彗星症候群

瞳も震える冬の朝

空気が冷たい。掛け布団からはみ出す肩は肌寒く、ひんやりとした自身の長髪が顔にかかってベッドの上でプラチナは覚醒する。
身を切るような寒さは真冬の証。フローリングの床に素足を乗せると伝わる温度に目が冴えた。濃紺のカーテンが陽光を遮断した薄暗い室内を、寝起きでおぼつかない足取りで踏みしめ進んでいくと、彼女は勢いよくカーテンをあける。
眩しいくらいに視界に溢れる純白の光が、太陽のせいだけではないことを、景色を目に入れ、彼女はようやく悟ったらしい。霜の降りた窓ガラスを挟んで見えるのは、ベルリッツ家の広大な私有地。しかし見慣れたそこが昨日と全く違って見えるのは一面が毛布に覆われたように何もない、そこが銀世界だったから。

――いや、何もないと言い切るにはその時点では大分早過ぎた。
純白の敷き詰められた地面に点々と残された数々の足跡を、確信を帯びながらも慎重に視線で辿っていって。
見つけた先では幼子のようにはしゃいで走り回る、三つの小さな影があり、その正体はすぐにわかった。共にシンオウ地方の旅路を歩んだ友人たちが身に着けているのは、マフラー、耳当て、ウールのコート。寒さ対策は万全といった格好の三人だが、着込むあまりどこかふっくらとしたシルエットに笑えてしまう。
雪だるまづくりに、雪合戦。そり滑り。
すてき、羨ましい。なんて思いながら、プラチナが窓の鍵を開けて押し開くと。がちゃり、という開閉音で気付いたらしく彼らは雪遊びに専念していた手を止めて、こちらを振り向きにっこり笑顔で大きく手を振ってきた。

「お嬢さま〜! お嬢さまもこっち来て雪だるま作ろ〜〜!」
「そうだぞー せっかくこんな積もったのに寝坊なんてもったいないぜ、お嬢さん!」
「葉っぱとか枯れる前に降ったから雪うさぎも作れるみたいです、お嬢!」

ダイヤモンドの間延びした口調。せかせかと捲し立てるようなパールの声。それから良く通るなまえの声が明るく響く。

「はい、今行きます!」

白金の瞳を楽しげに細めて。ダッフルコートを引っ張って、大層な足音を立てながらプラチナは外へ飛び出した。



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