彗星症候群

せかいのおわりを告げる鐘

※原作第13章(ORAS編)、ネタバレ注意。



――なぁ、もしも明日世界が終わるっていうなら、お前はどうしたい?

唐突に投げつけた現実味のない質問が、これから数日と経たないうちにこの地方に降りかかる現実の災いとなるだなんて、きっと彼女は夢にも思わない。

「どうしたの? いきなり」

目を丸く、大きく見開かせながら、彼女は笑った。きれいに、無邪気に、美しく。満天の星空を映した瞳に煌めく星々。遥か頭上には壮大な天の川。
言えないよ。もう会えないなんて、この世界がなくなるなんて、君もオレ自身も成す術なく消えてしまう運命にあるなんて。そんなの……嫌だ。
答えあぐねていると仄かに顔を赤らめながら隣のなまえが口火を切った。

「じゃあ、抱きしめて」
「うん」

なまえを引き寄せ背に回した腕で抱きしめる。この時ほど自分の小さな手を呪うことはない。もっと大きければ、強ければ彼女を守ることも出来ただろうに。自分で自分が情けない。

「もっと。ぎゅーって」
「うん」
「一緒にいれたらいい」
「…うん」

身を委ねてくるなまえを愛しく思う。
この時間が永遠のものとして続いてくれたら、オレはどんなに幸せだろうか。

「さっきからエメラルド、“うん”しか言ってないよー」
「ん…。ごめん」

世界が終わる、その瞬間。最期まで何ひとつとして知らなかった少女の笑顔を自分一人が特等席で見届けることができるなら、それでもいいとも思ってしまう。



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