短編

致死量の砂糖で煮詰めてやる


※背徳的な描写がございます。未成年の方、過度な性描写をご期待のはご覧になられませんようお願い申し上げます。


ぎゅうぎゅうに、詰め込まれて。互いの肌の隙間に詰め込まれた愛すら口実に過ぎないのではと寂しい事を考えてしまった。
激しい。いつにも増して今夜は荒々しい。
四つん這いで臀部を突き出して、背後から責め立てられている。
疲弊と快楽とでいよいよ腕の筋肉が限界とばかりに打ち震え出して嘆き始め、私は枕に顔を埋めた。若草みたいな汗の香りに鼻が曲がってしまっては枕に染みた持ち主の香りは微塵も感じ取れなくて。
無論、四つん這いで頭を低めれば伴って臀部までも落ちてしまう。

「オラ。しっかりしろ」

ばちん、と叱咤の声と共に叩かれた脾に衝撃が残った。しかし少し頭が晴れた気分。支え切れなくなった腰は中也さんに捕まえられ、再度深奥にまで突き立てられる。がつん、と。鬼みたい、とつきかけた悪態も大波に舐め上げられた砂の城のように綺麗さっぱり更地に返された。
大きく息吹いた中也さんの熱い息に当てられ、私の首筋の皮膚は忽ち融け落ちそうになる。背に彼の汗が滴り落ちてきた際も同様にだ。
徐に中也さんの筋肉質な腕が胸に滑り込んで片胸の先端を弄んだものだから、刹那、ひくり、と秘部が息が通ったような、しゃくり上げるような蠢き方をした。

「……っ、締めんなよ」

色めいた声が無茶を仰る。その癖、癖の悪いお手は、下肢の揺さぶりと並行して胸の芽をこねくり回すのはやめずにいて。

「なぁ、今どんな顔してんだ」

なぁ、なぁ、と肩を掴まれぐいぐいとされれば、振り向かずとも中也さんがにたりと笑んでいらっしゃることなど想像に難く無い。
彼が従うよう促している体勢は無理難題にも等しかったけれど、私は懸命に応じようと首を回した。

「はっ……なんて顔してんだよ。淫乱」

ご自分から見せろと求めて置いて酷い物言いです。そんな淫らな子をお好みなのも事実ですのに。
唇を押し当てられるも、接触は出来ても密着にはならない。うまく重なり合えないのだ。

「はぁー……、糞、しづれぇ……」

ぴた、と合わさらない分は舌を結んで補った。

「舌出せ」

命じられるがまま私は自分の唇を割り開いておずおずと口外に差し出す。直ちに絡め取られた。普段は口腔で行われる貪り愛が、現在空気に晒された場所で行われている――見せびらかされている。舌先だけの遣り取りで、構われたがる根元は足りませんなんて疼いているけれど。眼下で異形の生物のように戯れる自分達の肉の色が下睫毛を刺した。
果たしてキスと呼べるのかもわからない行為を終える間際に名残惜しげに中也さんは私の舌と唇をひと舐めされていった。
べとりと色々な液な付着した口元を枕に埋めると、その湿り気は布が吸収してくれる。
再びの律動。胎内を好き勝手に荒らされて、喰い散らかされる。
いたい、痛いです、激しいのは嫌、です、と。覆い被さる中也さんに潤んだ声音で訴えたが「我慢しろ」で一蹴された。時偶背骨に唇が這ったり、吸い付かれたり。そんなお戯れでこの暴行を許せと懇願される気分だ。
もしやこの方、このまま私を食い尽くすおつもりではなかろうか。
私は暗愚にも、荒々しく野生児のような喰らい方ながら加減というものをご存知なのが中也さんという方なのだと考えていた。違ったのだろう。彼が果てるまで、或いはからっぽにできるまで私は蹂躙される他ないのかもしれない。
肩甲骨を擽る、尻尾のようなテラコッタの後ろ髪を知覚する。
中也さんは今夜を境に豹変した、というような話ではない。今まで優しさと余裕の隙間に覗かせていた片鱗こそが本質で、野性を問題視せずにいた私の愚かさが裏切りのように感じさせているのだ。
肌で肌を嬲られる。眼界の明滅。

「なまえ……っ」

中也さんの呼び声が耳朶を熱する。きゅうん、と甘やかに痙攣した私の胎内で彼は果てをご覧になれただろうか。

***

気づけば朝が枕元までやって来ていた。
覚醒も早々に中也さんと唇を繋ぐ。口腔の粘膜が乾涸びてしまっていたが、校内全域を念入りに肉厚な舌に調べられると途端にじゅわ、と滲み出す。キスの最中、中也さんが私の頭の横に手をついて上肢を持ち上げ、覆い被さってくる。泣き言の軋み一つ上げない高級なマットレスに背を縫い止められるような格好になってキスが続いた。
触れるか触れないかの力加減で肌を撫ぜ上げていく指は、骨盤から滑らかに歩み出して脾を登る。悟らざるを得ないだろう。

