探しものは意外と近くにあるものです。
「***はどこだ。」
突然、シャチの部屋のドアが乱暴に開かれた。
乱暴に、という時点で、犯人はわかりきっている。
「しっ、知らないっすよ!おれの部屋にはあれ以来きてないですから!……………***いないんですか?」
「どこにもいねェ。」
「ふ、風呂とか…」
「いなかった。」
「覗いたんすか…」
アイツどこ行きやがった、と呟きながら、キョロキョロと船を見回している。
その表情に、いつもの落ち着きはない。
そんな様子の我が船長に、シャチは内心溜め息をついた。
***だって子どもじゃない。
落ち着いて探せば必ずどこかにはいるはずだ。
***のことになるとすぐこれだからな、船長は…
「いませんね。」
そのとき、ペンギンがひょっこりと現れた。
どうやら***を探すのに付き合わされているらしい。
「まさかとは思いますが…さっき停泊した街に置いてきてしまったんでしょうか。」
「そんなわけねェだろ。」
「でもたしかに今回は海軍に追われてバタバタしてたしな…」
「いくらアイツでも乗りおくれるなんてヘマしねェよ。」
「さすがにそれはないか…」
3人で唸りながら頭をひねる。
そのとき、ペンギンがとんでもないことを口にした。
「もし……………もし、***が故意に街にのこったとしたら…」
「……………あァ?」
「はァ?そんなわけねェだろ!なんで***がそんなことするんだよ!」
「思い出してください。今日街で買い出ししていたときのことを…」
出航4時間前―…‥
「あっ!かわいい!」
突然、***がショーウィンドウに飾られたワンピースに目を奪われた。
***が惹かれるにしては少しめずらしく、丈の短いワンピースだった。
「たしかにかわいいが…***には少し派手じゃないか?」
「そ、そうですか?ペンギンさん…」
「そうそう!おまえにはツナギで充分だって!」
「うう…ひ、ひどいシャチくん…」
うちひしがれたように、***が深く項垂れる。
「そ、そんなに似合わないかな…ロー…」
「あァ?……………似合わねェな。」
似合わなくはない。
正直そう思ったが、いかんせん、丈が短すぎる。
***が露出することを極端に嫌うローは、さらに***の心をワンピースから遠ざけるためにこう続けた。
「こういうのはああいう女が着るようにつくられてんだよ。」
そう言って、少し離れたところにいるスタイルの良いカオの整った女に視線を泳がせた。
「…………………。」
「おら、わかったらさっさと行くぞ。」
「…………………うん。」
***は俯きながら、トボトボとローのあとをついていった。
…‥―
「あの船長の言い方はひどかった…」
「そう言われてみれば…***、傷ついたカオしてたな…」
「……………ふざけんな。おまえらだって散々言ってたじゃねェか。」
「おれは似合わないとは言ってません。」
「それに他の女と比べるっていうのはちょっと…」
「…………………。」
ふたりのその糾弾に、ローは罰が悪そうに視線をそらした。
「……………あっ!!そっ…!!そういえばっ…!!」
「なんだシャチいきなり…」
突然、なにかを思い出したように叫びだしたシャチに、ペンギンとローは眉をしかめる。
「***、今日街で男に声掛けられてました!!」
「男に?」
「……………いつだ、シャチ。」
『男』という単語に、ローの眉間のしわはますます中心に寄せられる。
「ほらっ!***途中でトイレにいったじゃないですか!」
「あァ…おれと船長がやたらしつこいナンパにつかまってたときか。」
「そうそう!そのあとトイレから出てきた***に…」
「声を掛けた男がいたというわけか…」
「それと***がいねェこととなんの繋がりがあんだよ。」
「そ……………それが…」
シャチはなぜか言いにくそうにモゴモゴと口をつぐむ。
「***…その男に『かわいらしいお嬢さんだ。』って言われて…うれしそうにカオを真っ赤にしてました…」
「…………………。」
