短編

どうしても快楽に溺れて大人になりきれない僕らは惨めだったね


※裏的描写がございます。実年齢の18歳に満たない方のご閲覧はどうぞお控えくださいませ。
※ヒロインは太宰さんの恋人設定でございます。



糞ったれ、あほんだら、と罵詈雑言。前略、全くもって悪趣味な異能空間に俺、太宰、なまえは囚われてしまった訳だが提示された脱出法もはいそうですかじゃあやりますとそう易々と受け入れられるものなどでは決してなく。先程から力技による脱出もとい壁の破壊を主に俺がだが試みてはいるものの、てんでだめだめ、びくともしない。
拳及び異能によるありとあらゆる手段を試し尽くし、軽く息切れを起こしている俺の後ろで、なるほど、なるほど、と汗一滴とて垂らさず涼しげに情報だけを掻っ攫って行きやがるちゃっかり者に眉を痙攣させる。
「これは、従うしかないねぇ」
糞野郎が大雑把に肩を竦める。
従う、とはつまり脱出条件を嚥下するということだ。
「いいのかよ」
「一個人の感情論で優良株を道連れ、なんてそれこそ非合理の極みでしょう」
「誰が手前に聞いてるっつった、糞鯖。なまえ、このままだとお前が辛いだけな訳だが、いいのか」
「太宰さんが仰るのでしたら私は構いませんが」
まじかよ。即答って。女にあるまじき、というか十中八九こいつの手によるものであろう同情しか湧かないなまえの貞操観念の欠落させられっぷりに絶句する。
曰く、此処は――3pしないと出られない部屋、だそうなのだ。
要するに太宰の女であるなまえを太宰の眼前で寝取る真似をしなくてはならないという。しかしながら引っかかるのはなまえの愚直さと従順さだった。俺の脳に築かれていた清楚で上品なみょうじなまえ像が崩れ去る音に耳を塞ぎつつ、穢した現恋人もとい糞を睨む。
「おい手前何言わせてんだ呆け」
「なんで私が悪いみたいに決めつけるのさ」
「十中八九おめぇだろうが。同僚の性癖と変態性垣間見えてもちっとも嬉しかねーんだよ」
「上司の間違いではなくて?」


