの性感帯にはずっと触れてなどいないのに、まるで自分も愛撫されているかのように脳髄が痺れた。
分泌され続ける蜜を人差し指の腹で掬い、核に塗りつけて潤す。指の第一関節を折り曲げては伸ばし、くいくいと胸と股、双方の突起を撫で続けた。

「いけそう? 摘んでみてもいい?」
「え、ぁっ……れ、れい、くん……っ。それ、しちゃ、やぁ……! いたいのやだっ」

上下それぞれの突起に二本の指を添える。俯いて、今にも摘み上げられそうになっているそれを認めた彼女は、眉を寄せた顔で僕を振り返った。

「大丈夫、痛くはしないよ。ね? なまえも少し強い刺激のほうがいい頃なんじゃないか?」

何も差し込まれていない窪みは、陰核に添えた僕の手の下でくぱくぱと自分を埋めてくれるものを求めている。彼女の躰は果てを見たがっているのだ。

「ねえ、欲しいだろう、強いのが……」

そんな風に耳元で囁きながら、胸と陰核の上に指の腹を往復させる。気持ちはいいけれど、てっぺんまで登り詰めるには足りない刺激を与え、彼女が折れてくれるのを待った。一度絶頂に至る悦びを学んでしまった以上、それに至れずに弄ばれ続けるのはきっと辛いはず。例え今までの自分を満足させてくれていた優しい刺激でも、新しい自分には足りない。これは彼女には勝ち目のない我慢比べだ。

「なぁ……いけなくて辛くないの?」
「ひうっ! つ、つらい……っ、いかせて、れいく――んあぁっ!」

よくできました、とその耳元で呟いて、くにゅ、と上肢と下肢のふたつの突起を優しく摘む。ただしいつもより少しだけ指先に力を入れて。
鼓膜をくすぐるような高い嬌声とともに、僕に凭れかかっていた彼女の背が跳ね起きて、腰が反り返る。しかしすぐにその身体からは力が失われ、或るべきところに戻るかのように僕の腕の中にすっぽりと収まった。ぴく、ぴく、と小刻みに震えているなまえをまた抱き締めながら、一粒の涙を流している目尻にキスを贈る。
そして、僕は彼女のだらりと投げ出されているその下肢に手を伸ばし、閉じられた睫毛と似たような速度でひくついている下の口に指を這わせた。

「れーくん……?」

性器に覚えたらしい違和感に、なまえが瞼を持ち上げる。焦点の合わない眼が僕を仰ぐので、にっこりと微笑み返した。

「なんで……まだ、おまたさわって、るの……?」
「この前、女性は何度でもいけるって話しただろう。だから今日はこのまま続けたい。中も慣らしていいか?」
「うん……?」

なんのことだか掴みあぐねている様子のなまえには悪いが、まだ絶頂の名残を帯びている今の方が達しやすいと考え、勝手にさせてもらう。

「うっ、え、なんで……!? も、さっき、いったのにっ、なんで……っ。なんでしてるの、零君!」
「そうだな。でももっと気持ちよくなって欲しいんだよ。あとちょっと頑張ってくれないか? なまえが嫌ならやめるけど……」

濡れた双眸で僕を弱々しく睨みつけたのち、彼女は僕の服の裾を握りしめた。嫌というわけではないようだ。
押し拡げることを意識しながら、指の差し入れを繰り返していく。彼女は陰核をこねくり回されていた折に比べると苦しげに肩を上下させていたが、それでも以前指を挿入したときと比べると多少なりとも膣の中に快楽を見つけ出せているようだった。今夜一度絶頂を挟んでいるために脳が刺激という刺激を悦に置換するよう働いているのか、はたまた僕の日々の慣らしが効きつつあるのか、定かではないが……嬉しい一歩であることに間違いはない。
恐ろしいほどスムーズに、くぽん、と僕の人差し指が根本まで収まってしまった。

