短編

月はずっと起きている


安室さんはまめだ。豪華なおせちも自分でこしらえてしまって、おまけに年越し蕎麦も忘れない。そのうえそれらを私に振舞ってくれるのだから万々歳だ。

「そういえば、安室さん。年越し蕎麦って年の明ける前と後、どっちに食べるのが正解なんでしょうね」

ずずず、と。「安室さん印の年越し蕎麦」の最後の麺を啜り終え、箸を置いた私はこぼす。

「食べるタイミングに決まりはないそうですよ。元旦に食べる地域もあるみたいですし。……あぁ、香川には『年明けうどん』なんてものもあるとか」
「うどん?」
「他にも――これは少し話が変わりますが――北海道でもおせちを大晦日から食べ始めるそうです。文化や風習は土地ごとに色を変えるものですから、正解と呼べるものは凡そ無いんですよね」
「面白いですねぇ。でもルールがないと困っちゃいません? いつ食べたらいいのかなーって」
「そうでしょうか? 年越し前と後、二度も蕎麦を食べる機会を貰えると考えると、なんだかお得な気がしませんか?」
「確かに! それはお得です!」
「では……。先程年も明けたことですし、もう一杯いかがですか?」
「頂きます!」


2020/12/23

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