「君とは間接的にでも触れたくないもの」「そらこっちの台詞だわ」という具合に不覚ながら満場一致で、なまえを上下で分割して担当を分け、解放条件を満たす運びとなった。
てっきり太宰の野郎が恋人らしく下肢に押し入る役割なのかと考えていた俺は、手始めにあまり羞恥のいらないところからか、となまえにキスを仕掛けに向かう。正しくは、向かおうとした。がりがりでぐるぐる巻きな木乃伊の手が眼前に突き出され、止む無く俺は制止させられる。図らずも――図っていやがりそうなのがこいつだが――犬への待てのように。
「あー、ちょっとまって。キスは駄目」
「お、おう」
「だから、うん、私が上肢で君が下肢という配分でいいだろう? そもそもこの子は仕方が無しに貸し出すわけなのだから、選ぶ権利はこちらなはずだ」
「そりゃ構わんがもうちょっと本人の意思も聞いてやれよ」
「いいでしょう、別に。君には関係ないんだから」
「だいじょばなそうだからよかねえんだろうよ」
しかしこいつはいいの放っておいての一点張りで、結局日常の延長戦的に俺が引き下がることとなる。
眼前で口腔から乱され、リボンか封でも切られるように剥かれていく女を見せつけられるのは盗み見のように背徳的で、扇情的でしかなかった。細胞のかけらひと片分すら触れてはいないというのに体の芯が熱されていく。焦がされている。
角度をずらしては整えて、と。絶えず折り重なりと蠢きを繰り返す唇同士は時折隙間を生み、双方の狭間での卑しいやり取りが俺の目にも触れるのだ。赤黒く、濡れて、龍のように縺れる、生物の一部というよりは生命体そのもののような、性的な交信。恍惚と嘔吐感が同時に競うようにせり上がってくる。
ふ、と太宰が大袈裟なまでの勢いでこちらを振り返る。物凄い剣幕を差し向けられることを想像したが、実際には隠れた片目で視界が悪いがための大きな動作でしかなかったらしい。やや苛立っていることには変わりは無さそうだが。
「中也、何ぼさっと見ているの。えっち。そっちはそっちで適当に勃てておいておくれよ」
「あ、あぁ……。すまん」
「どうしたの? しおらしい」
「なんでも無ぇよ」
適当に、誘発を。必要性も無さそうなのだがな。どうやら見せつけられたものが悪かったらしいから。焦げた芯は欲の象徴だった。
なまえが奴のお気に入り枠なのか、はたまた奴自身が変わったのか変えられたのか。どちらだって俺とは無関係の遠地でのニュースでしかなく、構やしない。だが女に散々甘ったるく近づいた後は手酷く扱う最低な幹部サマからは想像もつかない、というか知らずに見下していたかった慈しみ深さにこちらがどうにかなりそうだった。執着心が欠落しているこいつが大切に扱う人物を横から奪う非道に喜ぶ反面恋人達が哀れでならない。それらは同居しているようで同時には存在はしていない。太宰自身に鋏を突きつけてやる快楽と、稀に太宰の影に見る子供からお気に入りのぬいぐるみを強奪する忍びなさ、哀れさ。餓鬼の涙を拭う手は持たずとも、この手で餓鬼を叩いた際の衝撃は味わいたくはない。
なんだかな、めんどくせぇな。
ぴらり、と木乃伊が捲ったスカートの深奥に俺は指を差し込んだ。「指、太いです……」と馴染まない俺の指の形状に早速潤んだ弱音が吐き出された。太宰の骨々しさでは針金を押し込まれているようなものなのだろうと考えると同情もしたくなる。

