図鑑所有者の妹

レッド姉+マサラ組

マサラは真っ白、始まりの色。原点にして終着点、そしてまた、旅人を見送る、そんな素敵な色。
耳を貸すのは抜けるような蒼穹を舞い踊る風の歌。燦々と注がれる陽光が彩られる田舎町は様々な色の交錯点で、純な白の中に赤、緑、青と確かな鮮やかさを映していた。

「本当に、行っちゃうの……?」

少女が問うた少年の背中はいっそ残酷な程に通る声音でうん、と喉を鳴らした。
赤いジャケットをはたく風はまるで彼のよう。悪戯っ子のように人の髪を撫で頬をくすぐり、後ろから優しく抱き締める。だけどいざこちらが振り返るともうそこにはいない、少年は気まぐれに切ない風そのものだ。
そんな顔すんなよ、と。額で散らばるお揃いの黒髪をグローブに包まれた手が払った。

「仕方ないだろ、挑戦は受けないと。オレもチャンピオンなんだし」
「でも、」
「大丈夫。ちゃんと帰って来るって」
「うん」
「オレが今まで約束破ったこと、あったか?」
「な、無い」
「だろ?」
「けどっ、やっぱり心配だよっ」

うるうると揺れる水膜が双眸の赤色を反射して、目尻に乗る雫はまるで小粒の宝石だ。ほろり、堪えきれずに零されると赤い色は消えてしまって、透明な涙が数的足元を濡らすだけ。
何だか目の前の彼が居なくなってしまったみたいで、消えた赤を寂しく思った。

「あーあー、泣くなよ。昔っから変わんねーなぁ。そろそろ直せよ?」
「ご、ごめ、そんなつもりじゃ――」

「……ほんっっとにもうっ、いい加減にしなさない、あんた達!」

ついに場にぶち込まれたブルーの言葉。
ブルーと共に事の行く先を傍観していたグリーンによる「落ち着け、ブルー」という声がけも虚しく、彼女は不満をぶちまけた。

「無理でしょ、こんなの見せつけられて! 平気でいられるわけないじゃない! あんたもなんか言いなさい、グリーン! レッドとなまえは何なの付き合ってんの!? 姉弟で!? 馬鹿じゃないの距離感おかしいわよ!!」
「別にこれくらい普通だろ? きょーだいだし」
「アタシとシルバーでもそんなんじゃないわよ! てか異常だから言ってんの!」
「ブルーはきっと嫉妬してるんだね。大丈夫、ブルーもちゃんと正面からシルバーに大好きって言えるようになるよ」
「そうじゃないっ!!」

「レッド、今だ、行け」
「お、おう。サンキュー、グリーン」
「ま、待ってレッドっ」
「姉貴?」
「これ、レッドのために作ったんだ。お弁当。後で食べて?」
「えっ、マジ? わー、中身なんだろ」
「ふふっ、レッドの好きな物だよ」
「……お前ら……」
「どうしたんだグリーン? 顔怖いぞ」
「本当。眉間に皺よっちゃってるよ」
「いい加減にしろ」


2016/12/15


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