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大人になってからの恋ほど難しいものはないと、最近になってよく思う。
まっすぐな情熱、それだけで想いを伝えられたのは、若さゆえ。
大人になると、今まで私のどこにこんな感情が潜んでいたんだろう、なんて思うくらいに、怯えとか、弱さとか。
そんな、小さな小さなしがらみが、ひとつひとつ胸に膨らんできて。
想いを伝えるって、どうやってするんだっけ、なんて考えてしまう。
そんな、ただでさえ臆病になっている心に追い討ちをかけるように、たいがい、好きになった相手には、もうすでに、お姫様がいたりして。
それが若い人なら、『いつか別れるかもしれない』なんて淡い希望も持てるかもしれないけど。
私の想い人のように、もう酸いも甘いも味わっているような人では、その希望は極めて薄い。
お姫様の座っている椅子は、もう空くことはないだろう。
それでも、どうしようもなく、惹かれて。
どうしようもなく、溺れている。
あの人は、海だ。
一緒にいればいるほど、その広さや、深さを知って。
それを思い知らされるたびに、叶うわけがないのだと、泳ぐことをあきらめかけてしまう。
それでも、
あの瞳に、ほんの数秒、見つめられるだけで。
あの声が、ほんの少し、耳に届くだけで。
あの腕が、ほんの一瞬、私に触れるだけで。
泣き叫びたくなるほど、愛おしい、と実感してしまって。
ああ、
たった1日、
ううん、5分だけでもいい。
嘘でも、かまわないから。
だから、
私を、
愛してくれませんか。[ 1/20 ][*prev] [next#]
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