主人のご機嫌、犬次第

「…………………。」

「…………………。」

「…………………ご、ごめんなさい。」

「……………なにがだ。」

「…………………。」

「…………………。」

「…………………わ、わかりません…」

「…………………。」


出直してこい、とでも言うように、ローは大きな溜め息をつくと、その長い足を組み替えた。


そんなローの足元で、正座をさせられている私。


そして、そんな私たちをハラハラしながら遠目に見守るクルーたち。


そうです。


我がハートの海賊団、船長兼私の幼なじみは、ただいまご立腹中なのです。


…………………なぜ。


「……………まだわかんねェか。」

「う、ご、ごめん…」

「胸に手ェ当てて、おまえの今日の行動を思い返してみろ。」

「き、今日の行動…」


ローにギロリと睨まれながら、私は今日一日を振り返る。


今は春島を航海中ということもあって、ぽかぽかとした居心地のいい気候だった。


めずらしく敵船に出くわすこともなく、みんな退屈そうにしながらも各々のんびりとした時間を楽しんでいた。


私ももちろんその一人。


特になにか変わったことをした憶えは…


うんうんと考え込んでいると、ローがぼそりと呟くようにヒントをくれる。


「おまえ、今日の昼なにしてた。」

「お、お昼?」


お昼はたしか…


ご飯を食べた後にベポと一緒にお昼寝して…


目が覚めたらなんか小腹が空いたなって思ったから、シャチくんとおやつ食べて…


それからそれから…


…………………なんかしたっけ?


「……………なんか読んでただろ、おまえ。」


なかなか思い出さない私に苛立ちが増したのか、ローは小さく舌打ちをして、また足を組み替えた。


足を組み替えるたびに私のカオに当たりそうになって怖い。


「よ、読んで……………あ!」


そういえば…!


空を見上げてたら、ちょうどニュースクーが見えてきて…


「は、はい!新聞読んでました!」

「…………………。」


挙手をしてそう発言すると、ローは、やっと気付いたか、とでもいうように小さく偉そうに頷く。


いや、船長だから偉いんだけど。


あれ、でもたしか新聞は、「おまえは活字10秒以上読めねェだろ」っていうローの失礼極まりない言葉と一緒に持ち去られたような…


「おれが持ってったのは新聞だけだ。」

「へ?あ、た、たしかに…」

「おまえの手元に残ったもんがあるはずだ。」

「の、残ったものって…………………あ!」


も、もしかして…!


「てっ、手配書!」

「……………やっとわかったか。」


ローが、呆れたように小さく溜め息をつく。


そうだそうだ、思い出した!


新聞をローに持っていかれちゃったから手持ちぶさたになっちゃって、手配書をずっと見てたんだった!


………………………。


………………………。


…………………で?


「で?じゃねェよ。」

「さ、さっきから思ってたんだけど、なんで心の声が聞こえ、」

「なぜ『あの』手配書をずっと見てた。」

「…………………へ?」


あ、『あの』手配書?


……………って、どれ?


「……………これだ。」


そのローの言葉と一緒に、ひらりと落ちてきた一枚の紙を拾う。


……………そこには、


少し変わった緑色の髪と、眼光鋭い目。


その懸賞金の額は、6,000万ベリー。


たしかに、この手配書には見覚えがあるけど…


「そ、そんなにずっと見てたかな…」

「見てた。他のは流し見だったくせに、これだけ食い入るように見てただろうが。」

「そ、そうだったっけ…」


たしかに、他の人よりも惹かれるものがあって、多少眺めてる時間は長かったかもしれないけど…


「惹かれた……………だと?」


ピクリ、ローの眉が大げさに上がる。


「だ、だから心の声読まないで、」

「コイツのどこに惹かれたって?」

「い、いや、それは、」

「言え。」


い、言えって…


そんな大したことじゃないんだけど…


「い、いや、た、ただ、……………カッコいいなって思って。」

「…………………はァ?」


私のその言葉に、ローの眉は本日一番の寄りを見せた。


ひいっ、こっ、こわい…!