「人差し指だけ全部入ったけど、苦しいか? 痛かったりは?」
「へいきっ。前より、大丈夫……はっ、う、ちょっときもちいかも……」
「よかった。いいところあったら教えてくれ。指、増やすよ」
「う、んっ。あっ」

人差し指はそのまま抜かずに、中指を第1関節ほどまで挿入してみる。なまえの息が跳ねたことに気づいて一旦進めることをやめ、中指だけで抜き差しを繰り返しながら徐々に受け入れてもらった。
肌に浮かべる汗の量をぐっと増やした彼女の恐怖を紛らわせるため、腕の中のその横顔にちゅ、ちゅ、とキスを散らしてみる。

「胸と中、また両方一緒に触ろうか」

抱き止めていた手を胸の膨らみへと滑らせ、まだ尖りを残している先端を指先でつつく。

「れーくん、ちゅーもして……?」
「いいけど、ふふ、忙しいな、これ」

仰せのままにとなまえの唇を奪う。両手を愛撫に取られながら、身の入らないままキスをしていると、それを察したらしい彼女の方から積極的に舌を絡めてくれた。ちゅう、と唾液ごと啜るようにして舌を吸われると深くにも気持ちがいい。責めているつもりが危うく責められそうになってしまうのを、乳首をくにくにとして主導権を奪われないように務める。こちらを首だけで振り返りながらキスをする、という辛い体勢でありながら、彼女は行為に没頭していた。
ちゅぱ、ちゅぱ、と漏れ聞こえる唾液の弾む音に、僕の指が愛液を泡立てる音はかき消される。彼女の意識がキスに縫い留められている隙に僕はそこに中指を深々と突き刺した。彼女は下からの責めに少し肩を跳ねさせたものの、キスにのめり込んだまま。2本の指がほぼ完全にそこに収まったことには気づいていない。僕は中指と人差し指をばらばらに動かしたり、二本の指を揃えて抽送したりと、緩急をつけてなまえの性感帯を刺激してやる。

「なまえ、気づいてるか? 指、二本入ったよ」
「え、ほ、ほんとだ」
「もう少しで僕のも入りそうだな」

きゅう、となまえの中が僕を締め付ける。

「想像した?」
「……うん」

頷く彼女の横顔が堪らない。
僕のなまえ。僕だけの君。どんなに恥ずかしくても、僕が教えたとおりに卑しく花開いていく。
彼女の胎に収めた指の向きと位置を調節し、指の腹がちょうど臍の裏に当たるようにする。心なしかざらついているように思われる場所をそっと撫で上げて、びくつく彼女の反応を伺いながら、そこを重点的に責めてみる。熟れた果実を潰すが如くぐずぐずのそこをとん、とん、とノックした。

「れいくんっ、また気持ちよくなっちゃ……いっちゃう……っ! んあぁ……っ、ふっ、ぁ……」
「大丈夫、いっぱい気持ちよくなっていいよ。いかせてあげるから、僕に君のいいところ、教えてくれ」
「さ、さっきの」
「さっきの? ここか?」
「あ……、ん、あぁっ!」

大きく腰をうねらせてなまえは達した。
脱力する背中はずるずると滑り落ちるので、後ろから抱き止めて自分の胸に寄りかからせた。乱れた髪を軽く撫でて整えてやり、背中を丸めて汗の目立つ額に上から口付けを落とす。

「えへへ、抱っこされるの気持ちいいな」

まだどこかぽわぽわ酩酊している覚束ない発音で、彼女が言う。

「お疲れ様。順調だな。二回もできたし、中でもちゃんと気持ち良くなれてる」
「もうそろそろできるかな?」
「そうだな……あとはここをもう少し広げてから、だな――」

するり、と柔らかいお腹を撫で擦ると、彼女はくすぐったそうに身を捩った。
指が二本入るなら一般的にはすぐにでも繋がることの出来るライン帯だろうが、念には念を入れ、もう一本は余裕で飲み込んでもらえるようにしておきたい。ただでさえこの子にとって恐怖の回想を伴う行為なのだ、潰せる不安は片っ端から芽を積んで、万が一にも痛い思いはさせたくない。

