図鑑所有者の妹

レッド姉の独白

私達は姉弟だ。家族だ。他の誰より近しい場所にいて、誰にも絶てない血筋の繋がりが絆なんて曖昧なものとは別にしっかりと心臓を根元から結びつけている。
寂しい時は後ろから抱きついて、怖い映画を見る時は一緒の毛布にくるまりながらお互いの手を握り合う。そうしておぞましいゾンビが襲い掛かってくる場面もヒロインの断末魔さえも子守唄にして眠ってしまう能天気な弟を揺さぶり起こして孤独感を追い払うのが姉の私。寒い夜は未だに同じベッドで寝るし、それ一口頂戴よ、の一言で“あ〜ん“だってやってお茶の子さいさい。でも私とレッドはそれ以上でもそれ以下でもないのだ。
だって姉妹だから。家族だから。次々と興味を移していく弟を縛り付けて置く術を私は持たない。彼もきっと私達を産み落とした両親と同じように本当の家族以上に大切な人を見つけて、いつかはその人と家族になる。それが種の繁栄というものだから、何も不自然なことではない。だけど少し、輪郭すらもはっきりとしない未来のお嫁さんに対して嫉妬の情をくすぶらせているのもまた事実。
抱きしめ合って、手を繋いで、一緒に寝て、朝を迎えて、食事も生活も共有して。これだけ新婚ごっこに勤しんでみても、結局のところ私達は姉弟だから、家族だから。本当の意味で繋がり合って通じ合って――愛し合うことはできないのだ。それが寂しく思えて、悲しく目頭を熱くさせる。
神様は意地悪だ、と少女漫画の主人公さながらに夜空に泣き言を溶かしてみようか。嗚呼、だけど。神様が恵んでくださった小さな慈悲なのだと姉弟でお揃いの楽天思考でひっくり返してみるのが一番性にあっている。
明るく無邪気で人畜無害、年頃の少女を赤面させるような一言を愛らしい微笑みからぶっ放しておきながら、当人は無自覚。なんていう、私の最愛の弟は人を狂おしいほど掻き立てるような、そんな魔の魅了性を秘めている。
誰より彼の傍に居て、誰より彼を知っている。そんな私が彼の姉でなかったら、彼が弟ではなかったら。きっと彼が、私にとっての守るべき愛しい対象でなかったら、私は、恋をしてしまっていただろうから。

だからこれが正解なんだね。


2017/01/07


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