肉体疲労時の、栄養補給に
「ここにAの女とBの女がいるとします」
「犯人はAの女で、動機は痴情のもつれだと思います」
じゃあおやすみ、と言って、幼なじみであるエースはまた布団にカオを突っ込んだ。
「違うよエース! 昨日の二時間ドラマの犯人の話じゃないよ!」
確かに観たけど! 不倫浮気三角関係の三拍子揃ったドロドロの内容だったけど! そういえば犯人の名前、エイさんていう女の人だった! すごいよエース! 船越栄一○も真っ青だ!
「ねェエース起きてよー! 話を聞いてよー!」
「うざいめんどくさいお願いします帰ってください」
三十分にも及ぶ攻防は、エースの根負けにより決着がついた。
「ここにAの女とBの女がいるとします」
「……」
「どちらも年齢は同じで、Aの女は美人でスタイル抜群、自由奔放、本能のまま男性と夜を共にするタイプ」
「……」
「Bは見た目フツーで相手をじっくり選ぶ理性的な一途タイプ。さて! そこでエースくんに質問です! じゃ、じゃんっ!」
「うぜェ」
「それぞれに対する印象はっ?」
「……A、チャンスがあればヤりたい。B、ちょっとめんどくさい」
「……」
「……なんだよ」
やっぱりですか。完敗だよコノヤロー。
エースが最後の頼みの綱だったのに。
「わかったよエース、私は明日からAになるよ……」
「は? ……っていうかなんで明日。今日は」
「今日は今までの私とサヨナラする時間だよ……いいでしょ。そのくらい猶予あってもっ……ううっ」
「マジでうざい。なんなの。何があったのおまえ」
聞いてよエース。なぜ私に恋人ができないか考えてみたんだ。だっていくらなんでも時間経ちすぎでしょ? 前の恋人と別れてから。もうかれこれ二年だよ二年。出会いがないわけじゃないのに恋人ができないどころか告白件数ゼロ。ZEROだよZERO。櫻井くんもびっくりだよ。ちょっとZEROってZOROに似てるね。そんなわけで必死になって考えてみたんだよ、できないわけを。
「ZEROのくだりウザイ。で? 原因はなんだよ」
「私は典型的なBなんだよ」
「……だから?」
「エース言ったじゃん。ちょっとめんどくさいって」
「……男がみんなそうとは限らないだろ」
「十人中九人はエースと同じ意見だった。ちなみに一人はサンジくん。サンジくんは優しいからね。空気読めるからねあのお方は」
男なんてみんな一緒だ!
いやーぼくって美人でスタイルいい人って逆にダメなんですよーそれよりも大切なのはハートですよハートぼくは好きだなー***さんみたいな人なんてチョーシいいことぬかしやがってあんのやろおおおおお!
「誰だよ」
「ちょっといいなと思ってた向井理似の社員いるって言ってたじゃん。あのコ」
「……あァ」
「昨日の送迎会で違う部署の美人なボンキュッボンをお持ち帰ってた」
「古くねェか、ボンキュッボンって」
「……」
「……まァ、アレだ。その男がたまたまそういうのが趣味だったんだろ。向井理が。おれがその送迎会に参加してたら絶対おまえだね、おまえを選ぶねおれは」
「エースが昨日美人なボンキュッボン二人両脇に抱えてラブホに入ってくとこ見たよ」
「……」
「いいんだもう。慰めたりとかしないでもう。悪かったねそんなハードな性交の後の大切な睡眠を邪魔して」
「性交っておまえ」
結局そうなんだ。どうせ重いんだよBは。大して美人なわけでもないのにきどってんじゃねーとか思われるんだよ。
そういうんじゃないのにさ。そういう大切なコトは大切な人としたいと思って、何が悪いのさ。
せめて幼なじみであるエースが分かってくれればいいなんて思った私がバカだった。
わかりましたよ。なりますよ。なればいいんでしょAに。
「……おまえなんでそこまでして男ほしいんだよ」
「……頭ぽんぽん」
「ハイ?」
「頭ぽんぽんしてほしいの、疲れてる時とかに」
「……」
あれ、なんですかその目は。
引いてますか、引いてるんですか。
どうせあほですよ。あほみたいな理由ですよどうせ。
でもすごいんだよ頭ぽんぽんは。どんな疲れにも効くからね。栄養ドリンクとかめじゃないから。
男にはわかるまいよこの気持ち。
やーいやーいざまーみろ。
「なに、疲れてんのおまえ」
「仕事がね、やってもやっても終わらないの。追いかけてくるんだよ書類の山が。社会人って大変なんだよエースくん」
「……」
もういい。もう何も言うまい。
帰っておとなしく、栄養ドリンクでも飲むか、
な、と思ったところで、頭に乗せられた大きな暖かい手。
「いつもお疲れさま、***」
そう言ってエースは、ふわりと笑った。
肉体疲労時の、栄養補給に
……栄養ドリンク、お父さんにあげよ。[ 1/12 ][*prev] [next#]
[mokuji]
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