「…………………。」
「…………………。」
「……………なぜ黙る。」
「船長こそ…」
「もしかして***…その男にホレたのかな…おれらが冷たくしたから…その男のやさしさにほだされて…」
シャチがそう言い終わったのと同時に、ローが突然クルリと向きをかえて歩きだした。
「せ、船長っ…!どこに、」
「街へ戻る。」
「えぇっ!?いっ、いまからですか!?」
「わかりました。」
「ペンギンっ…!!おまえまでなに言ってんだっ…!!それにあの街には海軍がっ…!!せめて夜が明けてからにっ…!!」
シャチの制止もむなしく、二人はスタスタと歩みを進めている。
「ったく……………少しはひとの話を…………………ん?」
そういえば…
「船長!!ペンギン!!」
シャチの脳裏にある考えが浮かんだ。
「なんだよ、うるせェな。」
「シャチ、さっさとおまえも用意し」
「今日の見張りってだれすか!?」
ペンギンのことばをさえぎって、シャチはおもむろにそう問い掛けた。
「見張り?……………今日は***じゃねェぞ。」
「たしか…ベポだったはずだな、今日は。」
「やっぱり!!」
シャチはそれを聞くと、一目散に走りだす。
二人は頭にハテナマークを浮かべながら、そのあとに続いた。
―…‥
「今日は星が綺麗だねぇ、ベポ。」
「そうだねぇ、***。」
「あっ!ベポ!流れ星だよ!」
「ほんと!?どこどこ!?」
「……………あ、もうなくなっちゃった…」
「そ、そっか…」
「げ、元気だしてベポ!そうだ!また見つけたら、私ベポのおねがいごとするよ!」
「ほんと!?いいの!?***!!」
「うん!いいよいいよ!じゃあベポのおねがいごと教えて?」
「あのねぇ…」
すると、ベポは***の耳に口を寄せた。
二人できゃっきゃきゃっきゃとはしゃぎながら、楽しそうに笑っている。
「…………………。」
「…………………。」
「…………………。」
「……………フツウ探しませんか。……………見張り台も。」
「…………………今日の見張りはアイツじゃねェ。」
「すっかり見逃してましたね…」
……………勘弁してくれ。
シャチは大きく項垂れた。
***は、ベポが見張りのときは必ずといっていいほど一緒に見張りをする。
ベポが大好きな***にとって、ローに邪魔されずにゆっくりベポと過ごせる唯一の時間だからだ。
「***、そういえば今日街で男のひとに声掛けられてなかった?」
「えっ…!みっ、見てたの?ベポ…」
ベポのそのことばに、***はあきらかな動揺を見せた。
「うん。おれも***に声掛けようと思ってたから…なんだったの?あのひと。」
「そっ、それは…」
なぜか言いにくそうにモゴモゴと口ごもる。
「ロ、ローに言わない?」
「うん!おれと***のヒミツね!」
「じ、じつは…」
『口説かれて、恋しちゃったの。』
そうとでも言おうものなら、すぐに街へ引きかえしてその男を八つ裂きにする。
ローの脳裏にそんなどす黒い思惑がうごめいた。
「ズ……………ズボンのチャック…」
「え?」
「トイレから出て………ズボンのチャック閉め忘れてたみたいで…」
「…………………。」
「…………………。」
「…………………。」
「なぁんだ、そうだったんだ!親切なひとだったんだね!」
「うん…私もう恥ずかしくて恥ずかしくて…」
カオを赤くしてたのは、羞恥心から。
ローはそう悟ると、大きく溜め息をついた。
「……………寝ますか。」
「……………そうだな。船長、行きましょう。」
「……………あァ。」
なんだかどっと疲れた。
3人の表情は、まさにそれをもの語っていた。
探しものは意外と近くにあるものです。
……………***、上陸したら服買ってやる。
い、いいの?ありがとう、ロー!
船長…おれらが言ったこと…
あァ、気にしてるな。[ 4/68 ][*prev] [next#]
[mokuji]
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