「ほら、ここに頭乗せて。私にお顔を見せてごらん」

よいしょ、となまえの頭を段ボールのように持ち上げ、自身の膝を枕にさせる。
「こんな床じゃああちらこちらが痛いでしょう。可哀想にねぇ」
おまけに相手はこんな蛞蝓だしぃ? となまえへの労りから一変して憎たらしく俺に向けて吐き捨てる青鯖に青筋が立つ。
どんどろりん、となり始めた窪みを荒らし回って蕩けた音を奏でる。慣れてはいないが知らない行為でもない。とっととぶつけて済ませてしまおうという気持ちが身を急がせ、乱雑さを加速させる。
「ねぇ、ちょっとちょっと! 中也それかなり荒々しいから。もっと労わってあげて」
自らも手酷くすることも多いであろう駄々っ子は、どうせ真摯に愛でてやったところで恋人でもないのにとかなんとかぶぅたれるのは眼に見えていたので聞き入れないこととする。
「文句あんなら手前でやれや」
「さっきまで君が触っていたところに触れるわけがないでしょ」
「糞潔癖」
「うるさいってば」
「なんならこいつの全身くまなく触ってやってもいいんだぜ? もう抱けないようにしてやる」
「最低。悪趣味」
俺の鼓膜を幽かに揺るがしたなまえの吐息に、板挟みにされた哀れな存在を思い出し、特になんの合図も信号弾も無く、不本意だが阿吽の呼吸的に俺たちはこいつの頭上での言い合いを終幕させた。
――休戦協定の前に一つ。細胞の核まで嫌いな中也になまえを許すのだから、触れた分はちゃんと隅々まで味わい切って。でも記憶には残さないで。出てからこの子で夜を慰めるなんて論外。記憶消してね。
――どっちだよ。
――どちらじゃなくてなんだって嫌なの。私の女の子を奪うんだ、わたし君の事一生許さない。
――何度目の一生許さない、だよ馬鹿。前回のも前々回のももう忘れたのか? 案外大した記憶力してねえなぁ。
――うるさい、君の蛮行悪行憎しみなら確と刻んであるよ! 全くもうこの部屋で飢え死にすればいいのに!
――手前と違って死が大団円にゃあならないんでね、俺は。
――君と心中とか真っ平御免だから意地でも出てやるさ、私は。ほら早く抱いてしまって。
かちゃり、ベルトの金属音。避妊具なんていう気の利いたものは無いらしく、仕方がない、悪いなと心中なまえに謝罪した俺の元へ。ひらり、舞ってくる小さなもの。まごう事なき太宰の投げた避妊具だった。どこから出しやがった、こいつ。そんな疑問符も奇術師相手には紙吹雪に等しいこと。
「まぁサイズ合わないだろうけれど?」
「るっっせぇわ」
つぷり、押し入る。踏み込んでいくこちらと甘んじて受け入れるだけのなまえと、吐息を不協和に重ねながら押し進める。
「ねぇ、まだ? まだ入り切らないの? そう大したものでもないだろうに、どうしてそう時間を食うんだい」
「……っ、糞、るせぇ。きっ……ついに決まってんだろっ。ろくに鳴らして無いんだから」
「はぁ? 辛い思いさせたら承知しないって言っただろう!?」
言われていない。多分。というか。
「手前が急かすからだろうが!」
きっ、と糞野郎を眼光で貫いてやるが、変わり身の早いぼさぼさ頭はその時には既になまえとキスの真っただ中にあり。自分の膝で、他人に侵されかけている女と――真っ当なラヴシーンからはあまりにもかけ離れているが、スパイダーマンキスとでも言ったか、逆さで互いに吸い合う光景は片割れこそ汚らしい木乃伊男だが、もう片割れは。そちらだけに限っては、別に、そうでも、ない。
どうにも俺が動く度になまえの喉が痙攣しているので、なるほどこいつあやしていやがるのか。する、と顎の下を手で慈しみながらスロウキスで意識を己に縫う糞包帯は、ただの遊び人に留まらず恋人の役職までも演じ分けられるのかと不本意ながら有能さを知る。知りたくなどなかった。しかもこんな乱れまくった混戦の局面で。
ひとまずなまえのことはこいつに任せておいて。気遣いから神経を数本引き抜き、一気に深奥まで辿り着いてしまおうと進んだ。
「はぁ、はいった……っ。手前も、準備しとけよ……っ」
「え? あぁ、そういえばそんな条件だったっけ」
「お、め、え、な!?」
「冗談だよ。彼女が落ち着いたら参戦するから。その前に果てたりしないでおくれね」
「人を早漏扱いすんな。……そろそろ動くぞ。大丈夫か?」
「大丈夫そうじゃない?」
「お前に聞いてんじゃ無えわ。おい、なまえ、動きてえんだが」
「は、い。大丈夫、です」
上下する肩の乱れたブラウス生地の隙間に内出血の紅色を認めてしまうが、より横取り意識が刺激され煽られるばかりで、目を逸らしたいのは己の変態性からだった。
一応は少女らしく蛇の体内のように狭いが、徐々に広がり奥へ奥へと引き入れ、誘い込み、畝っては魅惑してやまない縮小楽園。危うく本来の目的も忘却の彼方へ消し飛ばし、無我夢中で食い尽くそうとする獣に成り下がるところだった。園に罅を入れるすかしたテノールヴォイスさえ割り込んでこなければの話だが。
「うわぁ、なまえってば何こいつ相手に善がっちゃってるの」
他人の吐瀉物でも見たように嫌悪が染め付けられた太宰の声色。
「ごめん、なさい……っ」
「って言っている自分がいいんだろう? 君を選んだ当初はこんな畜生みたいに欲情して快感ばっかり追うような淫らな子とは知らなかったよ。はぁ、失敗してしまったかな。猫被りだけはお上手らしいね、尻軽ちゃん」
「……おい手前、流石に酷えんじゃねえか?」
「いやちょっと馬鹿真面目に口挟んでこないでくれる。お遊びの一種なんだからさ」
お遊び、って。そういうプレイかよ。お得意のいびりも床の中では愛撫、って? ざけんじゃねえぞ。
「いやね、暇だったものだから。けれど言葉嬲りも、それだけだと詰まらないものなのだねぇ。飽きてしまう」妙な発見しなくてよろしい。というか十分に楽しんでいるだろう。あぁそうだ、という具合に太宰の両手が貝殻のように、ぽふり、と閉じ合わさった。

