短編

永遠を信じられない子供でした


澄ました耳に静かに響く、私とは違う速度の鼓動に、不平等に割り振られた時間を思い知らされる。
私を抱き締めるほっそりとした腕の中。クッション化したシャスティフォルの柔らかさと、彼自身の花のような香りに溜まらずまどろんでしまいそうになる。先ほどまでシャスティフォルの中でじゃれ合っていたのが嘘みたいに。空気は色を変え、キングの指が私の髪を掬い取って愛でている。
顔を上げて視線を絡め、ふっ、と笑ってみると容貌にぴったりと合う純情さを持つキングは少し赤面した。本物の少年のようであることを確かめてから、私は再び腕の中に戻る。
彼と私では見ている景色は恐らく違う。感じている時間も違う。永遠には届かないといえど、何世紀にも渡る寿命を有する妖精族。その中でも彼は一線を画す王である。
私の一生は彼にとっての一瞬だ。当然、その中で生まれた恋だって。

「ねぇ、キングはいつまで私のこと好きでいてくれる?」
「君が死ぬまで――例え死んでしまっても、ずっとさ。なまえの方こそ、先にオイラに愛想を尽かしてしまわないかい?」
「まさか、そんなことないったら」
「どうだかなぁ。人間は生きる時間こそ短い癖に、気移りし易い種族だから」

キングはこれからどれくらいの日々を積み重ねていくのだろう。それはきっと、私には想像もつかない程のもので、適当に永遠とでも名を与えて片付けてしまいたくなるほどの、永い時。そして私の想像が及ぶ“永遠”が始まるより前に、私はもう彼の隣にはいられなくなっている。寿命を最大限に使っても、妖精の彼の時には追いつけない。

「私が死んでしまってもキングは新しい女の子、見つけてね」

逆の立場は――彼を失い、悲しみに暮れる自分自身の姿は、想像に容易い。私なら彼に願われても到底叶えられそうもない、できっこない願い。呪いの如き願い事に日常会話の皮を被せて押し付ける私は、もしかしなくともとんでもなく残酷な行いをやってのけてしまっている。気が付きたくなどなかった狂気だ。途方もなく無邪気な、シュガーコートを施した狂気。私が存在しなくなった未来でも、私を貴方の胸の中で生かして、そして私に縛られて生き続けて欲しいとどこかで思っている。どうか私との愛が貴方にとっての呪いとなりますように、と。


2017/01/03
2017/09/12 rewrite

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