短編

夏空に挑む僕らを笑うな


気まぐれに入店したコンビニエンスストアで気まぐれに手に取った棒アイスは口腔に咥えておくと徐々に角を丸くさせていく。炎天下の中、冷房の効いた店内からレジを通してすぐに出てきてしまった事を後悔するも、遅い。やや傾いた陽と内外での温度差に全身の汗腺という汗腺が開いた。

轟焦凍とアイスを食べる。
私と轟と、並んで歩きつつ、買い上げたソーダの棒アイスの封を切って、それを二人して口に含めば、この通り。構文通りの状況が容易く出来上がる訳だが。この場合はもう構文やましてや例文などではなく単なる説明文だろう。
溶け出したソーダ味が歯の隙間にやや染みた。ごく、と飲み込むと氷の欠片混じりのソーダ水が喉の奥に浸透する。散々陽光と轟に熱され焦がされていた身体の芯は胎内から常温に引き戻されその後気持ち良く冷やされる。風すら一切の涼やかさの無い夏季の道にこのちょっとした休息は必要だ。
普段なら轟の右手と繋いでひんやりとした体温を分けて貰うところだが、流石に片手を繋がれた状態で利き手もまたアイスに奪われてしまうとバランスが危うい。片面の表面上だけを冷やして貰うか、体内の芯から涼むか、その二択で揺れに揺れた結果である。
嗚呼、暑い。
それにしても、よかった、と人知れず思う。かのエンデヴァーの御子息となればバーゲンダッシュアイスクリームくらいしか舌に合うものがないのではないか、などとひっそり考えていたのだ。それなどは杞憂で、そして完全なる偏見であったようで轟は澄まし顔を大して崩さず自身の安価ラムネソフトクリームを舌で溶かしている。あーん、と口を開いて食す姿に見つけたのは幼げな影と、それから発見。

轟焦凍はお口が小さい!

あーん、と本気を出した私がひと口で飲み込んでしまえそうな――さすがに行儀が悪いので外ではしないが――ソフトクリームも、轟は何口か掛けて食すのである!
新発見だ。細やかながら、嬉しい、発見。

「……何、見てんだ?」

ふるふる、ふるふる。「別に、何にも」と首を振る。明らかな誤魔化しだったが轟は「そうか」と納得した様子で。妙な台詞が口を突いて飛び出さないよう蓋をするように私はぱく、と棒アイスの先端から大きく齧った。
轟の視線は私に注がれたまま。私の顔の何を見つめているというのか。
な、なんですか……。

「いい食べっぷりだと思った」

嗚呼、暑い――ばかりではなく、熱いんだから!


2017/11/14

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