短編

プレゼントは永遠に続く愛でいいよ


呼吸一つをするだけで鼻を劈く寒気に真冬の到来を感じつつ、マフラーに顔を埋めてふっと嘆息。群青というよりは水色に近い快晴を仰いだ。
いつも通り、あと数分遅れていたら遅刻認定、という絶妙なタイミングでおんぼろ校舎に到達すると、脱ぎ取ったばかりの靴を指先から引っ提げて歩く人間の心にもれなく不安を植え付ける悲鳴を発する古い床を進んだ。
建物内に入ったところで暖房設備すら満足に整わないE組校舎では和らぐ気温も和らがず、びりびりと肌に電流でも流し込むような寒さが伝わってくる。
この寒い時期、誕生日が同日である神様が馬小屋でお生まれになって無事なのは、やはり神だからなのだろうか。自分の下駄箱の前に立ち、蓋を開けようとして、はたと気づく。薄っすらと、閉まり切っていない戸と中の間に隙間を発見したのだ。上履きを収納しておくためだけのその狭い空間に、何かが他人の手によって詰め込まれていることが外側からも伺えて、へぇ、と意地悪げに口元を歪めた。
12月25日。誕生日。神様ではない、一般市民兼殺し屋である俺の。
下駄箱を開けたら開けたでがさがさっと音を立てて落下する、それまでそこに入れられていた物。床へ投げ出されてしまう前に見事キャッチし、じっくりとそれを観察する。少し形が崩れてしまっているがそれのラッピング材は見てすぐ贈り物とわかるぐらいにかわいらしく、まず男子ではない。悪戯、ということも考えられるが、あえてこの赤羽カルマをその対象に選ぶ命知らずなんているだろうか。いないだろう。いたらいたで、自ら出向いていないようにしてしまうだけだ。
殺せんせーのマッハを追い抜き、誰よりも早く俺を祝ってくれる人間は誰だろう。そんな風に考えているように装いつつ、視界の端でこそこそと動く小さな影を俺は横目に捉えていた。


「なまえちゃーん。ありがとね、“クリスマスプレゼント”」
「!?」

放課後。
ビクゥッと肩を跳ね上がらせて無駄に大きく反応を示し、顔にわかりやすい驚きの表情を貼り付ける少女に意地悪く笑いかけると、彼女は勢いよく顔を上げる。どうしてわかったの、とでも言いたそうにぱちぱち瞳を瞬かせるみょうじなまえと視線を交わえ、反応が派手な割に喋ろうとしない彼女を覗き込んだ。

「な、なな、なん……」
「なんでって? あ、やっぱ気になる? でも内緒」

がびーん。
そんなぁ、と口をあんぐり開き、おかしな表情とポーズのままなまえは石化する。

「ところでなんだけどさ、なまえちゃんに付き合ってもらいたい場所があんだけど。誕生日の我儘ってことで俺のお願い、聞いてくんない?」
「なっ、なんで私ですか……ていうかプレゼントあげたっ、」
「誕生日はわりかし好きな子に祝ってもらいたいじゃん」
「だっ、だからプレゼント……!」
「あれクリスマスのでしょ? ごっちゃにされるのあんま好きじゃないんだよね」
「わ、私はっ、誕生日のお祝いのつもりでっ!」

彼女の思っていることも言おうとしていることも知っていたし聞こえていたけど断固無視。異論を持つのは勝手だけど唱えさせなければ意味なんてないのだ。
小学生かというぐらいに細いなまえの腕を掴むとぐいぐいと引いて、歪めた口元には殺せんせーと同じにやにた笑いを貼り付けて、「ちょ……っ!?」とか「は、離してよっ」とか、軽いパニックを起こしてくるくる百面相をする彼女で楽しんで。どうしても抑えられなくなった笑いと楽しさを後ろのなまえに悟られないよう、こっそりと漏らした。


2016/12/25
赤羽カルマ専用恥ずかしがり屋サンタクロース。

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