短編

愛でられるのがお仕事です


ルビーの施してくれる魔法の如きドレスアップとは服選びの域など二歩も三歩も飛び出して、ランジェリー選びなど当然のようにやってのけ、全てを剥ぎ取った素肌全身にメジャーを絡み付けた上で鏡の前に立たせるという、私にともすれば裸以上にあられもなくみっともない格好をさせる事すらままあるくらいだ。言葉からは伝わってこない非常に危険な提案を、踏み込んだ解釈をこちらがしなければまず話が噛み合わない。前例を踏まえ、私に化粧を施したいというお願いをされれば――メイクアップが絶対に顔だけには留まらないことはもう、明らか。

ルビーの指の中にある愛らしい小瓶。瓶内に並々と閉じ込められた苺色の液体は、ややとろみがついていて、光を浴びると煌めきを放つ。それは彼が所有する私専用のリップグロスだ。が、本来の使用法からはかけ離れた、そして何とも恥ずかしい方法で使用されている。ルビーの部屋にいながら一糸纏わぬ今の私もまた途轍もなく恥ずかしいわけだけど、満足には至らないのか更に重ねられる恥は山のように。
惜しげも無く晒された双丘の、頂点の恥ずかしい飾りとその周りの輪を滑るグロスの筆。世辞にも愛らしい色とは言えないそれらだからと、ルビーは本来唇を輝かせるためのそれで悪怯れる様子も無く私の胸の飾りを塗りつぶす。苺色に彩られ、おまけに星屑を散らしたような光沢まで放って。双丘を、飾りを凝視されてこちらは恥じらいだけでも死んでしまいそうだというのに、筆の先端が普段つついて善がらせる部分にまで及ぶものだから。本当の色素を軽く否定されているというのに、刺激と記憶に尖を帯び始め出しそうな。

「ふふ、いい色。かわいいね」

そんな美しいものを前にした時の声音と笑顔が神経をくすぐったら、駄目だ。反則だ。

「ほんとは今すぐ食べちゃいたいくらいなんだけど。夜までとっておこう」

嗚呼、嗚呼。嗚呼、嗚呼。
今は素足だけれども、ヒールは脚の健康も考慮し程々ながら、愛らしさも備えた彼の見立て。今は鮮やかに身包み剥がされてしまったけれど、一寸も違わぬサイズの衣装はどの部位を切り取っても私の躰にぴったりで、レースとフリルにリボンがたっぷりあしらわれているのは下着同様。
デコルテに煌めく白粉を載せられられるのは身を捩りたくなるほど擽ったくて。睫毛は天を仰がせて、頬には朱を、唇には紅を載せられて。梳かれた髪はふうわりと巻く。どうしましょう、こんなに粧し込んでしまって。何かを纏うことさえ許されないのに躰ばかりを輝かしいまでに飾り立てられてしまうなんて。馬鹿みたいなのは誰より私だから悪態もつけない。
ルビーの手が加えられていない場所など、私の肉体にはもう残されてはいないはず。内臓の形や、細胞すら彼好みに作り変えられてしまうのは、もう時間の問題であろう。

「私、偶にルビーがわからない」
「なぁに。ボクが怖いの?」

こんな時でさえ本音を包み隠さずにこっくりをする私の素直さを、両親とは違い美徳と褒めてくれるルビーは好きだ。天邪鬼と罵られず、頬を叩かれず。ただ美術品のように扱われるだけである。

「そんな風に思っていても、なまえはどうせボクのこと好きなんでしょう?」
「……だめ?」


2018/01/22

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