彗星症候群

ほころぶ花弁は光をまとって

ぽかぽかと春らしい陽が差す日。
ふよふよと宙を漂いながら庭で水撒きをする彼女を手伝うポワルン、POPO。幼い頃に作ったてるてる坊主によく似た小さなシルエットは、そのポケモンの性質上、シャワー水の飛沫の中で雫状に揺れているように思える。
楽しそうな笑い声。水の粒が宝石のように花と世界を彩って。

「……綺麗だなぁ……」

そう呟くと、振り向くなまえが笑って答えた。

「でしょ?」

その笑顔。左手に溢れさせたスイートピーの花をPOPOの頭に飾ってあげる、優しい笑顔。仕草。
ボクが上げた花の種が育って咲いたから見に来てほしい。彼女からの連絡を受けてボクはここにいるけれど、花を見に来るなんて建前で理由は彼女に会いたかったから。
会おうと思えば会える距離だが、自分から何か約束を取り付けるのは恥ずかしい。
別に特別会いたいわけではないけど、君がどうしてもと言うのなら。意地っ張りな自分の中に住み着く天邪鬼は、強くは出れないなまえの優しさに甘えて遠慮なしな言葉を投げつけた。
そのとき受話器の向こうで彼女を傷つけていたかもしれない、そう思うと少しだけだが不安になる。

「あぁ。ベリーキュートだ」
「この子はかしこいんじゃなくて?」
「POPOはね」

きょとんと首を傾ける表情が、かわいらしくて思わず目を逸らしたくなってしまうけれど、視界から外してしまうのが勿体なくて。

「かわいいのはなまえだよ」

真っ直ぐ目を見て笑ってやれば、面白いくらいに染まり上がる照れ顔が5秒とかからず出来上がった。



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