境界線を越えるまで、あと
好きな女がいる。
「おう、おかえりエース」
「あ、おかえりエース」
「……なにしてんの」
「ルフィとマンガ読んでたよ」
違う。おれが聞いてんのはそこじゃない。
「……なんで膝枕」
「気持ちいいんだよ、***の太もも柔らかくて」
「ルフィの髪の毛さらさらー。私も気持ちいい」
そう言って、二人でへらへら笑い合う。
生まれて初めて、かわいい弟に殺意が芽生えた。
「……ルフィ、アイス買ってきたぞ。冷凍庫に入ってる」
「ほんとかエース!」
ルフィは案の定、キッチンへとダッシュした。
ルフィが戻る前にと、***の隣をさりげなく陣取る。
「エース、私のアイスは?」
「おまえのはない」
「またまた! ツンデレなんだからエース! ほんとはあるくせに!」
「……」
「……え、ほ、ほんとにないの?」
ほんとにない。
目でそう言うと、***はしょんぼりしながら視線をマンガに戻した。
「やばいよエース、今週の銀ちゃんはいつもに増して粋だよ」
「……」
よく見たらおれのジャンプじゃんそれ。
っていうかおまえ社会人にもなってジャンプで興奮してんじゃねェよ。
確かに今週の銀さんにはおれも痺れたけど。
「銀ちゃんかっこいいなーどっかにいないかなー銀ちゃんみたいな人」
「いない。ウザイ。そしておれのジャンプを返せ」
マンガの中の男にまで嫉妬するおれは、もうかなり重症だと思う。
「……いい男ならいるだろ、まさに今おまえの隣に」
「私の隣には節操なしエロ大魔神様しかいないよ」
「……」
……かわいくねェな、マジで。少しカオ赤らめるとかしろよほんと。
「エロ魔神ってなんだよ、失敬だな」
「いっきに2人も相手にできるなんて魔神の域だよ、もう」
「マルコなんてこの前三人だったぞ」
「ええっ、さすがマルコさん! どうりで神秘的なカオしてると思った!」
どこがだ。ただのパイナップルじゃねェか。
そしてカオは関係ない。
「あーやだよ不純な男は。恋をしなさいよ、恋を」
「……おまえにだけは言われたくない」
「なにおう」
してるよ。
好きだなんて言ったら、逃げちまうくせに。
***がいなくなるなんて、考えただけで頭がおかしくなっちまう。
だからおれは、いつまでもこの幼なじみの境界線を越えられない。
「……おい、ちょっと。なにしてんの」
「なんか眠い」
***はもそもそと這いつくばって、エースのベッドへ移動した。
「ふざけんな。寝るな。帰れ」
ちょ、やめてくれ、マジで。そんなことされたら理性が持たない。
しかもベッドに***の匂いがついて今日の夜眠れなくなる。
「いいじゃんかー。目がもうショボショボだよ。今なら布団入って三秒で眠れる」
言いながら、もうすでにベッドに潜り込んでいる。
「……五分だけだぞ」
「ぐう」
「早っ!」
三秒もかかってねェ!
……ったく、人の気も知らねェで。
……ああ、もう。
寝顔、かわいいな。
キスしてェ。
身体に触りたい。
めちゃくちゃに、抱きてェ。
……。
……マジでやばい。
こうなったらもう、視界に入れないように、
「う、ん……エース」
「……」
境界線を越えるまで、あと
エース! アイスうまかったぞ!
……! ありがとうルフィ!
……なにが?[ 2/12 ][*prev] [next#]
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