「零君は?」
「僕は今日はいいよ。君も二回もして疲れただろう?」

勿論熱を集めた芯を放っておいていいということはないのでこのあとトイレにでも籠もって沈める算段だったわけだが……。

「わ、わたしだけ……は、恥ずかしいよ……。なんかずるい。手だけならできるから、ね?」

上目遣いに僕を見つめるなまえが、そっと服の上から僕自身を包み込み、ことん、と首を傾げる。

「私がしたいの……零君」

あろうことか――彼女は破裂せんとばかりに膨れている屹立に、ちゅ、と口づけてきた。衣服越しだ、唇の感触など伝わるわけもないのに、ただ彼女がペニスにキスしたという事実だけで血が湧き肉が踊る。どくん、と大きく脈打つ心臓と芯。後者に至っては歓喜に打ち震えて先走りをどぷりと分泌している。

「……っ、なまえ」
「零君、駄目?」

頼むともやめろとも言えずにいる逡巡の中の僕を相変わらず上目遣いに伺いつつ、なまえはスウェットの下を下ろしていく。愛妻のかわいらしさと自分の欲の前に膝をついた僕は、白旗を掲げた。腰を浮かせ、脱衣を手伝う。
下着の中から機嫌よく姿を現した自身は上向きで、血管を浮かせており、扱いて準備を整えてやる必要も感じられないほど欲の火を灯していた。
被せるためのスキンを手元に用意した時。なまえが天井を仰ぐ猟奇的なペニスの先端に、今度は直接にキスをしてきたので、僕は手にしていた正方形の包みを取り落とした。

「っ、今日も手でして貰えるか?」
「くちはやだ?」
「喉、傷つけたら困るだろ。……僕が傷つけそうで怖いんだ」

顎の下から手を滑らせて喉を撫で、喉仏とは呼べない小さなおうとつをなぞると、なまえは少しだけ怯えた。

「そんなに奥まで入れるの……?」
「入るか入らないかで言えば、無理やりすれば入る……けど、相当苦しいだろうな。そんなことしたくないしするつもりもないんだけど、万が一我慢できなくなった時が怖いからやめておこう」

――だって君は知らず知らずに僕を煽るから。いや、僕が君の些細な言動に欲情しているだけなのだけれど。

「零君は万が一の時の話ばっかりするね」
「危機管理が仕事ですから」

マットレスの上から避妊具の包みを拾うと、それを破って上向きの芯に纏わせる。
ちょこりんと座っている彼女に目配せすると、それほど抵抗のない所作で僕のそれに手を伸ばしてきた。辿々しく遠慮がちな手に対して、もう少し強く、なんて注文をつけながら、また触れてもらう。
またしても一度の射精では腰に集った熱は引かず、この日も二度に渡って彼女に扱かせた。用済みのスキンを2つと、彼女の体を拭いてやるのに使ったティッシュやシートを屑籠に投げ捨て、二人でベッドに潜り込む。

「あ、待って、シーツに擦れちゃうから、絆創膏……」

僕がかけてやろうとしたタオルケットを跳ね除けて、なまえがリビングに向かおうとする。
厭らしく育ちつつある胸の飾りは、今日も目一杯丁寧に愛でたお陰でより刺激を拾いやすくなっているはずだ。いつもより一度多く絶頂に達したなまえを立たせるのは気が引けたため、ベッドに押し戻して、代わりに僕が取りに向かう。絆創膏の箱を持って寝室に戻ると、ぺり、と接着面の紙を剥がした。

「僕が貼ってやるよ」
「う、うん」

さすがにもう先端の隆起は和らいでいたが、僕の視線に晒されるうちにまたぷっくりと顔を出し始めている。それを塞ぐように絆創膏を宛てがい、貼り付けて。

「できた」
「ありがと……」

――ちょっとえろいな……。
事を終えたばかりだというのに不埒な思考が芽を出していた。


2023/07/24
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