図鑑所有者の妹

ルビーの妹+エメラルド

いけ好かないやつ、という紅眼の男への印象はやはりその妹にも当てはまった。

「さすがはなまえ! ボクに似て賢明だね」
「いや〜別にそんなこと……あるかな!」

AHAHAHAHA!! と声を揃えて高笑いする馬鹿共を一瞥し、嘆息と共にオレは肩を竦めた。良くやるよ、ほんと。
長過ぎたやさぐれ期間で培われてしまった、捻くれた思考は小さな努力を繰り返すくらいでは到底リセットすることは不可能で。素直になる術を持たないオレは見た目に違わず子供っぽい。

「男の癖にコンテストだの美しさだの、ってお前は思わないわけ?」

何と無く投げかけた問いにこちらを振り返ったなまえは、こてんと首を傾けて言い放つ。「思わないよ」と。

「さすがにこっちに転身しようって兄さんの発想には驚いたけどね」

この兄妹について、オレは時々わからない。
たった二人しかいない閉ざされた世界で互いに寄りかかり過ぎているようにも思えるし、どこか他人行儀なようにも見える。
生まれた頃から知っている家族だって言うのに、一緒にいる割には居心地悪そうにしていて。嫌なら離れてしまえばいいじゃないか。

「兄さんも悪い人じゃないんだ。かわいい子の前じゃあんなだらしない顔をしているけどさ、ちゃんとポケモンを愛せる人なんだよ」

あの旅で大分変わったしね。いや、元に戻りつつあるって言った方がいいのかな。
どこか物悲しげななまえの微笑が何を思って顔に滲んでいるものなのか、他人のことなどわからないし理解しようとも思わない。
ただ違うんだ、と。あいつとこいつは正直のところ瓜二つだけど、それでも全く違っているんだ、と。
美こそ全てとでも言い出しそうな兄をそっくりそのまま写したような妹だと思っていた。そんな風に勝手に作ったイメージを見事に覆されてしまっただけ。
知った被っているというだけでこいつのことを何も知らない自分自身が、何故だか酷く疎ましい。


2016/12/02


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