図鑑所有者の妹

シルバーの妹+ゴールド


ソイツを一目見た瞬間、血の繋がりというのもを感じ取った。
もちろん、自分とのものではない。
緋色の髪に、銀の瞳。オレが勝手にライバル認定して追いかけ続ける不思議な奴を彷彿させる容貌が、強くオレの意識の隅に引っかかってしまったのだ。
旅立ちを後押しするきっかけとなったに一度似てると考えてしまえば、もうそこから視線を外すことなんてできやしない。頭の中で憎たらしく微笑するシルバーと目の前の緋髪の女が重なって見える。
かわいい。胸中に素直な感想が沸き上がり、いかんいかんとかぶりを振った。あいつによく似た女を綺麗と認めてしまったら、あいつ当人の容姿についても認めてしまうことになる。それだけは絶対に許せない。
というか、もし仮にあの女とシルバーの間に血縁ではなくとも接点があるのなら、早いところ聞き出してしまわないと。そう思って踏み出す。
声を掛けようとして、だが途中でどう言葉を投げかけていいかわからなくなった。
女の子にかけてやる言葉なんて幾らでも知っている癖に、本当に大事な局面では何一つ役に立ちやしないのだ。
ぎり、と苛々に任せて強く歯噛みしたオレは、もうどうにでもなれ、と大雑把に口説き文句を投じていた。

「よぉ、そこのギャル。一人でこんなとこ来てどうしたんだ?」

きらきらした白銀の双眸がこちらへ向けられて、オレの眼とかち合って。小ぶりな唇から何か言葉が紡がれることはなく、かわいらしい無表情のまま女の子はぱちくり瞳を瞬かせるだけだった。
つまるところ相手からの返答はなく、場に会話は生まれない。
…………えぇ……。
とんでもなく面倒くさい不思議系ギャルに声をかけてしまったらしい。

「見たとこ一人? だよな?」
「……違うよ」

違う、と言われても。周りを見渡しても人はいないし、ポケモンを持っているようには見えないし。なんだこの子、天然か。電波なのか。

「あの人と一緒だから。一人じゃない」

す、と白い指先が指したのは上。否、空だった。
地面に影が落とされる。示され仰いだ頭上から、鳥の羽ばたく音が降ってくる。
力強く光る双眸は、銀。逆光でより影に染まる、夜闇でそのまま染め上げたような漆黒の翼を広げた少年――という視界に入れてすぐの錯覚に囚われることなく、オレの脳はその正体をヤミカラスに掴まるライバルであると認識した。

「ああっ!?」
「む……」

羽音で空気を揺らしながら着地を決めた赤髪銀眼の持ち主の正体を悟るまで、きっと数舜もかからなかった。少なくとも好いていない相手なだけに気に食わない。

「シルバー、なんでここに!?」
「兄さんおかえり、どうだった?」
「この辺りでは何も気になる部分はなかったな」
「おい聞け……って、兄さんだとぉ!?」
「……それがどうした」
「いやお前に妹いたとか初耳なんですけど、オレ!?」
「言っていないのだから当然だ。話す必要もない」
「こんなかわいい子ちゃんだぜ!? 紹介しろよ! 今からでも遅くねぇ! オレ、ゴールドっつーんだ。あんたは?」
「……」
「……なまえだ」
「っんでお前が自己紹介してんだシルバァアアっ!?」


結局出会えば大喧嘩


2016/11/04


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