「こんな、朝から……?」
「同棲中の若い男女ならもう宿命的なあれだろ」

よくわからない自論を展開なさってから、「っつーか、もう昼前だけどな。ここまでだらけたのも久々だ」と中也さんは目覚まし時計を横目で一瞥しつつ仰る。

「カーテン、せめて閉めてくださいませんか」

昨晩、寝具に転がり落ちる前に閉める数秒すら惜しんだからだ。

「構いやしなねぇだろ。もう散々見てんだし。今更なに恥ずかしがってんだ、手前は」

粗暴なお言葉にそぐわないいとおしみの口づけを一つ頬に頂き、結局私は許してしまった。
つつ、つ、と変わらず浮いたような触れ方をなさる指は胸元に辿り着く。支えるものも無く、やや形を崩した双丘を最初こそ、ふに、ふにゅ、と興味のままに指で突いては沈み具合で弾力を確かめて楽しんでいた中也さんだったが。舌舐めずりをし、揉み上げのひと房を耳にかけ、鼻先を私の胸に近づけた。やや上目遣いにこちらを伺った中也さんと視線がかち合い、私は刮目する。同時に心臓の揺れた気配。
左胸の突起は呆気なく中也さんさんに食べられてしまった。はむっ、と。少年みたいな小振りな唇に囚われてしまった、大事な胸の飾り。秘めた野性さえ知らないままなら幼児言葉で表したくなったであろう“おくち”の、小振りな口腔と云えど、赤子のそれではないのだから乳輪は勿論のこと、決して狭くはない範囲の肌が飲み込まれている。
まずは一周べろりと舐められ輪郭を調べられると、二週三週と同じ動きを繰り返される。きっと1周目の時に私が大きく反応してしまったせいであろう。嬲るように愛でられて。何度か吸われもした。突起の中心部の、シャワーヘッドの蓮口のような部分を探り当てられると、そこに集中的にぐりぐりと舌先が押し付けられる。時折掠めてくる八重歯の尖りが緩急を作り出して、息が乱される。不意にそこに痒みを覚えて引っ掻いてしまった時とは違う。それは紛れも無い快感だった。今している事は、あやしでも赤ちゃんごっこでも触れ合いでも無く、正真正銘の愛撫なのだ、と。知らしめられる。
あまり器量のよくはなかったらしかった彼は現在のように左胸に齧り付きながら、更に右胸を指で……なんていう器用な愛撫は行わず、一度唇は離される。そうして舌の働きによる私の乳首の状態を、何度か舐めて舌でも確認していたにもかかわらず、視覚でもまた確かめて。やだ、そんな事されたら、顔を覆ってしまいたくなる。
眼下に見える口腔で遊ばれた左の胸は、飾りが主張激しく天を仰ぎ、またその頂点から乳輪周辺にかけては唾液を浴びて、てらてらと輝いている。そんな左胸に対して、一切触れられていない右胸は脱がされて間もない頃とほぼ変わらない状態で。眼球を転がして左右を見比べれば、事前事後の差が一目瞭然。
昨夜とは打って変わって、順繰りに。丁寧な、ともすれば執拗なまでの愛撫を施され、そうしてようやっとという頃に胎内をもまた撫でられた。散々貪られた場所は少し指を這わせられただけで迎え入れる準備を整えてしまい、簡単に中也さんを招き入れた。
口づけを挟みながら、というよりも口づけの合間にゆるゆると突き上げられると申した方が良い程に、たゆたうように。こんな無緩急で愚図な、生き急がない午前もいいのかもしれない。
明るみの中では仰いだ先に中也さんの表情の揺らぎもよく見える。引き締まった胸板や腕もだ。中也さんの影が落とされているとはいえ同様に私の方もまた、破顔した様子や骨にこびりついた脂質を直視されているかと思うと恥じらいたくなる。中也さんの肉体美と対比にもなってしまうから尚更に。

「昨日、お仕事で何かありましたか」

ふと、問った。

「……悪かった」
「いえ……、少しどきどきいたしましたし」
「んなら、偶にはいいのかもなァ」

彼としてはこのスロウセックスは私への慰めや、労りや、詫びのおつもりでいらっしゃるのかも。「手前は楽にしてろよ」とご自分のお好きな動きは謹んで忍んで、私が善がる場所に刺激を加える様を見ていればそれはもう確信だ。昨晩を耐え忍んだ私へのご褒美とでも受け取っておこうかしら、なんて。

「別にどうもしねーよ。そういう気分だったっつうだけだ。手前を滅茶苦茶にかき抱きたかった」
「何故そのような気分になったのでしょう」
「お前さてはわかって言ってんな? せっかく人が隠そうと努めてるってのに」
「気にしませんと申したじゃありませんか。こうして最後には私を抱いてくださるのですし……」
「構いません、ってか?」
「えぇ」
「自分の男が他の女相手にしてんだぜ、もっと妬いて見せろ、ばぁか」

ぢう、と強めに上唇を吸われた中也さんは子供みたいに拗ねている。


2018/02/25

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