彗星症候群

花で作った婚約指輪

満面の笑みで駆け寄ってくるなまえの頭には、薄い桃色の花冠が咲いていた。

「みてみてっ、グリーン! かわいいでしょー?」
「じぶんで作ったのか?」
「うん!」
「へぇ、なんかお姫さまみたいだな」

ぼそりと零したそれは自分の中ではなんてことない一言だったが、「お姫さま!?」と目を輝かせる彼女にとってはきっと一番の褒め言葉であったに違いない。

「じゃあ、これっ!」

無邪気な声と共にパステルカラーが散りばめられた小花の輪が自身の首に飾られた。少しだけ驚いて、花の首飾りとなまえ本人とを交互に見比べる。

「これで、お姫さまと王子さまだね」

ふわりと頬を撫でていくのは春の風。甘い香りが鼻をくすぐり、彼女の笑顔が強く心を揺さぶるようで、なんだろう変な感じだ。

「…なら」

どうしてこうも鼓動が加速しているのだろう。どうしてこうも顔が熱いのだろう。
わからない。きみの笑顔を見ているから? それとも別な理由がどこかに隠されているのだろうか。

「お姫さまと王子さまなら、おおきくなっても、あの…。おれと、ずっと――……」

***

ばしゃん、と派手な水音がトキワジムの控え室中に響いた。驚きに目を見張るなまえが見たのは、コーヒーを頭からかぶった状態で硬直するグリーンの姿だ。

「え、なに……グリーン? いきなりどうしたの?」
「………いやちょっと、白昼夢を見た……」
「顔やばいよ、大丈夫!?」
「恥ずかしいことって不意に思い出すんだな…」
「本当に平気!? なにがあったの!?」



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