愛をください

「ええ? 男を紹介してほしい?」


 ナミが眉を怪訝に寄せながら、そう素っ頓狂な声を上げる。


 私は至って真面目なカオで、大きく深く頷いた。


「……何言ってんのよ、アンタ」


 小さくため息をついて去って行こうとするナミを、私は慌てて追い掛けた。


「そんなこと言わないでさー! ナミにしかこんなこと頼めないんだって!」

「だからって……私にそんなこと言われてもねェ」


 困ったように悩ましげな表情をしたナミにうっかり見とれながらも、必死な思いで拝み倒す。


「ナミなら合コンにたっくさん参加してるし(ご飯がタダで食べられるから)、連絡先も交換してるでしょ?(またオゴってもらうために)」

「その副音声が気になるけど、まァ否定はしないわ」

「そんなナミ様にぜひともイケてるメンズを紹介してほしいの!」


 おねがいおねがいおねがいおねがいとしつこく食い下がると、とうとうナミはあきらめたように大きく息をついた。


「わかったわよォ」

「ほんとっ? ありがとー! ナミ大好き!」

「言っとくけど、仲介料は高くつくわよ」

「うっ、や、やっぱり。心得ております」

「よろしい」


 そう偉そうに頷いてみせると、ナミは携帯電話を取り出した。


 ああ、その小さな機械の中にいくつの素敵な出会いが潜んでいますことやら……。


 操作するナミの指先をうっとりとした視線で見つめていると、ふとナミがこんなことを尋ねてきた。


「で? なにがあったの?」

「へ? な、なにが?」


 逆にそう訊き返すと、ナミはいたずらっ子のようなカオでにんまりと笑う。


「幼なじみくんとなにかあったんでしょー?」

「なっ……! なっ、なにも?」

「嘘ばっかり」

「べ、別に嘘じゃ……」

「アンタが男紹介してほしいなんて、初めてじゃない」

「……」


 目線を横にずらしながら唇を尖らせる私を、ナミは楽しそうに覗いてくる。


「暖かくなってきたし、ただ恋でもしたいなあって思っただけだもん。……出会いもなかなかないし」

「ふうん?」


 相変わらずのにんまり顔をジトッと一睨みすれば、ナミは肩を竦めて言った。


「まァ、そういうことなら協力するわよ」


 それと同時に自分の携帯電話が震え出したのでその中身を見ると、男性の名前と電話番号、アドレスだけの本文がお目見えする。


「私のイチオシよ」

「ほっ、ほんと?」

「えェ、自信を持ってオススメするわ」

「ありがとうナミ様!」


 こうして私は、見知らぬ素敵な男性とのラブロマンスを夢見て、その人と連絡を取り始めた。





 ……ああ。


 緊張する……


 それから十日後。


 私はとあるレストランで一人、期待に胸を膨らませていた。


「どんな人なんだろう……」


 メールの感じだと、紳士系? スーツをこう、パリッと着こなしたような……


 それか、スポーツが好きだって言ってたから、爽やか系かな?


 ああ、楽しみ! 早く会いたい!


 そわそわと落ち着きのない身体を持て余しながら、私は今か今かとその運命の人(になるであろう人)を待ち続けた。


「おまたせ」

「……!」


 来た!


 後方から聞こえてきたその声に、私は期待と共に勢いよく振り向いた、


 ……が、


「どうも、はじめまして」

「あ、は、はじめまして……」


 パーカーにジーパン。ポッチャリとした体型。


 お、おや? メールのイメージと全然違う。


 ホリエモ○?


「? どうかしましたか?」

「あ、い、いえいえ……! すみません」


 ついまじまじと見つめていたら、訝しげな目で見られてしまった。


 そ、そうか。こんな感じか。


 ナミがイチオシって言うから、てっきり……。


 いやいや、待て私。人間、見た目より中身だよ。自分のことを棚に上げて、そんなこと思っちゃダメ。


 そう自分を納得させると、私は思いきり作り笑いを浮かべながら、その男性との時間を過ごした。





「つっかれたー……」


 夜の街を、そんな言葉も引き連れて歩いていく。


 華やかなネオンに染められて浮かれている通行人とは、まるで正反対のカオをしている私。


 すっごい疲れた。あれから延々二時間、自分の自慢話……。


 どこだかの会社の社長の息子だったらしく、口を開けばやれ家柄やら別荘やら海外旅行やらの自慢話。


 ナミの「イチオシ」というのは、どうやらそういう意味合いだったらしい。あの人の話を聞き流しながら、高級な料理やお酒を召し上がっているナミ女王様のお姿が容易に思い浮かぶ。


「はァ、正直見た目もタイプじゃなかったしな……」


 やっぱりなんだかんだ言っても見た目がタイプかどうかって大切だよね、うん。


「エースとルフィレベルに見慣れてると、そりゃ目も肥えてくるか」


 いや、あそこまでカッコイイ人は望んでないんだけど。並んで歩いたらかなり違和感あるし。


 どっかにエースかルフィに似てる人いないかな。


 黒髪でスラッとしてて笑うとかわいくて……


 ほら、あの人なんかイイ感、


「……あら?」


 ふと目を向けた横断歩道の向こう側にいたのは、まさにその本人。兄の方。


「あんなとこで何してんだろ、エース」


 壁に寄り掛かりながら突っ立っているエースに、私は首を傾げる。


 待ち合わせかな? ま、いいや。ちょっと声掛けてみよう。


 ……それにしても。カッコイイな、くそう。


 まるでモデルのようなそのいで立ちに、胸が奇妙な音を立てる。


 それに気付いて大きく首を振りながら、青になった信号を渡りかけた時だった。


「あ」


 エースに走り寄ってきた、一人の女子高生らしき女の子。


 エースがその子に向かって笑ってみせると、女子高生はうれしそうにエースの手を取る。


 仲良く手を繋いで歩いていく二人を見つめながら、私はなぜかぼう然と立ち尽くしてしまった。


「……タレントの次はJKかい」


 ほんと、節操ない子だわ。


 あー、やだやだ!


 でも……今までのタイプと違って、清楚なかわいらしい子だったな。


 本気、なのかな。


 ……。


「よ、よーし! 私も早く素敵な人見つけようっと!」


 訝しげな通行人の目も気にせずそう声を張り上げた後、小さく息をついて自宅までの道をとぼとぼ歩いていった。


をください


 寂しくなんて、ない。


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