05
「ただいま、シャンクス」
「おう、ラナ! 街は楽しかったか、……!」
船長室に戻ってきたラナの姿を見て、シャンクスは苦い表情を浮かべた。
そんなシャンクスのカオを見て、ラナはくすくすといたずらっ子のように笑う。
「ラナ……また男に抱かれたのか?」
ラナの首筋、胸元に散らばった紅い跡に指を滑らせながら、シャンクスは溜め息交じりでそう問い掛けた。
「だって、したかったんだもん」
「この間も変な男を引っ掛けて、怖い思いしたばっかだろ」
「大丈夫! 今日はちゃんとそういうお店に行ったから」
「店?」
「そう」
ひらり、スカートをはためかせながら、ラナはベッドに腰掛けると、手鏡を出して自分の姿をチェックし始める。
「娼館に行ったの。女用の」
「女用の娼館?」
「あるんだよ! 結構イイ男もいるの」
「……」
「まァ、シャンクス以上の男はいないけどさ……あ、こんなところにも跡ついて」
「ラナ」
ラナの手から手鏡を取り上げて、シャンクスはその隣に座った。
「他の男とは寝るなって、そう言っただろ?」
「……」
「おれだけじゃ足りねェなんて、生意気言うんじゃねェだろうな。あんだけ毎回啼かされといて」
「足りないよ」
「……なに?」
ラナのその一言に、シャンクスは眉を顰めた。
「ぜーんぜん! 足りない!」
「……」
「身体じゃなくて……心が」
「ラナ……」
苦しげな表情を浮かべながら、ラナは自分の胸元で拳を握る。
「シャンクスが……私を愛してくれないから」
「……」
「だから、全然足りないの」
「……だからって、他の男に抱かれる理由にはならないだろ」
「だって……シャンクスが心配してくれるから」
「……バカ野郎」
シャンクスはラナの履いているスカートを太ももの上までたくし上げると、予想通りのその光景に深い溜め息を吐いた。
「また痛くされたのか」
「してって言ったの」
「……」
シャンクスは立ち上がると、船長室に置いてある医療品に手を伸ばした。
消毒液をガーゼに含ませると、そっとラナの太ももに滑らせていく。
「っ、」
「痛いか?」
「っ、うん」
「なら、もうやめろ」
「じゃあ、私を愛して」
「愛してるよ」
「そうじゃない」
きっぱりとそう言うと、ラナは歪んだ瞳でシャンクスをまっすぐに見つめた。
「***さんのことみたいに、愛して」
「……」
「仲間としての愛じゃ、私は足りない」
「……無理だ」
「……」
「身体はどうにかなっても、心はどうにもならない」
シャンクスは、ラナから瞳をそらさずに言った。
「おれは、***以外の女を、女としては愛せない」
「っ、」
ラナの大きな瞳から、雫が溢れ出す。
「これ以上自分を痛めつけるなら、おれはもうおまえを抱かない」
「いやっ……! そんなのやだっ」
「じゃあ約束してくれるな?」
「っ、」
こくこくと、大きく首を上下に振って、ラナはシャンクスに抱きついた。
「ごめっ、なさいっ、シャンクスっ」
「……あァ」
「おねがいっ、きらいにっ、ならなっ」
「ならない。ならないから、もう泣くな」
優しく抱きしめながら、頭をそっとなでてやる。
これでまた2ヵ月。……いや、1ヵ月は大丈夫だろう。
つまりは、1ヵ月経ったら、ラナはまた、同じことをする。
そしてまた、先ほどの会話のやり取りをシャンクスと繰り広げるのだ。
結局、堂々巡り。
育ってきた環境がそうさせたのか、ラナは自分を痛めつけるくせがついている。
特に、抱かれ方がひどかった。
生死を彷徨うほどの痛みを与えられないと感じないと、出会った頃のラナはそう言った。
見かねたシャンクスは、ラナに望まれるがまま、ラナを優しく抱いた。
少しずつ、そういう身体の重ね方を覚えれば、いつか愛した男ができたとき、ラナは本当の意味で快感を覚えられるようになる。そう思ったからだ。
しかし、予想外のことが起きた。
ラナは、シャンクスに恋をした。
『シャンクスのことは好きにならない』
『抱かれ方を教えてほしいだけ』
その約束ごとを、ラナは守れなかった。
そのことに気付いたシャンクスは、すぐに関係を終わらせた。
だが、ある日、ラナが瀕死の重症で船に戻ってきた。
『シャンクスが、私を抱いてくれないから』
意識を取り戻したラナが、一番最初にシャンクスに言った言葉だ。
『甘やかした頭が悪い』
これは、ベンに言われた、もっともな一言。
突き放したらあっさり死んでしまいそうなラナを、仲間として、どうしても放っておけなかった。
もう同じことはしないと約束させて、またラナを抱いた。
しばらくは約束を守っていたラナだったが、シャンクスの心が自分にないことを痛感した時。
ラナは快感のためではなく、シャンクスの気を引くために再び自分を痛めつけ始めた。
ラナは、芯の強い女だ。
いつかきっと、自分の力で立ち上がれる。
その時が来るまで、決してラナを見捨てはしない。
シャンクスは、そう心に決めている。
例えそれが、幾年かかったとしても。
「これだからベンに怒られるんだな、きっと」
「? 副船長がどうしたの?」
「……いや、なんでもない。さ、寝るぞ」
「抱いて、シャンクス」
「……」
「シャンクスに、優しくされたい」
「……あァ、わかった」
困ったように笑うと、シャンクスはラナの唇にキスを落とした。
ほとほと、甘い
男なんて、いくつになっても女の涙に弱いもんだ。[ 5/20 ][*prev] [next#]
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