「ちょうどいい、なまえもお口暇そうじゃない。かまって?」

太宰は自らも野生的な獣の部分を引き摺り出し、一杯一杯そうななまえに対して慈しみの施しという無茶を振る。
「なあにびっくりしているの。前にも教えてあげたでしょう。ほら、早く」
れ、ろ。とぎこちなく滑らせられていく舌と、舌が撫で回す器官の双方を視界に入れたくなかったために視線を適当な床に外す。
それにしても、と思考を現実から切り離す――夢から現実へ引き戻したとも言える――。一応これで条件は飲み下したことになるにも関わらず異空間が開ける気配がまるで無い。ただ行為に沈むだけでなく、絶頂を迎えなければならないという解釈をした方がこれはいいだろう。なまえには悪いが。耐え忍んで貰わねば。
しかし、なんということか。異空間内を地獄絵図のように捉えていたのは俺だけであったらしいのだ。睫毛の先で落ちそうになっている汗が閉じ込めた世界にはなまえと彼女を膝に乗せて弄ぶ野郎の姿も同時に存在しており、そいつら二人の顔は。――恍惚、それ一色。
俺はようやっと悟った。この異空間において一番哀れな人間は自分の下のなまえであると信じて疑わずにいたが、違う。こいつらのど変態プレイの餌食となっている俺が被害者なのだと。
「おい太宰。もし俺がなまえを滅茶苦茶に掻き抱いたとして、こいつはどうなる?」
「えー? 恋人以外に犯されているというのに快感は拾ってしまってそんな自分が恥ずかしくて仕方がないのにそれにまた興奮する――みたいなことにはまさかならないだろうねぇ、なまえちゃん?」
ぽん、ぽん、と俺から太宰へ、太宰からなまえへ、とバケツリレー式に渡っていく会話のボール。最後に受け取った人物であるなまえの表情は心なしか輝かしかった。
「大丈夫かよ、手前の女」
「結構な変態さんだよ。全然大丈夫なわけがないでしょう。見てわからないのかい。生半可な気持ちでは相手出来る子では無いし、閉じ込められたのが猿みたいな性欲おばけの君とであったことは、まぁよかったのだろうね」
「誰が猿だって? 色魔この野郎! 手前も似たようなもんだろうが」
「すこーし性癖や嗜好がアブノゥマルなだけで、そこまでの絶倫ではないよ、私」
そこまでの、な。そこそこにではある、と。いやそんな事情知りたかねえよ。
どちらにせよ俺たちに抱かれる女は散々だろうがな。

「おい、色魔」
「なんだい、お猿さん」
「体勢変えさせろ」
「何をご所望だい?」
「バック」
「はいはい」
なまえの体をひっくり返し、跪かせたところで背後から弾みで引き抜かれかけてしまったものをぐいと突っ込む。畜生のように四つん這いで低めた顔は太宰の脚の隙間に縫われ、俺が悪戯に性的なハニーショックを見舞ってやる旅うっかり歯を立ててしまうようでその都度頭上から罵倒が降りかかる。
恋人でもなんでも無い知人に、よりにもよって恋人の眼前で下肢を乱されて、屈辱に耐えながら恋人のことも構わされて、って。まぁ喜んではいるのであろうが、その歓喜から自身の変態性を再認識させられる、そんな今の気分はどうだよ。

「おら、変態の糞女チャン。とっとと行っちまえ」

もう一撃。


2018/04/10

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