もし、センサーが壊れたら

「今日の合コン参加の人ー!」


 仕事終わりの女子更衣室に、そんな招集がかかる。


「はいはいはいはいっ!」


 それに元気よく手を上げて、いち早く答えた。


「あんたはダメよ、***」

「えっ、なっ、なんでっ」

「あんなカッコいい幼なじみがいるんだから、あんたには必要ないでしょ」

「そっ、それとこれとは話が……!」

「とにかく、あんたはダ・メ。イイ男を独り占めしてるバツよ」


 そ、そんな殺生な!


「あらあら、大変ね。モテモテの幼なじみくんをもつと」

「あ、ナミ! ナミも行くの?」


 同僚のナミはオレンジ色のロングヘアが印象的な、社内一かわいい女の子。


 なのだが……。


「もちろんよっ! タダでご飯が食べられるんだからっ! 今日の夕食代が浮くわー!」


 少々、性格に難がある。


「あーあ、せっかく久しぶりの合コンだったのに」

「もうあきらめなさいよ。いいじゃないの幼なじみくんで手を打てば。カオはそこそこいいんだし。お金はなさそうだけど」

「……ダメだよ、エースは幼なじみなんだから」

「別にいいじゃない。タイプじゃないとか?」

「いや、どっちかっていうとタイプだけど」

「じゃあなにがダメなのよ」

「……」


 これは本当によく言われる。


 なんでエースくんと付き合わないのかとか、え、付き合ってんじゃないのとか、付き合えばいいじゃんとか。


 でもそれは、ない。今までもこれからも、エースと私は幼なじみ以上にも以下にもならない。


「だからなんで」

「え、声に出てた?」

「なんとなくよ。で? なんでよ」

「……好きになっちゃダメだから」

「はァ?」

「あのねナミ。私の中には、好きになっちゃダメセンサーっていうのがあって」

「なによそれ」

「そのセンサーが働くと、自然とその人のことは好きにならないようにできてるの、私は」

「ふうん、例えばどんな人よ」

「結婚してる人とか、友だちの恋人とか」

「あとは?」

「あとは……ずっと一緒にいたい人。とか」

「……バカじゃないの、あんた」

「……」


 だって、幼なじみだったらずっと一緒じゃん。


 恋人とか夫婦になったら、いずれ別れなきゃならない日が来るかもしれないんだよ?


 そんなの耐えられない。


 誰よりも、エースと一緒にいると安心するんだもん。


 あれがなくなるくらいなら、死んだ方がマシだ。


「あんたってめんどくさいのね」

「あ、それよく言われます」

「もし」

「え?」

「もし、そのセンサーが壊れたら……あんたは幼なじみくんのこと、好きになるの?」

「……」


 ……センサーが壊れたら?


 そ、そんなこと、考えたことなかった。さすがナミ。


 ……もし、


 エースが好きになっちゃいけない人じゃなかったら……


 私は、


「あら、噂をすれば」

「え?」


 外に出ると、女性社員の集団に囲まれたエースがいた。


「遅ェよ、バカ」

「……」


 ……人の恋路は邪魔しておいて……


 自分は女に囲まれてるなんて!


「エースくうん、***なんてほっといて、お姉さんたちと遊びに行こうよォ」

「そうそう、***はこれから合コンだから!」


 ええ! さっきは来るなとか言ったくせに! 女って怖い!


「合コン?」


 それを聞いたエースが、これでもかというくらいに眉をしかめる。


 どうやら今日は、ご機嫌ナナメらしい。


 まァ、いいや。これで心置きなく……


「そういうわけだから、エース! 私はこれから素敵な恋をハンティングしに行ってきま」


 ーす! という発音は、頭に落ちてきた鈍い痛みによってかき消された。


「いだだだっ! ちょっ……! なにすんのっ」

「バカかおまえは、行かせるかあほ」


 エースが、大きな手で私の頭を鷲掴みにしている。なぜっ!


「行かせてよエース! 運命の出会いが私を待ってるんだよ!」

「んなもん待ってねェよ。おまえを待ってるのは二日酔いと飲みすぎたことへの後悔だけだ」


 おら行くぞ、と、そのままずるずると連行される。


 ナミが楽しそうに手を振った。





「エースのせいだ」

「あ? なにがだよ」

「わかったんだよ、私に恋人ができないわけが」

「なんでそれがおれのせいなんだよ」

「エースがことごとく邪魔するからじゃん!」


 そうだ! そうだった!


 思い返せばこの前の合コン行けなかったのもエースが今日みたいに妨害したからで、その前の時はこれでもかっていうくらいに合コン中にメールやら電話やらしてくるから気になってしょうがなく対応してたら男の人たちが私には寄りつかなくなって、その前の前も以下略。


「とーにーかーく! 全部エースのせいだ! 私が一生結婚できなくて孤独死したら呪ってやる!」

「おー、こわ」


 そう言いながら、肩を竦めてエースは楽しそうに笑った。


「孤独死はしねェだろ」

「わかんないじゃん。なんかもう恋人とか結婚とかできない気がしてきた」

「いいだろ、できなくても」

「……孤独死はやだ」

「おれがいるだろ」

「……は?」


 驚いてカオをあげると、エースは前を向いたままこう続けた。


「おれがいるから……ずっと」


もし、センサーがれたら


 ドキドキしてるのは、壊れる予兆。


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