「どこがだよ。言ってみろ。」

「そっ、そんなに怒ることかな、」

「聞かれたことにさっさと答えろ。」


その言葉と共に、ローはまた私のカオぎりぎりのところで足を組み替える。


ここまできてやっと気付いた。


わざとやってる、絶対。


「い、いや、な、なんとなく……………刺々しくてゴツゴツしてて、」

「…………………。」

「お、男らしいっていうか、」

「…………………。」

「お、女の人って、結構そういうのに憧れ、」

「てめェ…」

「!!」


ゆらり、ゆっくりと立ち上がって、ローは私を見下ろした。


額に青筋が何本も走っていて、私の身体はびくりと揺れる。


「ロっ、ロー、カっ、カオこわっ、いっ、いい男が台無しだよ、」

「黙れ犬。てめェにはだれが主人か分からせる必要があるなァ?あァ?」


藍色の瞳をギラリと光らせて、ローは私を睨み付けた。


かっ、仮にも幼なじみに犬って…!


「ひっ、ひどいよロー、いっ、犬だなんて、」

「うるせェ。おまえは少し目ェ離すとすぐにふらふらふらふら…」

「わ、私がいつふらふらしたの、」

「まさかてめェ、麦わら屋んとこに行きてェとかぬかすつもりじゃねェだろうな。」

「なっ、なんでそうなるのっ、」

「チッ…おい、ベポ。首輪買ってこい。***の首に回る大きさのやつだ。」

「えええええっ!?」


遠くで私を見守ってくれていたベポとその叫び声がかぶる。


「まっ、またまたそんなっ、」

「鎖も忘れんなよ、ベポ。一番太いやつだ。」

「ちっ、ちょっとまっ、」

「うるせェ、口答えすんな。おまえはもうおれから1メートル以上離さねェ。」

「なっ、そっ、そんなのっ、」


すごくいいっ…!


…………………じゃなくて!


「お、落ち着いてロー、ど、どうしてピアスを褒めただけでそうなるの、」

「だからおまえが麦わら屋んとこの…………………………あ?ピアス?」


しばらくの沈黙の後、ローが目をまるくしながらすっとんきょうな声を上げた。


「う、うん、ほらこれ…」


そう言って、私は手配書の男性の耳たぶにぶら下がったピアスを指さした。


「さ、三連のピアスなんてめずらしくてカッコいいなと思って…」

「…………………。」

「お、女の子はなかなかこういうのしないから憧れるんだよね…」

「…………………。」

「……………あ、あれ?ロー?」

「…………………紛らわしいんだよ、おまえは。」


そう呟きながら、ローは大きく溜め息をつく。


「普通ピアスの話してるなんて思わねェだろうが。」

「えっ、……………あっ…!そっ、そっか、たしかに、」

「着眼点がずれてんだよ、おまえは。」

「い、いや、た、たしかに本人もカッコいいけど、」

「…………………ベポ、やっぱり首輪買ってこい。」

「わあああああ!!うっ、うそですうそです!!」


慌てて叫ぶようにそう否定した後、私はぼそぼそと呟くように続ける。


「そ、それに、あ、あの、……………ロ、ローの方が…」

「あァ?」

「い、いや、だから、」


そろりとローを見上げて、小さめに言った。


「ロ、…………………ローの方が、カッコいいよ…」

「…………………。」

「…………………。」

「…………………。」

「…………………あ、あの、」

「…………………。」

「…………………やっ、やっぱり今のなし、」

「***。」


私の名前を呼ぶと、ローはスタスタと長い足で歩き出す。


「飯食いに行くぞ。今日は特別、コックにおまえの好きなもんだけ作らせてやる。」

「えっ、ほっ、本当!?」

「あァ。だから犬らしく尻尾振って着いてこい。」

「はい!」


なんかよくわからないけど、ローの機嫌も直ったし好きなご飯は食べられるし…


私ってやっぱりしあわせものだなぁ。えへへ。


そんなことを思いながら、大きな背中の後を追った。


主人のご機嫌、次第


わあ!この50ベリーの子かわいい!


***…おれよりそのたぬきのほうが好きなんだね…


わあああ!!ちっ、ちがうよベポ!!そういうんじゃなくて…!!(もう手配書見るのやめよう。)


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