恋心は逃走中
最近、***の様子がおかしい。
「よォ、***」
「エエエエエエエエエ、エース!」
「エ多くね」
街をぶらぶらしていたら、ばったり***に出くわした。
声を掛けると、***はかなり慌てて、汗まで噴き出している。
最近、ずっとこんな感じだ。
やっぱり、この前のあれはまずかったか。
『おれがいるから……ずっと』
警戒されたら、今までずっと我慢していた意味がなくなる。
「……今日はうち来てもおれもルフィもいねェからな」
「へ、あ、そうなの? ……エース、どこか出掛けるの?」
***が目をまるくしてエースを見つめる。
くそ、かわいいな。
「あァ、これから、この前知り合ったモデルの女と飲みに行くんだよ」
口の端を上げて、いつものように『どうしようもない幼なじみ』を演じる。
これでいいんだ、おれは。
おれに女として見られてるなんて勘付かれたら、***はいなくなっちまう。
「……」
「……***?」
……あれ。……なんだ?
***が、なぜか深く俯いている。
あれ、ちょっと。どうしよう。
「***、ぐ、具合悪いのか?」
「……」
やっぱり、様子がおかしい。
こりゃ送ってやった方が、
「……エース」
「え?」
カオを上げた***は、
「中出しはダメだからね?」
「おまえは街中で何を口走ってんだ」
いつもの***だ。びっくりさせやがって。
「へいへい、じゃあな」
早く離れないと、離れたくないと思ってるのがバレちまう。
ああ。行きたくねェな。
まさか、こんなとこで***に会うなんて思わねェじゃんよ。
好きな女のカオ見たら、離れたくねェよな、やっぱり。
小さくため息をつきながら歩みを進めていると、
「エース!」
その声に慌てて振り向くと、***がまだそこにいた。
「……なんだよ」
わざと不機嫌な表情をする。ほんとは、うれしくてたまらないくせに。
「あ、あのさ」
「あ、あァ」
……な、なんだ?
***は気まずそうに、俯き加減でもじもじし出した。
え、誰これ。どうしたのこの子。かわいいんですけど。持って帰りたいんですけど。
「エース、あの……この前のって」
「……え?」
その時、
「エースくうん!」
後ろから思いきり、どんっ、と衝撃を受けた。
「おわっ!」
見ると、今夜の相手の女がエースの腰にぎゅうっと抱きついている。
「エースくん遅いよお! もうサッチさんたちもみんな来てるよ!」
「あ、いや、あ、わ、悪い……」
「……」
***が、冷たい視線を向けているのがひしひしと伝わった。
くそっ! なんかいいとこだったのに!
「あー……も、もうちょいしたら行くから」
「いってらっしゃいエース! 避妊はちゃんとするんだよ! 女の子は大切に!」
「あっ、おいっ! ***っ! ちょっと待っ」
***は、手を振りながら去って行った。
……ああ、やっちまった。
細い腕のどこにそんな力があるのか、女にズルズルと力なく連行されていく。
いつまでおれは、こんなふうに逃げるつもりなんだろう。
自分の気持ちに、いつまで嘘がつけるんだろう。
もう、限界なんてとっくの昔に越えているのに。
今だって、***のことで頭がいっぱいなのに。
隣で腕を絡めている女が何かしゃべっているが、エースの耳には届いていない。
『エース、あの……この前のって』
何を、言おうとしたんだろう。
あんなカオ、初めて見た。
それを思い出して、心の中が騒ついた。
恋心は逃走中
おれは、知らなかった。
***が、見えなくなるまでおれの姿を見つめていたことを。[ 4/12 ][*prev] [next#]
[mokuji]
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